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婚約破棄された悪役令嬢は悪魔を飼う  作者: のくと
第1章:悪魔を拾いました

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悪魔との出会い③︰強制送還






「ここは、精霊界、なんですが……」


  一体、なんで。どうして。

 確かに微かな違和感はあったが、それにしてもセラフィアは精霊界に行こうとした記憶は一切ない。いつ雨がやんだのかも。


 咄嗟にこの悪魔が来させたのか問おうとして、違うなと思い直す。だってこの悪魔は、他人事のように驚いていた。


「………だから、呑気に草むらで寝転んでいたのですね」


 気付けば歩いている道も変わっていた。砂利道は森の中にある長閑な草むらへ。

 そして、セラフィアの服も一片の濡れひとつない状態に変わっていた。


「寝転んでいた……ま、まあ……そう、ですね……」


 どっち付かずの返答は、セラフィアの癪に障る言い方だったが飲み込んだ。

 それより大切なことがある。伝えなくてはいけなかった。


「どうすればいいのですか」

「え?」

「決してこの世界にお邪魔しようと思って足を踏み入れた訳ではありません。気付いたら迷い込んでいたのです。何かしようと思ってはおりませんの」

「はあ……」


 教科書で言われる悪魔は、人間と同等の知能を持つけれど本能的と書かれていた。遭遇したら、動物と思えと。けれど、目の前にいる悪魔は人間くらい──いや、人間以上に理性的だなと感じた。


「だから、出る方法を教えてくれません?」

「……」


 悪魔が口を開く前に、言葉を紡いだ。


「無論、褒美は公爵家の名において、相応のものを用意いたしましょう。貴方にとって必要と感じるものは分かり兼ねますので、なんなりと仰って頂いて構いませんわ。ご用意出来るだけ差し上げます」


 どう答えようか迷っているのだろう悪魔をじぃと見つめ続ける。そうしたら、逃げるように下に視線を逸らしていた彼と目が合った。ようやく、重い口が開く。


「……なら、お前の名前を教えて?」


 怯えた様に見せる表情の中に見えるのは、確かな欲望の炎。


 ──嗚呼


「やっぱり貴方、悪魔ですのね。わざと隠すなんて勿体ぶらなくていいですわよ」


 つい、フフフ、と元来の笑みが零れてしまった。


 やっぱりだ。見せるとしたらこの時だと思っていた。見てくれは小動物みたいだ。

 害はないと思わせるその素振りなんて本来する必要はないだろうに。やっている理由なんてやりやすいからだけに決まっている。


 それを受けた悪魔はというと──


「……別に、言わないならどうでもいいですケド」


 と言って、セラフィアの手を退けようとした。


 これは意外だった。悪魔なんぞプライドが高い生き物と聞いていたから、怒るだろうと思っていた。

 怒るどころか興味の色を失うとは。


「お待ちくださいまし。まだ、お話は終わっていません」


 セラフィアは退かれた手で悪魔の腕を掴む。悪魔の腕は棒のように細かった。


「は? やめてください。……こちらはもう用はないので」


 パシリ、と腕を払われた。まるで邪魔な虫をいなす様に。

 セラフィアなんてどうでもいいのだ。世界の隅っこにいるかどうかの存在としか見なされない。

 随分、舐められたものだ。あとから思えば怒りに我を忘れていた。


 だから、だ。


 だから、言ってしまったのだ。



「セラフィア」


「へ」


「セラフィア。これが私の名前よ」



 驚きの色を浮かべる悪魔に、セラフィアは追い打ちをかける。



「喜びなさい。お前に十二人の名前を追加でくれてやるわ」



「何を、言ってるんですか」

「名乗った代わりにお前と契約をしていいわ。その代わり、私に呪いを授けるのは最後にしなさい」


 信じられないとばかりに口が歪んだまま返す言葉に窮しているその姿にスッキリした。


 ──が。そのあと、の言葉は頂けない。



「い、いやいや、そんなもの必要だなんて言ってないですケド」

「なら、何もせずに元の世界へ返してくれるということかしら。随分人情深い悪魔だこと」

「どっちもしたくないですが……」

「それをする為には私の命を奪う必要がありそうね。それなら魂を取らないなんて愚かな真似はしませんわよね?」


 間髪入れずに追撃をし続けたところ、とうとう悪魔がため息を吐いた。


「……本当、懲りないオジョウサマですね」



 悔しいのかワントーン下がったその声に、なんだか気持ちが昂るのが分かる。久々かもしれない。誰かに勝ったのは。


「誰よりも諦めは悪いに決まっているわ」

「そうなんデスね……じゃあ、」


 悪魔がため息を吐いた。



「きゃぁっ!?」



 その瞬間、風が吹いた。もの凄く強い風が。

 長髪が顔を覆い隠そうとするから、危ないと腕で髪の毛を束ねようとしたが、もう世界はそれどころではなかった。空気の渦が身体を飲み込んでいく。大きな音を立てて、渦の中心へと近付いていく。地面ごと、身体が動かされていくのが分かる。




「……我が名は、モルティアス。気まぐれで、迷い込んだ生娘を送ってあげる」




 地面に飲み込まれる直前、そう、微かに声が聞こえたような気がした。






お読み頂き誠にありがとうございます!

1日ひとつ更新していきたいなと考えております。


もし、少しでも良いと思って頂けたら、ブックマーク、評価、リアクション、感想など頂けますと幸いです!

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