クラスマッチ②
side 皇遥
クラスマッチの2戦目で私達のチームは敗退した。
相手は去年の優勝クラス。
バスケットボール経験者が何人かいたみたいで、私達じゃ全然敵わなかった。
チームのみんなは「しょうがない」「運がなかったね」って言うけど、私と直美はその言葉に素直に頷けなかった。
だって最後まで頑張って戦った人はそんな平然とした口調でその言葉を口にしないから。
所詮お遊びのクラスマッチだから本気になるなんてバカバカしい。
そんな気持ちが伝わってきて、何も言い返す気にならなかった。
でも、そんな試合でも諦めずに最後まで戦ってよかったって思えた。
だって黒月くんが試合を観に来てくれたんだもん。
行けたら行くなんて言うから絶対来てくれないと思ってたけど、ちゃんと観に来てくれた。
隣に加藤くんがいたから、もしかしたら加藤くんが連れてきてくれたのかもだけど、それでも観に来てくれたことには変わりない。
試合の終盤「もういいや」って思った時、直美が来て「黒月が観に来てるから、いいとこ見せなよ」って教えてくれた。
試合直前にくれたメッセージでも来るなんて言ってなかったし、ギャラリーを見てもいいことなんて一つもないから全然気づかなかった。
だからギャラリーに黒月くんを見つけた時、すごく嬉しくなって力が湧いてきた。
試合中かっこ悪い所をたくさん見せちゃったから、最後はいいこと見せないとって思って、直美が協力してくれたおかげでシュートも上手く決まって、気持ちが高揚した私は黒月くんに向かってピースなんかしちゃって、今思えばすごい恥ずかしいけど、それ以上にすごい嬉しかった。
それで試合が終わってスマホを見たら黒月くんからメッセージが届いていて、それが私のことを褒めてくれている内容でまた嬉しい気持ちになった。
私も黒月くんの応援に行きたい。
黒月くんに行くことを伝えれば、きっと来なくていいって言うから伝えない。
私が応援したいから、勝手に行って勝手に応援するだけ。
それで黒月くんは「きたのか」なんて言って、なんだかんだ受け入れてくれて、そのまま一緒にお昼を食べて、また午後から黒月くんの応援する。
あ! これ完璧じゃん!
そう思った私はこれは実現しない手はないと直美にそのことを伝えて第三体育館に向かうつもりだったけど、何となく雲行きが怪しくなり始める。
「ねえ、これからみんなでサッカーの応援行こうよ」
「いいね。行こっか」
「そだね。応援してあげるか」
「あ、応援とか言ってホントは工藤くん目当てでしょ?」
「あ、ばれた? こういう時しか堂々と見れないんだもん!」
何だかサッカーの応援にみんなで向かう話になってる。
私はバドミントンに行きたいのに。
「 遥が行ったらうちのクラス優勝しちゃうかも~」
「え、私は......」
「みんな張り切って頑張るよ!アハハ」
「いいじゃんそれ! 行こうよ」
「いや、私は......」
ダメだ。
なんか断れる雰囲気じゃない。
どうしよう。
このままじゃ......
そんなどうにもならない状況になった時、ずっと黙っていた直美が仕方ないと言った感じに口を開いた。
「あー、盛り上がってるとこごめんー。遥は私とバドミントンの応援に行くことになってるんだー。ね? 遥」
「え、う、うん! そうなの。みんなごめんね」
私の状況を見兼ねた直美が助け舟を出してくれたから、すぐにそれに乗る。
「え? バドミントン? なんであんなとこ応援に行くの?」
「あー、そういえば黒月と加藤来てたね。それと関係ある感じ?」
「そゆことー、私達も応援に行かないとねー」
「うんうん。黒月くんも加藤くんもせっかく来てくれたからね」
応援に来てくれたのは本当に嬉しかった。
この気持ちは嘘じゃない。
「えー、何それ、遥も直美もめっちゃ優しいじゃん」
「そんな優しさ見せたら惚れられるかもよ? ほら、加藤も黒月もあんなだし?」
「うわぁ、私だったら絶対パスだなぁ」
「私もパスかなぁ」
なんかこういう感じヤダな。
黒月くんも加藤くんもせっかく来てくれたのに。
「......まぁそういうことだから、サッカーは4人でいってらっしゃーい。じゃあ遥、私達も行こっか」
「うん。じゃあみんな、またね」
直美の反応が冷たい。
わかるよ、私も同じ気持ちだもん。
「はーい。2人とも気をつけなよ」
「あはは、気をつけなって何に!?」
「おつかれー。もしも告られたら私らにも教えてね」
「ばいばーい。黒月と加藤によろしくね」
「あはは、よろしくしたら告られるって」
何が楽しいか分からない話で盛り上がる4人と別れた私と直美は、バドミントン会場の第三体育館へ向かう。
「直美、ありがとう。本当に助かったよ」
「別にいいよー。私もこっちの方が気になるしねー」
「......え、気になる? それってどういう......」
それって直美も黒月くんのことを......
