VS GENESIS③
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日2話投稿しています。
こちらは2話目になります。
side 皇遥
「『獣装、酒呑童子』」
ミナトさんの体から緑色の魔力が溢れ出すと、髪が真っ白に変わり、額には発達した二本の大きな角が現れる。
っ......
そこにいたのは暴力の化身。
ただそばにいるだけで、プレッシャーに押し潰されそうになる。
なのにシンヤくんは、真っ直ぐミナトさんを見据えている。
足りないんだ。
経験も、強さも、覚悟も。
私はまだ、シンヤくんやショウくんの所にも辿り着いていない。
じゃあ黒月くんのいる所って、一体どれだけ遠いの?
「......じゃあいくから、頑張って死なないようにね『風神乱舞』」
「『水霊刀技─水鏡─』」
両手の柳葉刀に烈風を纏わせたミナトさんが、守りの体勢に入ったシンヤくんに襲いかかる。
凄まじい速度の斬撃。
手が何本にも見えるような猛撃を、シンヤくんは冷静に捌いていく。
だけど、
「っ......」
シンヤくんの体に、徐々に傷が増え始める。
さっきは全然平気だったのに......
工藤くんの時は余裕そうにすら見えたのに、今のシンヤくんは顔を顰め、ひたすらに防御に徹している。
「......ハルカさん! 僕が時間を稼ぐから、その間に強力な魔法を!」
「う、うん!」
激しい攻防の中、背中を向けたままのシンヤくんから声を受け、急いで杖に魔力を流し込む。
シンヤくんもわかってるんだ。
このままじゃ、やられちゃうって。
なら、私にできることは、シンヤくんに言われた通り強い魔法を。
さっきのよりも もっと強力な、なんでも倒せるような、そんな強い魔法を......
目の前、杖の先には小さな火球。
それが徐々に、徐々に、大きくなっていく。
だけど時間が足りない、全然間に合わない。
このままじゃ、シンヤくんが......
「ナオ! シンヤくんを回復して! お願い!」
今動けるも、回復できるのも、ナオしかいない。
そんな私の声に、ビクリと肩を震わせたナオが、慌ててシンヤくんに杖を向ける。
「ご、ごめんっ! シンヤ、今回復するからっ! 」
杖を持つナオの手が震えている。
ミナトさんのプレッシャーは、戦い慣れしている私でも押し潰されちゃうくらい凄いものだった。
それを戦いが嫌いなナオも受けたんだ。
普通でなんかいられるはずがない。
ごめんナオ。
無理させてるのはわかってる。
でも、今はナオに頼るしかないの。
「『ハイヒーリング』」
ナオの持つ杖の先が淡く光ると、シンヤくんの傷がどんどん癒えていく。
「シンヤ! 私がちゃんと回復させるから、死ぬ気で頑張んなよ!」
相変わらずの物言いで、シンヤくんに発破をかける。
返事こそ返ってこないけど、シンヤくんは苦笑いしているかもしれない。
だけど、これはナオなりの気遣いだ。
後ろを振り返れないシンヤくんは気づいてないと思うけど、ナオは相当無理をしている。
それでも普段の口調を心掛けているのは、シンヤくんに心配をかけないようにするため。
ありがとうナオ。
私も負けてられない。
杖を通し、火球に魔力を注ぎ込む。
煌々と燃える灼熱の火の玉は、バチバチと電気を帯び始める。
でもまだだ。
限界まで、いっぱいまで。
大丈夫。
まだ時間はある。
だってナオが、シンヤくんを回復してくれるんだから───
「『ルミナスレイ』」
直後、
一筋の光がナオの体、胸の中心を貫いた。
「......え?」
一瞬の出来事だった。
ナオが自分の胸の辺りに目を落とし、私を見て、困ったように眉を下げて、
「ハルカごめん。シンヤを───」
「ナオっ!」
光の粒子になって消えた。
「......ミナト、遊び過ぎだ」
「シュウジは遊ばな過ぎなんだよ......」
シュウジさんは眼鏡の位置を指で直し、何事も無かったかのようにミナトさんに話しかる。
ミナトさんも、それに合わせるように、シンヤくんの相手なんて片手間と言わんばかりに、普通に返事を返す。
「......それにほら、シュウジがあんなことするから、ハルカちゃん怖い顔になっちゃったじゃん」
ミナトさんに促され、私の視線に気づいたシュウジさんと目が合う。
その目は射るように鋭い。
だけどすぐ興味が失せたように視線を外された。
「......たかがゲームだ。それにこちらも人数を減らされてる。お互い様だと思うがな」
確かにその通りだ。
私だって一人倒してる。
だけど、そうじゃない。
そういうんじゃない。
「はぁぁ......シュウジはホント冷めてるね。ま、おかげで早く終わりそうだからいいけどね」
ミナトさんの言葉通り、シンヤくんの体にはまた傷が増え始めている。
たぶん限界が来るまでそう長くない。
一方的な戦い。
このままじゃ私達に勝ち目はない。
だけど、シンヤくんの目はまだ死んでない、諦めてない。
ミナトさんをしっかりと見据えている。
私だって諦めてない。
火球はほぼ完成している。
だからあと少し、もう少しだけ時間が欲しい。
シンヤくん!
