第14話 友人たち
その翌週の月曜、放課後の教室で、瀬尾灯は桐谷茉莉の机の横で足を止めた。
「茉莉」
「ん?」
「最近、変わったよね」
「ええ、また?」
「うん、また」
「気のせいだよー」
「気のせい、じゃなくて、ね」
灯は茉莉の机の上の開いたままのノートをちらりと見た。
見たあと、視線を茉莉の顔に戻した。
「誰か、いるの?」
茉莉は机の上のシャープペンの後ろを人差し指の腹でちょんと押した。
カチ、と芯が出た。
「えー」
短い間。
「別に、いないよー!」
いつもの教室モードの語尾の伸びだった。
灯は茉莉の顔をしばらく見つめた。
茉莉も灯の顔を見つめ返した。
灯はふっと息で笑った。
笑って、自分の手帳をふっと肩のあたりで揺らした。
「ま、いいけど、ね」
灯の手帳の角に最近、一枚シールが増えていた。家のことで灯が自分なりに進めている何かのしるしだ、と教室の何人かがなんとなく気づいていた。茉莉はその一枚のシールに気づくていたが、深くは聞かなかった。それがたぶん茉莉なりの灯への返事だった。
灯はもう一度頷いて自分の席に戻った。
戻る後ろ姿に、茉莉はもう舌を出さなかった。
代わりに机の上のシャープペンの後ろをもう一度押した。
出た芯を茉莉はしばらく見ていた。
── ◇ ──
別の日の、放課後の廊下。昇降口の手前のロッカーで新名蓮は自分の靴を履き替えていた。隣では藤代透も同じことをしていた。蓮はロッカーの扉を、ぱた、と閉めた。
「藤代」
「ん」
「お前、最近、笑い方ちょっと変わったぞ」
軽い口調だったが、目だけはしっかりこちらを見ていた。
「そうか?」
「うん。悪い方じゃないんだよ。いい方の変わり方だ」
「説明になってないな」
「説明できる笑い方の変化なんて、まあ……ろくなもんじゃないだろ」
「確かに」
蓮はロッカーの前で肩をひと揺すりした。揺すりながら、ふと思いついた、という顔をして付け加えた。
「俺、推薦の書類さ、来週出すよ。サッカー部の枠で行く」
「ああ、そうか」
「お前は東大。頑張れよ」
「ああ」
蓮の声にはこちらを揶揄う気配はなかった。蓮は蓮で自分の足元を見ていた。透はその『自分で決めたこと』の重さを横からぼんやりと感じた。
「だから、まあ」
蓮はもう一度肩を揺すった。
「続けろよ、それ」
短い一言だった。
「え?」
蓮は笑ってロッカーの前から昇降口の方へ、先に歩いて行った。
歩いて行く背中を、透はしばらく見ていた。
見ていたあと、自分のロッカーの扉を、ぱた、と閉めた。
閉めた音の中で、蓮の言葉だけがまだ耳の奥に置かれていた。
続けろよ、それ。
蓮は契約のことを知らない。知らないが何か感じて、それを続けろと言った。
昇降口を出た先の校庭の風はもう十二月の終わりの風だった。透は口の端がふっと上がるのを自分で感じた。
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