アンラッキーヒーロー38
二人がかりで足蹴にされながらも、宮部は満足だった。喧嘩などしたことがなかった宮部は無抵抗なまま何度も何度も蹴られたが、悔しさも恐怖もなかった。もとから捨てるつもりでいた命だ。失われたとしても、大したことではなかった。
肋が軋み肩が腫れ額が流血したが、不思議と大した痛みがなかった。きっと、逃げ帰った方がずっと痛みが酷かっただろう。
きっと宮部は信者たちの気が済むまで蹴られた挙げ句に、日凪と同じようにナイフで刺されるのだろう。それでも、どうにか逃げなければならないという意識はなかった。ただ、日凪と女の子は助かれば良いのにと、まるで他人事のようなことを考えた。それは、とても安楽な気分だった。
そのとき
遠くでパトカーのサイレンの音が鳴った。日凪が予め呼んでいた応援が、ようやく姿を現したのだ。
「やべっ!」
信者たちは声をあげて逃げ惑い始めた。こういうことには慣れているらしく、半分割れた窓を落ちていたパイプ椅子で殴って割り、退路を確保した。
体中のあちこちが悲鳴をあげているのもかまわず、日凪のそばに這っていった。
「宮部くん…よくやった。お陰で時間が稼げた……」
日凪は弱々しい声で、宮部を褒め称えた。実際、この事件での宮部の働きは極めて大きかった。しかしながら、結局のところ人死にを出してしまうようでは意味がない。少なくとも宮部はそう思った。