あと少しだけお願い!
シンヤくんの背中に向けて、そう口に出そうとして、
「......ハルカさん、ごめん。あとのこと、お願いしてもいいかな?」
私は口を噤む。
あとのことって?
そんなの言われなくたってわかってる。
私だけ残ってどうなるの?
何が出来るの?
無理だよ!
不安しかないよ!
一緒に戦ってよ!
だけど、口には出せない。
シンヤくんの覚悟が見えたから。
気持ちがわかるから。
わかるよ。
シンヤくんだって、このままじゃ終われないんだよね。
だから私は、
「わかった! あとは任せてよ!」
シンヤくんの背中を押した。
何にも心配いらないから、全力でやっちゃえ!
そんな気持ちを込めて。
「......ありがとう、ハルカさん」
シンヤくんは背中を向けたまま、静かにお礼を告げる。
「『水霊刀技─水鏡・鳴鏡─』」
閃光が走った。
ミナトさんの斬撃に合わせ、シンヤくんが逆袈裟斬りを放ったのだ。
刃に纏わせた水が大量の飛沫となって飛び散り、ミナトさんの左腕が宙を舞う。
そして、
膝から崩れ落ちたシンヤくんが、光の粒子となって消えた。
私はすぐに動き出した。
もう私しかいないから。
私がやらないといけないから。
全力の、ありったけの魔力を込めて、杖を振りかぶる。
全てを吹き飛ばせ!
燃やせ!
焼き尽くせ!
「吹き飛べ! 『ファイアボルト!』」
杖を思いっきり前に突き出す。
特大の炎球が弾丸の速度で発射された。
凄まじい速度を持った超高熱体は、空気を燃やしながら、バリバリと放電しながら、ミナトさん目掛けて飛んでいき、
「......ああ、これは凄いね───」
視界を覆う大爆発が起こった。
やばっ!
予想以上の爆発に、慌ててローブの袖で視界を覆う。
一秒経たずに爆風が到達、大量の砂埃がローブを叩き、熱風がチリチリと肌を焼く。
やった......よね?
だって、あんなに凄い爆発だったもん。
そう自分に言い聞かす。
魔法は、今の私の限界の威力を出せた。
でも不安が頭をよぎる。
あれでダメだったら?
もう私しかいないのに。
不安な時、いつも隣にいて、安心させてくれた人に、心の中で問いかける。
ねぇ黒月くん。
もし黒月くんがいてくれたら、凄いなって、さすがだな って、褒めてくれるかな?
爆風が収まるのを待って、腕をどける。
ミナトさん達の姿は砂煙で確認出来ない。
だけど嫌な予感がする。
胸騒ぎがする。
そして、それは的中する。
「『ホーリーバインド』」
「うっ......」
突如足元に魔法陣が出現、避ける暇もなく光の束に拘束され、膝をついた。
「ハルカちゃん、さっきのは中々よかったよ」
ああ、やっぱり。
聞き覚えのある声に顔を上げ、予感が的中したことを知った。
砂煙が晴れた先には、ミナトさんとシュウジさんが立っていて、それぞれを正八面体の結界が守っていた。
上級結界魔法、守護結界。
ミナトさん達に、私の魔法のダメージは全く無かった。
「シュウジがいなかったら結構危なかったよ。まぁ死にはしないけどね」
結界を解いた2人が、私の目の前までやってくる。
普通は結界を解くなんて、そんな事しない。
もう戦いは終わったって思われてるんだ。
でも、それはその通りで、もう私には何も打つ手がない。
「それに青侍君の最後のアレもよかったね。見てよほら、左腕が無くなっちゃったよ」
ミナトさんは、左肘上、真ん中辺りから無くなった腕をこれ見よがしに見せてくる。
シンヤくんが決死の覚悟で与えたダメージ。
あんなに凄かったシンヤくんでも、ミナトさんの腕を一本落とすことしか出来なかった。
それでも凄かった。
私には見えないくらい速くて、本当に凄かった。
なのに、
「『エクスヒーリング』」
シュウジさんが回復魔法を唱えると、ミナトさんの左腕は何事も無かったかのように再生した。
再生してしまった。
シンヤくんの命を懸けた一撃が、こんなにあっさりと。
「あーあ、治っちゃったよ。もう少し余韻に浸りたかったのに」
治った左腕を見ながら、残念そうにミナトさんは呟く。
私はミナトさんを睨みつける。
シンヤくんをバカにされているようで、許せなかった。
でも、そんな私の視線なんて、ミナトさんは全く気にも留めず、饒舌に会話を続ける。
「でも3人も倒すなんてすごいよ。まさかここまでやられるなんて思わなかったよ」
確かにその通りだ。
手を抜かれていたとは言え、4人であのGENESISのメンバーを3人も倒したんだ。
しっかり作戦を練れば、今度こそ......