「遥と黒月って見てて飽きないんだよねー」
「......うん、知ってた。直美ってそうだもんね」
ちょっとでも不安になった私がバカみたいじゃん。
「ごめんごめんって。でも遥が黒月をどう攻略するのか気になるのはホントだよー」
「攻略ってゲームじゃないんだから......でも、攻略本があるなら欲しいかも......」
ミミさんもワタルさんもそのままでいいって言ってくれるけど、黒月くんが私を見てくれるイメージが全然湧かない。
「遥にここまで言わせるなんて、黒月はマジで大したもんだわ」
直美には言えないけど、黒月くんは太陽と月のクロだもん。
本当に大した人なんだよ。
でもそれよりも何よりも、こんな話ぜったい黒月くんには聞かせられないよ。
第三体育館に着いた時、ちょうど黒月くん達の試合が始まったタイミングだったみたいで、私達は急いで2階のギャラリーに向かった。
第三体育館のギャラリーには人が全然いなくて、私達は黒月くんと加藤くんの背中が正面から見える位置から応援することにした。
第二体育館の人の多さを見た後だから、その人の少なさには驚いたけど、それよりも私達は黒月くんと加藤くんに驚いた。
「......ねぇ遥、黒月と加藤ヤバくね?」
「......うん、すごいね。2人とも、本当に......」
直美が驚くのも無理ない。
黒月くんも加藤くんも普段は目立たない感じの生徒で、大人しそうな見た目から運動が苦手そうに見える。
だけど目の前で戦っている2人からは、一切そんな感じがしない。
2人ともすごく動くし、シャトルも全然落とさない。
相手との点差だってどんどん開いていく。
加藤くんがあんなに動けるのは驚いたけど、黒月くんなら、あの太陽と月のクロなら、これくらい動けて当然だと思えた。
「なるほどねー。そりゃこんだけ強いなら去年も優勝するかー」
「え、優勝? 黒月くん達って去年優勝したの?」
直美の口から驚きの情報を聞いて思わず聞き返す。
「そだよー。去年もこの2人ペア組んでてさ、高校入って日も浅かったから、大人しそうな2人が優勝したっていうのが意外で印象に残ってたんだよねー」
「......直美すごいね。私は全然覚えてなかった......」
全然知らなかった。
同じクラスだったのに、私は黒月くんのこと何も知らなかったんだ。
「こらこら落ち込むなって。大事なのは今でしょーが。ほら、遥はここに何しに来たか忘れたの?」
そうだ! 私は黒月くん達を応援しにここに来たんだ。
落ち込んでる場合なんかじゃないよ!
「うん。ありがとう直美。私、応援しなきゃ」
試合を観に来てくれた加藤くんには感謝の気持ちを込めて、そして黒月くんには他にも特別な気持ちを込めて、私はフェンスを握る手に力を入れて大きく息を吸った。
「黒月くん! 加藤くん! 頑張れーっ!」
ちょうど得点が入ったタイミング。
突然後ろから聞こえた自分達へ送られる大きな声援に、黒月くんも加藤くんも肩をビクッと同時に震わせ、恐る恐るといった感じにこちらを振り向き、目を大きく見開く。
そしてそんな様子を見た直美はもう我慢できないと笑い始めた。
「あははは! 遥声でか過ぎ。2人とも驚いてんじゃん」
「あ、ご、ごめん!」
やっちゃった。
まさかあんなに声が出るなんて思わなかった。
「でも遥らしくていいじゃん。
黒月も加藤も頑張りなー」
一頻り笑った直美も、黒月くんと加藤くんに声援を送る。
それに加藤くんは笑顔でラケットを上げ、黒月くんもラケットを軽く上げて返事をしてくれたから、直美と2人で手を振る。
よかった。
2人とも怒ってないみたい。
だけど。
「あー、でも遥、注目集めちゃったねー」
「え? あ......」
そんな喜びも束の間、直美に言われて周りを見渡すと、たくさんの人達が私達に目を向けていた。
それに私が応援した黒月くん達にも同じように目が向けられている。
途端に不安な気持ちが押し寄せてきた。
「どうしよう直美、私、黒月くんに迷惑かけちゃった」
黒月くん、目立つのが嫌でいつも静かにしてるのに、私のせいで注目されちゃった。
「遥さー、あんた黒月のことになるとホント心配性になるよね。別にクラスメイト応援してるだけだし、なんの問題もないでしょーが」
「でも......」
「それに黒月を見てみなよ。さっきまでと何も変わってないじゃん」
直美の言う通り黒月くんは、周りに注目されてるのに普通に試合を続けている。
