表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/68

私さえ......

いつもお読み頂きありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。

 

side 皇遥


「みんなおはよー」


 翌日の学校。

 いつもと変わらないあいさつを意識して教室に入った。

 クラスメイトとあいさつを交わす合間、後ろの席に目を向けると、そこには直美がいて、鈴木くんと加藤くんもいて、みんながいつも通りの日常を送っている光景に安堵する自分がいた。


 よかった。


 昨日の出来事は全部ゲーム内での話で、ログアウトした後にも3人とはメッセージのやり取りをした。

 それでも不安だった。


 何かが変わってしまってるんじゃないか。

 もしかしたら、誰かがいなくなってしまってるんじゃないか。

 そんな漠然とした不安をずっと抱えながら、今の今まで過ごしてきたから。


「あ、遥おはよー」


「おはよう直美」


 直美とあいさつを交わす。

 直美の様子はいつも通りで、昨日のことなんて何もなかったかのように接してくるから、私も気にしてない風を装った。


「おはよう皇さん」


「皇さんおはよう」


「鈴木くんも加藤くんもおはよう」


 2人もいつも通りの笑顔であいさつをしてくれた。

 だから私は、自分に言い聞かす。


 大丈夫。

 何も変わってない。

 みんなちゃんと元気だ って。



「昨日はごめんね。みんな頑張ってくれたのに、やられちゃった」


 雰囲気が暗くなり過ぎないように気をつけて話す。

 バトルに負けたことは昨日のうちにメッセージで伝えてあったけど、直接会って謝りたかった。


「いやいや、昨日も言ったけど、俺なんて一番最初にやられたし、皇さんが謝ることないって」


「そうだよ。それに僕らだけだったら、3人も倒せなかったから、むしろお礼を言いたいくらいだよ」


 鈴木くんも加藤くんも負けたことを全然気にしてないみたいに、優しい言葉をかけてくれる。


「......ありがとう」


 そんな2人の気遣いが、今の私にはすごく嬉しい。



「それでさ、昨日遥が言ってたレギュラーメンバーが ってやつ。あれってさ、マジなんだよね?」


 直美が真剣な表情で聞いてくる。

 それにつられるように、鈴木くんと加藤くんの表情も真剣なものに変わった。


 それもそのはずだ。

 今まで戦っていた相手がただの補欠メンバーだったなんて、笑えない話だから。


 だけど私は頷かなきゃいけない。

 それがミナトさんが口にしたことだから。


「......うん、そう言ってた」


 そんな私の言葉に3人の表情が暗くなる。


 しばらくの沈黙。

 最初に口を開いたのは鈴木くんだった。


「......でも、まぁ、正直納得っていうかさ。ランカーがあんな弱い訳ないとは思ったんだよなぁ......」


 そう言って、腕を組みながら天井を仰ぐ。

 そして、それに同意するように加藤くんが頷く。


「うん。僕もランカーにしては......とは思ってたけど、まさか本当にそうだったなんて思わなかったよ」


「だよな。

 こんな事なら、GENESISのレギュラーメンバーの顔くらい、ちゃんと覚えておくんだったなぁ」


「だね。完全にやられたって感じだよ」


 2人共私と違って強さに違和感を覚えていたらしく、驚きつつも ものすごいショックって感じではなさそう。

 そこはさすがマギア歴が長い2人だと思いつつ、もしかしたら勝てるかも、なんて考えていた自分が恥ずかしくなった。


「でもさ、実際そうだったからってやることは変わらないわけじゃん?」


 直美の言う通りだ。

 事実がどうであれ、私達が取れる選択肢なんて一つしかない。