そんな私の考えは、ミナトさんの次の言葉で早々に打ち砕かれる。
「だけど、今日が最後のチャンスだったね。明日からはレギュラーメンバーが入るから、もうハルカちゃん達に勝ち目は無いよ」
え?
レギュラーメンバー?
待って、なにそれ?
そんなの聞いてないよ。
「......じゃあ、今日の人達は?」
唇が震えて、上手く声が出せない。
そんな私の表情を、膝を折って目線を合わせたミナトさんは、心底楽しそうに見つめながら、ニヤリと笑う。
「俺とシュウジ以外、全員補欠だよ」
「そんな......」
その顔で気づいた。
私は嵌められたんだ。
希望を持つように、それが砕かれて絶望するように、最初から全部、こうなるように仕組まれていたんだ。
「ていうかハルカちゃんさぁ、俺らって、ランキング5位のギルドなんだよね。
そのメンバーがさ、獣装も碌に使えない君の魔法一発で、やられる訳ないとか思わなかったわけ?」
言われるまで気づかなかった。
でも、言われてみると確かにその通りだ。
トップランカーが、私の魔法をすんなり受けて、しかもあんな簡単にやられるはずなんかない。
「......ハルカちゃん、俺らの事、ちょっと舐め過ぎなんじゃない?」
「っ......」
何も言い返せず口を噤む。
そんな私の表情を見て満足したのか、ミナトさんはうんうんと何回か頷いた後、私に問いかける。
「で、俺らの実力をわかって貰えた所で聞くけど、ハルカちゃんは、GENESISに入りたいですか?」
両手をこちらに広げ、満面の笑みを浮かべたミナトさんが、そんなことを言ってくる。
「......入るわけないじゃないですか」
ミナトさんを思いっきり睨みつける。
こんな事されて、誰が入りたいなんて思うの?
ミナトさんが何を考えているのか全然わからないよ。
だけど、次に続く言葉でミナトさんが意図していることを理解する。
「ま、そうだよね。
じゃあ、これからもハルカちゃんには最後まで生き残って貰って、GENESISに入りたいって言ってくれるまで、友達が死んでいく姿を見てもらおうかな」
瞬間、ナオが、シンヤくんが、目の前から消えていく姿が脳裏に蘇る。
理解した。
ミナトさんの狙いを。
だから私は、心が掻き乱されそうになるのを必死に抑えながら、平静を装う。
「......実際に死んだ訳じゃないです。そんなの見せられたって、私は絶対入りませんよ」
強い意思を込めて睨みつける。
だって、ミナトさんの狙いは、私の心を折ることだから。
でもそんなのは、とっくにミナトさんにバレていて、
「そう、たかがゲームだ。でもリアルだからね、結構心にグサッと来たんじゃない?
特に、ハルカちゃんみたいな友達想いの人には」
っ......
図星でしょ?
そう言わんばかりに、ミナトさんは笑みを深くする。
「じゃあ、今日はこれで終わりにしよっか。
それじゃあ、ハルカちゃん、また会おうね」
そう言ってミナトさんは、右手に持った柳葉刀で容赦なく私の胸を貫いた。
痛みはなかった。
でも刺された感覚はあって、自分が死んじゃうこともわかって......
そんな不思議な感覚のまま、私の視界は暗転した。
接続が切れたゴーグルをゆっくりと外すと、真っ暗になった自分の部屋の、見慣れた天井が目に入った。
いつもならすぐに体を起こして何かするのに、そんな気になれなくて、しばらくの間 何をするでもなくぼーっと天井を眺め続けた。
「私、負けたんだ......」
不意に、そんな言葉が零れ落ちた。
絶対の自信があった訳じゃない。
だけどきっと上手くいくと思った。
何とかなると思った。
だって今までがそうだったから。
口には出さなかったけど、心のどこかで、私には特別な何かがあるんだとずっと思っていた。
だけど、そんなことなかった。
私じゃダメだった。
全然足りなかった。
悔しい。
負けたのも。
考えが甘かったのも。
何も言い返せなかったのも。
全部が悔しい。
だけど、それよりも、何よりも......
視界が滲み、涙が溢れた。
頭に浮かんだのは、少し前に話すようになって、いつの間にか大好きになった、私の初恋であり憧れの人の姿。
「......ごめん」
せっかくあんなに気遣ってくれたのに。
私、死んじゃった。
「......ごめんね」
誰にも負けないくらい強くなって、褒めてもらいたかった。
喜んでもらいたかった。
期待に応えたかったのに......
「......黒月くん、私、負けちゃった」
お読み頂きありがとうございました。