その姿はまるで超満員のギルドバトル会場で、いつも平然と戦ってるクロのように見えた。
「だからこの試合が終わった時にでも聞いてみなよ。黒月なら嫌なことは嫌って言うでしょ」
「......そうだよね。うん、そうしてみる」
前の私だったらそんなこと怖くて聞けなかった。
だけど一緒にいる時間が増えて、黒月くんのことをたくさん知った。
黒月くんは嫌なこと、ダメなことはハッキリ言う。
だけどそれで私と距離を置くようなことはしない。
それどころか優しくフォローしてくれる。
そうだ。
黒月くんは優しいんだ。
だから聞いてみよう。
黒月くんと加藤くんは、危なげなくストレート勝ちで試合を終わらせた。
私は黒月くんと話をする為、直美と一緒に階段を下りて体育館の端に移動した黒月くん達に話しかけに行った。
「あ、相澤さん、皇さん」
最初に気づいたのは加藤くん。
私達を笑顔で迎えてくれた。
「黒月も加藤もおつかれー。余裕だったじゃん」
「ありがとう。今回は相手がよかっただけだよ」
「そうだな」
直美が話をして場の雰囲気を作ってくれた。
これで話題を出しやすい。
「2人ともお疲れ様。さっきは大きな声出しちゃってごめんね。みんな見ててやりにくかったよね」
ごめんなさい! なんて真剣に頭を下げたら気を使わせちゃうから、あくまで軽い感じを意識する。
これなら黒月くんも本音を言いやすいと思う。
「あ、いや、まさか2人が応援に来てくれるなんて思ってなかったから驚いたけど、全然大丈夫。むしろ来てくれてありがとう」
とは加藤くんの言葉。
気を使ってる感じもないし、感謝の気持ちが伝わってくる。
席替えのジャンケンの時も辞退してくれたし、本当にいい人だ。
「俺も気にしてない。皇も相澤も来てくれてありがとう」
あれ? 黒月くん、なんかいつもより優しい?
黒月くんの言葉にいつもより優しさを感じる。
とにかく怒ってなさそうでよかった。
「よかったじゃん」
そう言って直美が私の肩にポンと手を置いたから頷く。
「それで2人はお昼どうするの? 私ら午後もここにいる予定だからさ、よかったら一緒に食べない?」
「うん! そうしようよ。2人はどうかな?」
直美が黒月くん達をお昼に誘ってくれたから、すぐに同意する。
ありがとう直美。持つべきものは友達だよ。
「え、いいの? 2人がいいなら......黒月くんもいいよね?」
加藤くんは驚いた後了承してくれた。
何となく嬉しそうに見えるのは私の気の所為じゃないと思う。
そして黒月くんにも話を振ってくれた。
黒月くんの返事は......
「ああ、もちろんだ」
よかった。
すんなり頷いてくれた。
「それで、実は他に安田くんと古川くんもいるんだけど......」
加藤くんが言いにくそうにクラスメイトの名前を言いながら振り返る。
......あ、安田くんと古川くんもいたんだ。
全然気づかなかった。
加藤くんの視線の先を目で追うと、少し離れたところに確かに安田くんと古川くんがいて、初めてそこで他のクラスメイトがいることに気がついた。
直美も「あっ」って小声で言ってたから、たぶん気づいてなかったんだと思う。
そんな私達の視線に気づいた2人は、会話が聞こえていたのか慌てた様子で口を開く。
「え、お、俺達は別の所で食べるから、なあ?」
「そ、そうそう。だから4人で食べてくれて大丈夫だから」
もう4人で......って空気が出来上がってる所には入りにくい。
それにたぶんだけど安田くんと古川くんには、黒月くんや加藤くんみたいなクラスマッチへの熱が無い。
だから尚更入りにくいんだと思った。
「わかった、そういうことなら」
それは加藤くんもわかってるようで無理に誘ったりしない。
「場所はここでいいとしていつ食べるー? あ、そういえば、次の試合って何時から?」
「確か12時からだったと思う。だから少し早いけど今からでもいいかな?」
直美の質問に加藤くんが答える。
今の時間は11時。
食休みを考えればいい時間だと思う。
「私はいいよー。遥もいいよね?」
「うん、もちろんだよ」
黒月くんと加藤くんに合わせないと。
「ありがとう。じゃあ、荷物を......」
直美はもちろんだけど、加藤くんが黒月くんを上手く誘ってくれてる気がする。
もしかして私の気持ちとかバレてるのかな?
でも協力してくれるってことは味方ってことだよね。
加藤くんに感謝しないと。
お読み頂きありがとうございました。