「だな。元々勝つことが目的で戦ってた訳じゃないし、あんま関係ないか」


「うん。僕達は今まで通り戦いを続けて、向こうが飽きるのを待つだけだよ」



 昨日のメッセージでの話。

 直美達は最初からGENESISに勝てるなんて思ってなかったらしく、向こうが飽きて関わってこなくなるまで、ずっと戦い続けるつもりだったそうだ。


 そのことを知って、最初に感じたのは強い罪悪感だった。


 私、余計なことしちゃった。


 私が関わらなければミナトさん達は、もしかしたらあと数回戦うだけで直美達から手を引いていたかもしれない。


 だけど私が関わってしまったせいで、直美達の作戦が振り出しに戻ってしまった。

 ううん、もっと酷い状況になってしまった。


 だからすぐに謝った。

 みんなを助けるつもりが、逆にみんなの頑張りを全部駄目にしちゃったんだから。


 でもみんな許してくれた。

 直美には少しお小言をもらっちゃったけど、それでも許してくれた。

 また頑張ればいいか ってみんな言ってくれた。

 そんな気持ちが嬉しかった。


 だからこそ伝えられなかった。

 ミナトさんの狙いが、私の心を折ることだって。


 だってそれを伝えちゃったら、みんなは絶対 私を関わらせようとしないから。

 私が原因を作ったのに、みんなが大変な目に遭うのをただ見てるだけなんて、私にはできないから。


 大丈夫。

 私の心が折れなければいい話だ。

 ミナトさん達が手を引くまで、私が......



「......ねえ遥。ちょっと聞いてんの?」


「え? あ、ごめん。ちょっと考えごとしてて......それで、何の話だっけ?」


 体を揺すられ、自分の考えに没頭していたことに気づいた私は、直美に呆れの混じった表情を向けられる。


「はぁ......このことは黒月には黙ってるって話。

 ったく、あんたが一番口を滑らせそうなんだからしっかりしてよ」


「あはは、ご、ごめん」


 また直美に怒られてしまった。


 これも昨日のメッセージで話し合ったこと。

 黒月くんなら、事情を知れば力になってくれる。

 だけど黒月くんがGENESISと関わるとなると、ワタルさんはきっと黙っていない。

 黒月くんの為に必ず行動を起こす。

 それはワタルさんに限った話じゃない。

 ミミさんも、セツキくんも、セツカちゃんも必ず黒月くんの為に動くはず。


 そして太陽と月は超有名ギルド。

 直美達は、そんな人達を自分達の揉め事に巻き込んで、迷惑をかけてしまうことに強い抵抗を感じている。

 だから自分達だけで何とかしようとしている。

 このことが少しでも黒月くんの耳に入れば、きっと直美達の為に動こうとするはずだから。


 私自身、黒月くんには内緒で、という直美達のやり方には賛成している。

 直美達の迷惑をかけたくないっていう気持ちもすごくわかる。


 でも、私がそうしたい理由は別にある。


 黒月くんの隣に立つ為に、自分の力で何とかしたい、解決したい。

 昨日まではそれが理由だった。


 だけど昨日のバトルで自分の考えの甘さを知った。

 ミナトさんと対峙して、戦って、トップランカーの強さを肌で感じた。


 圧倒的だった。

 私なんて足元にも及ばない。

 そんな強さだった。


 だからこそ、黒月くんを巻き込みたくないと思った。


 でもそれは、黒月くんがミナトさんより弱いと思ったからじゃない。

 黒月くんは世界で一番強い。

 それは私にとってずっと変わらない事実で、今だってその思いに一切の揺るぎはない。


 だけどそれが、一対多だったら?


 黒月くんは、きっと一人で全部解決しようする。

 GENESISのメンバー全員と一人で戦おうとする。


 私にはわかる。

 黒月くんはそういう人だから。

 大丈夫だ って優しく笑って、全部一人で抱え込んじゃうような人だから。

 

