現状を整理しましょう①︰教えて
※③までが第2話です
「角を折ったニンゲンに、お渡しする謙虚さは特にないノで」
「あと、角が生えるまでどこにも行けないんでここに住むからヨロシクお願いシマス」
もしこの部屋に悪魔が居なければ、セラフィアは奇声を上げながら暴れ回っていただろう。……嘘だ。実際にする時は気が狂った時だろう。
ただそれぐらいに理不尽な状況というだけで。
叫び出すのを寸でのところでやめて、息を止めた。六秒間だけ、同時に目を瞑る。
昔、教えて貰ったのだ。お前は感情的になりやすいから、もし怒っても状況が変わらなければこうしろ、と。
六秒後に目を開いて悪魔を見た。
スカした顔をしている。さっき見た時よりもよっぽど気に障る。
ただ、ひとつ。怒りよりも気になる事を発見したから何もしなかった。
「悪魔」
「モルティアス」
「え?」
「名乗りマシたよね。アンタだって、人間と言われたら苛つかないンですか」
生憎、書物を見る限りはそうではないと思うが、自身として見ろと言われたら頷かざるを得ない。聞きたいことを優先して、飲み込んでやった。
「……モルティアス」
「なんですか」
「教えなさい。私がここに来るまで何をしたのか」
違和感はそこら中にある。
例えば、ベッドに入っているのになぜセラフィアは修道院の服を着ているのか、とか。
これを聞いた悪魔、もといモルティアスは一瞬だけ口角を上げたあと、大きな目を細めながら言う。
「対価は何がいい?」
「あなた、対価を要求するの」
「欲しいものがあるんデスよね」
「できることか確認して差し上げるわ」
「過去」
「は?」
「セラフィアの今までのイキザマを教えて」
「そんなモノが欲しいんですの!?」
「……珍しいですね」
「え?」
モルティアスは、いっそう面白そうに目を輝かせていた。
「逆にワタシのカチはそんなもんじゃありませんワヨとか言いそうなのに」
「不敬罪で処刑されたいの」
「デキるモノなら」
「生意気な上に、傲慢ね。でもいいわ」
ぱんっと手を叩いてみせた。
「私は王妃教育を受けた者なのよ。全世界の国民に対して、知られてはいけない行動なんてありやしないわ」
余裕そうに笑ってやればモルティアスの瞳が今度は驚きで揺れた。
「むしろ残念だったわね。条件にする必要なんてないものに価値をつけて」
セラフィアに対して余裕そうにニヤニヤとしていた顔が、変わったのが分かる。
「……ふーん」
「なに」
「別に」
「言いたいことがありそうじゃない」
「……王妃教育受けてたんデスね」
「そうよ、今まで王太子様の婚約者だったんだから」
「じゃあなんで、こんなところにいルンですか?」
あくまでも不思議そうに問う彼に悪意はなくて、純粋な瞳で問われるのは初めてだったから少しだけ面食らった。
「なんで、ね」
「あと、呼び捨てにしても怒らないンデスね。チョーゼツオジョーさまの癖に」
「単純に、気になるのよ」
「ナニですカ?」
「アンタが、そんなに私の過去を気にするのが」
「ふーん」
「なんで気になるのよ」
「……ヒトとしてのキョーミ?」
「そんな下らない嘘なら、怒ろうとも思わないわ」
「そう」
「それに、私も気になりますの」
「ナニが」
「貴方のことを。だって、悪魔なんでしょう? それなのに、私に角を折られたなんて、そんなおかしいことを言うんですもの」
モルティアスは顎に手を当てて、首を傾げる。
「嘘か誠か、特別にこちらで判別してあげても宜しくてよ」
「……ホントって、言ってるんデスけどね」
「悪魔の言う本当は嘘だと教わったわ」
「魔術師がコトバ遊びで使うエセロジックのヤツですか」
「なによそれ」
「……ダカラ、何を話すにしても教えてもらわナきゃ、こうなるんですッて」
呆れてるのかは知らないが、どうやら何かを聞くにあたってお互いの世界の常識を知らないと何も始まらないことだけは理解した。
一生、問答が続いたって時間の無駄だ。
改めてモルティアスを見る。セラフィアより数歳年下に見えるが、悪魔の年齢など自在に変えられる者もいるから見た目で油断をするなと家庭教師の先生から聞いていた。
「まず、……私は、公爵家の長女よ。今だって廃籍されていない、正真正銘の貴族よ」
「はイ」
「ちゃんと聞きなさいよ」
はぁ、とため息をひとつ吐いてから伝える。まずは、本当の意味でちゃんと伝えてから何か言ってやることにしたのだ。
「私が、ここに来るきっかけは、とある令嬢が学園に転入してきたからよ」
これは私の、本当にしょうもなくてみっともない、失敗のお話。
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