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嘘つきは水曜日にやってくる  作者: 白川


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2/22

第2話 廊下の桐谷茉莉

 始業式は体育館でつつがなく終わった。

 校長の長い話、生徒会長の挨拶、新任の先生の紹介。透は副会長として最前列に座り、適切な角度で背筋を伸ばし、適切な瞬間に頷いた。長身の生徒会長の後ろに半歩控える位置で一年生の女子からの視線をいくつか感じたが、透はそれを意識から外した。

 体育館から教室への戻り道、廊下は混雑していた。

 三年生の各クラスが順番に体育館を出ていくため、A組とB組の生徒が同じ廊下に流れ込んでちょっとした渋滞ができていた。透はその流れの中で生徒会の事務連絡を頭の中で復唱しながら歩いていた。文化祭実行委員との顔合わせは今日の放課後。場所は会議室二。資料は印刷済み。司会は会長で自分は議事録。

 そこに女子の笑い声が斜め後ろから聞こえた。


「あー、それ、わかるー! 灯ちゃん、髪切ったの絶対正解だってー」

 透の前を歩く女子たちが少し道を譲って二人の女子が早足で横を抜けていく。

 桐谷茉莉と瀬尾灯。B組のふたりだった。

 茉莉はリボンを少し緩めに結んでいて髪を肩のあたりで揺らしながら笑っていた。

 灯は短く切ったボブの毛先を嬉しそうに指でつまんでいる。

「ほんと? 思い切ってよかったかなー」

「絶対正解。秋っぽくてかわいいー」

「茉莉ちゃんもこのくらい切ればいいのに」

「えー、あたしはロング派ー」

 茉莉の声はよく通った。

 高くも低くもなく、ただよく通る声だった。教室の中で誰の耳にも届きやすい音域で出されている声、と透は思った。考えてから、思ったというより分析している自分に気づいた。

 ふたりは透の横を気づかずに通り抜けていく。茉莉の視線は灯に向いていて、灯の視線も茉莉に向いていて、世界は二人だけのものだった。

 透はすれ違う瞬間に茉莉の横顔をほんの一瞬だけ見た。

 桐谷茉莉。

 文化祭実行委員。B組。今日の放課後、会議室二で顔を合わせる予定の相手のひとり。学年でも有名な、明るい人気者。

 ──以上だった。

 それ以上の情報は透にとって必要のないものだった。優等生として遠目に認識しているだけの、ひとりの同級生。クラスが違うので廊下ですれ違う回数も多くはない。文化祭実行委員として机を並べる予定はあるが、たぶん必要最低限の業務連絡で済む相手だ。

 透はそう判断して視線を前に戻した。

 桐谷茉莉の笑い声が後ろの方へと遠ざかっていった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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