 シンヤくんと戦ってる時のミナトさんは、明らかに手を抜いていた。

 私の全力の魔法でも、シュウジさんの結界は壊せなかった。

 そんな強さのメンバーがあと4人もいる。

 いくら黒月くんが強くても、勝てるイメージが全然浮かばない。


 だから私は話さない。

 頼らない。

 黒月くんは、誰にも負けない世界で一番強い人でいて欲しいから。



「ぁ......」


 そんな私の耳に、加藤くんの漏れ出たような声が届く。

 加藤くんの視線が向いているのは後ろの扉。

 誰が来たのかなんて、見なくてもわかった。



「じゃ、そういうことでよろしく」


 同じように気づいた直美が小声で指示を出す。

 私達は視線で頷き合い、普段の雰囲気を作り出した。


「黒月おはよー」


「おはよう黒月」


「黒月くんおはよう」


「......ああ、おはよう」


 直美、鈴木くん、加藤くんが黒月くんとあいさつを交わす。

 いつも通りの光景。

 違和感は何も感じない。


「黒月くん、おはよう」


「......ああ、おはよう」


 黒月くんが自分の席に座るタイミングであいさつをすると、私に一瞥もしないであいさつが返ってきた。


 相変わらずの素っ気なさ。

 だけどこれも日常の光景。

 何もおかしい所はない。


 なのに席に着いた黒月くんは、すぐにこちらに顔を向け、ジッと私の顔を見つめてきた。


「な、なに? どうしたの?」


 突然のことで声が少し裏返っちゃったのは、仕方がないと思う。

 だけどそんな些細なこと、黒月くんは気にならないようで、


「......皇、何かあったか?」


 さっきまでの無気力で素っ気ない黒月くんじゃない、真剣な表情の黒月くんが、私にそう問いかけてきた。


 普通ならバレたかもと焦る場面。

 だけど私は嬉しい気持ちになった。


 黒月くん、気づいてくれたんだ。


 自分では完璧に隠しているつもりなのに、黒月くんはあっさり見抜いてきた。

 それって裏を返せば、いつも私のことを気にかけてくれてるってことで、そんなの嬉しくないわけがなくて。


 だからこそ、隠さなきゃいけない。


「ううん、何もないよ」


 私は平静を装って返事をした。

 黒月くんを巻き込みたくないから。


「......そうか」


 少し間があって、黒月くんは答えた。

 きっと何か思うところがあったのかもしれない。

 だけど、それ以上黒月くんが何かを聞いてくることはなかった。




 朝のホームルームが始まった。

 先生が教壇でこれからの予定を話す中、私は黒月くんにこっそり話しかけた。


「黒月くん、ありがとね」


 突然のお礼の言葉。

 黒月くんからしたら、何のことかわからないと思うけど、さっきのこと、いつもと違う私に気づいてくれたことにどうしてもお礼を言いたかった。


「ん?......何のことだ?」


 案の定、黒月くんはわかってないみたい。

 だけどその理由を話すことはできないから、


「ううん、なんとなく言ってみただけ」


 私は、適当な嘘で誤魔化した。


「......そうか」


 でも、この気持ちに嘘はないから。


 ありがとう黒月くん。

 これで私は、GENESISと戦える。





 学校が終わり、私達4人は昨日GENESISと戦った場所にやってきた。

 私達が着いた時には、既にGENESISのメンバーは来ていて、私を見るなり相変わらずの笑みを浮かべたミナトさんが話しかけてきた。


「ハルカちゃん、こんばんは。ちゃんと来てくれて嬉しいよ。......ところで今日は4人なんだね」


「はい。私がいれば問題ないですよね?」


 ミナトさんの目的は私。

 だからモミジさん達には、ナオから来ないように伝えてもらった。

 これからここで起こるのは、今まで以上に一方的な戦い。

 見ないで済むなら、それが一番いいから。



「......まぁ、それもそうだね」


 予想通り、ミナトさんからの反論は特にない。

 本当に目的は私だけみたいだ。


「じゃあハルカちゃん、昨日言った通り、今日からは正真正銘GENESISのフルメンバーで戦わせてもらうね」


 笑みを深めたミナトさんの周りには、昨日までいなかった4人に、シュウジさんを含めた5人のメンバー。

 昨日のメンバーとは明らかに違う、強そうな装備に身を包んだ4人の、無遠慮な視線が突き刺さる。


 やっぱり同じなんだ、この人達も......


