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敵国に嫁いだ長女は振り返らない ~元婚約者ヴィンセルside~  作者: 鷹居鈴野


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二度目の嘆願

 王への嘆願書を書いたのは、夜だった。


 机の上に、勲章の授与状と、封地の権利書と、継承順位の写しを並べた。全部、俺がこれまでの人生で積み上げてきたものだ。それを一枚ずつ、差し出す側の書類に移していく。


 馬鹿げている、と自分でも思った。


 思いながら、手は止まらなかった。


 *


「――婚約解消と、リュシオラ王女殿下との婚約を、嘆願いたします」


 *


 嘆願書を出してすぐ、俺とリディエンヌは、そろって陛下の御前に呼び出された。


 その日の朝、支度をしながら、俺は正直、気が重かった。


 覚えている限り、リディエンヌはいつも、俺に対して情熱的な目を向ける女だった。六つの頃からずっとそうだった。俺がどれほど冷たくあしらっても、そっけなくしても、彼女はいつも、諦めずにすがりついてきた。今度も、きっと同じだろうと思っていた。泣いて、縋って、行かないでくれと、俺の袖を掴むだろう、と。


 覚悟を決めて、御前に立った。


 ――だが、そこにいたのは、俺の知るリディエンヌではなかった。


 背筋を伸ばし、表情ひとつ動かさず、陛下の御前で淡々と言葉を紡ぐ、ひとりの淑女だった。


「グランハルト卿の嘆願、拝見いたしました。……私からは、特に異存はございません」


 その一言に、俺は自分の耳を疑った。


「異存が、ない?」


「ええ。婚姻とは、双方の心が伴ってこそのもの。……卿のお気持ちが他所にあるのでしたら、無理にお引き止めする理由もございませんもの」


 あまりにも、あっさりとした返答だった。


 泣かない。縋らない。ただ、事実だけを、淡々と述べる声。


 彼女は、何か、変わった。そう感じたのは、そのときが初めてだった。


 *


 嘆願が受理された夜、俺は自分の部屋で、九年前の焼け焦げた髪飾りを取り出した。


 なぜか、どこか胸の奥が痛んだ。


 それがなぜなのか、最後まで、分からなかった。

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