アンラッキーヒーロー27
日凪は体を低くして廃工場に入っていった。宮部は惨めだった。結局のところ、彼には何もできないのだ。放り捨てられた鉄骨の上に座ったまま、思索に耽ることぐらいのものだった。
宮部はビル火災のことを思い出していた。
去年のことだというのに、まるで昨日のことのように覚えている。彼の記憶力が優れているわけではなく、彼が外界と接触した最後の記憶だからだ。それを最後に、彼は人と関わることを止めてしまったからだ。
あの日は、親友の山倉と一緒に買い物に出ていた。前々から宮部が探していた中古ゲームを、山倉が店で見たというからだ。
目当てのものは見つかった。
大手メーカーのゲームではない、テレビで宣伝されていたわけでもない零細メーカーの作った、いわゆる隠れた名作シリーズだ。世紀末の荒れ果てた世界を戦車に乗って暴れまわる魅力的な作品だが、マスメディアと絡む資産がデザイナーに無いために販売数は今一つだ。
「面白いかどうかじゃなく、資金力で勝負が決まるような業界ではいずれ詰むぞ」
と山倉が言ったのを覚えている。
山倉の熱弁の最中に、別のところで火の手が上がった。
開け放しにされていた窓から、ビール瓶のようなものが店に飛び込んで来た。飲み口に紙切れが差し込まれていて、火が点けられていた。それが何なのか、宮部も山倉も知らなかった。30年ほど昔のゲリラ戦で用いられた、火炎瓶という簡易兵器だった。
瓶が割れると、中身のガソリンが飛散して炎が撒き散らされた。山倉のそばにあった書籍コーナーに、あっという間に燃え移った。