 今まで色々な男の人から向けられてきた視線。

 その視線の意味するものは否が応でも理解してしまう。



「......ショウちゃん」


「......ああ、わかってる」


 そんな私とナオを庇うように、シンヤくんとショウくんが前に立つ。


 さっきまでと違い、私の視界に映るのは2人の頼もしい背中。

 それだけで気持ちが少し軽くなった。

 だから、


「ありがとう」


 2人に感謝の気持ちを伝える。


「シンヤもショウもカッコつけ過ぎ」


 ナオは相変わらずの物言い、だけどその表情には笑みを浮かべている。



「ハルカちゃん、一応始める前に聞くけど、GENESISに入る気はある?」


 ミナトさんが口にしたのは、昨日と同じ質問。

 だから私は、昨日と同じ返事をする。


「入りません!」


 何度聞かれたって、何をされたって、私の答えは一生変わらない。


「......ま、そうだよね。じゃあ始めようか。

 ちなみに、昨日みたいな手加減はないと思ってね」


 ミナトさんの雰囲気が変わり、空気が張り詰める。


 昨日も感じた威圧感。

 私はすぐにナオに話しかけた。


「ナオ、バトルは私達でやるから離れてて」


 こんな戦い、ナオが出る必要ない。


「......ハルカ、あんた何言ってんの?」


 ナオが私を睨んでくる。

 だけどこれは、みんなで決めたことだ。


「ナオさん、僕もハルカさんの意見に賛成だよ」


「ああ、こういうのは最初から俺達の役目だしな」


 ショウくんとシンヤくんには事前に話をした。

 2人共私の言葉に二つ返事で頷いてくれた。


「シンヤ、ショウ、あんた達まで......」


 ナオは2人に向けていた視線を下げて、拳を強く握り締める。


「......そういうことだから、ナオは遠くに離れてて」


 ナオが今どんな気持ちなのかは わからない。

 だけどこれは、言わば負けバトル。

 戦いが嫌いなナオが、これ以上戦う必要はない。


「......ごめん。ありがとう」


 ナオは絞り出すように、小さくお礼を言うと静かに離れていく。

 その後ろ姿を見送った私は、2人の背中に話しかける。



「ショウくん、シンヤくん、私のことは気にしなくていいから」


 昨日のミナトさんの話だと、私は最後まで生き残る。

 そして、ショウくんとシンヤくんが傷ついていく姿を見せられる。

 なら、私のことなんか気にしないで、2人には自由に戦って欲しい。


「いや、そうは言っても......」


「そうだよ。そういう訳には......」


 こちらを振り向いた2人が、口を噤む。



「大丈夫。私は絶対にやられないから」



 強い意志を乗せた視線を2人に送り、ハッキリと告げる。


 すると、なぜか2人の頬が緩む。


「......まぁ、確かにやられないだろうな」


「......だね」


 張り詰めていた空気が緩んだ気がした。

 よく見ると、2人の視線は私の後ろを捉えている。

 そして、



「......そんな理由じゃ、ショウもシンヤも納得しないと思うぞ?」



 聞き覚えのある声に思わず振り返る。


「......なんで」


 そこにいたのは、いるはずのない人で。

 いて欲しくなかった人で。

 でも本当は、隣にいて欲しいとずっと思っていた人で。


「......迷惑だったか?」


 優しい声に視界が滲む。


 ずっと心細かった。

 だけど相談できなくて。

 巻き込みたくなくて。

 自分がこの先どうなっちゃうのかわからなくて。

 すごく怖くて。

 すごく不安だった。


 だけど今、この瞬間、そんなものは全部なくなっちゃった。


「......ううん、嬉しい」


 ありがとう、クロ。

 全部クロのおかげだよ。


「そうか......」


 クロはそれだけ言うと、真っ直ぐミナトさん達を見据える。

 

「......なら、後は任せてくれ」

 

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