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クラスマッチ①

 

side 黒月一輝


 卯月城での一件以降、学校での鈴木はクロのことを悪く言わないようになった。

 と言っても佐藤や他の奴らがクロを悪く言った時に「そんなことないと思うけど......」など、やんわり否定する程度だが。


 ただ皇はそんな鈴木の変化が嬉しかったらしく、前よりもマギアについて鈴木と話す所を多く見かけるようになった。

 それが佐藤や他の奴らは面白くないらしく、2人が話している時に鈴木を睨んでいることが多い。


 そして皇が俺を見て「よかったね」と表情で伝えてくるのが何ともむず痒く感じる今日この頃だ。



 そんな学校生活を送る中、今日は授業時間を1日使って全校生徒参加のクラスマッチが行われる。


 競技種目は男子がサッカーとバドミントン。

 女子がバレーとバスケットで分かれている。


 男子の花形はやはりサッカーで、うちのクラスでも佐藤率いる陽キャメンバーとその他の中堅男子以下はサッカーに出場する。

 俺はもちろんバドミントンだ。

 去年のクラスマッチもそうだったし。


 皇と相澤はバスケに出るようだ。

 皇に応援に来て欲しい的な事を言われたから、行けたら行くと答えたらジト目を向けられた。


 本当に信用がないな。

 まぁその通りなんだが。


 ただ言い訳をさせてもらえば、皇が出る試合の観戦者が多いことなんて容易に想像がつく。

 そんな所に俺が行っても応援なんて到底出来ないだろう。

 だから代わりと言ってはなんだが、あとで頑張れとメッセージを送るつもりだ。


 全校生徒がグラウンドに集まっての開会式が終わるとそれぞれの競技が行われる場所に移動する。


 サッカーはそのままグラウンドで、バレーは1番広い第一体育館、バスケが2番目に広い第二体育館、そして俺達バドミントン組は1番(せま)い第三体育館で試合を行う。


「遥、俺らの試合観に来いよ。今年はぜってー優勝するから」


「う、うん。行けたら応援に行くね」


 グラウンドからの移動中、佐藤やサッカー組の奴らが皇に話しかけている所を見かけた。

 その光景を見て何となく皇の対応に違和感を感じる。


 去年の皇だったら「わかった! めっちゃ応援するね!」くらい言ってた気がするが......


「皇さん、やっぱり人気だね」


「ん? 加藤か。ああ、そうだな」


 皇と佐藤達の会話を眺めていると、隣にやってきたクラスメイトの加藤が話しかけてきた。


「黒月くん、今年もよろしく。また優勝できたらいいね」


「ああ、そうだな」


 加藤は大人しく運動も苦手そうな感じに見えるが、反射神経がいいのかシャトルをよく拾う。

 それもあって1年の時に俺達は優勝しているのだが、俺も加藤も目立たないタイプの人間だから、俺達が優勝した事を覚えているやつは少ないだろう。


「ちょっと遥、うちら第1試合なんだからもう行くよー」


「わかった! じゃあ私行くから佐藤くん達も頑張ってね」


「おう! 任せとけ!」


 相澤が皇に声をかけて、2人は第二体育館へ移動を始める。

 どうやら皇の試合はもうすぐ始まるようだ。

 俺達の試合は第2試合だから応援に行くことはできない。


 皇にメッセージを送らないとな。


 移動中、俺に気づいた皇がこちらに向けて小さく手を振ってきたから、軽く手を上げてそれに応える。

 これで俺に向けてじゃなかったら恥ずかし過ぎるが、皇の反応を見る限り大丈夫そうだ。


「黒月くんって、皇さんと仲良いよね」


 そんな俺達のやり取りを見た加藤が口を開く。


「そうか? 同じクラスだし普通だろ」


「うーん、普通かなぁ......」


 一応誤魔化してはみたが、我ながら苦しい言い訳だと思う。

 だが俺達の関係を加藤に話すつもりはないから、それで納得してもらうしかない。


「そろそろ俺達も移動しよう」


「そうだね」


 加藤が素直に頷いた為、俺達も第三体育館へと移動を始める。



 第三体育館は一番新しい体育館なのだが、一番狭く少し離れた位置にある為行事などで使われることもなく、そこに用事がなければ誰もこない。

 俺も一年間でこの体育館に来たのは数回程度だ。

 そんな第三体育館で行われるバドミントンの試合には観戦者など(ほとん)ど来ない。


 そもそもクラスの人気者達は皆一様(みないちよう)にサッカーを選択したらしく、バドミントンに参加する生徒は例外もいるが、(ほとん)どがクラスマッチにやる気を見出(みいだ)せない奴や、どこか(しゃ)(かま)えた態度の奴、まぁ早い話が(あぶ)れ者達ばかりだ。


 そしてそんなやる気のない生徒達の巣窟(そうくつ)に足を踏み入れた俺と加藤は......


「......今回も優勝できるかもね」


「......だな」


 どうやら同じことを思ったらしい。



 クラスマッチは3学年6クラス、18チームで行うトーナメント戦で、トーナメント表の都合上、優勝するまでに5試合戦わなければいけないクラスがどうしても4クラス出てきてしまう。


 事前のクジ引きにより俺達のクラスは5試合戦うことになったのだが、去年優勝したにも関わらずシードはおろか、5試合戦わなければいけないとは一体どういうことなのか実行委員に問い詰めたい気持ちだ。


 試合コートはAとBの2面、第2試合に出場する俺達はBコートでの1戦目となる。


「加藤、黒月、頑張れ」


「お前達ならできるぞ」


 俺達の後ろで座り込んで声援を送るのは、同じくバドミントンを選んだうちのクラスの安田と古川。

 この2人は他のクラスの奴ら同様クラスマッチを適当にやり過ごすつもりらしく、試合に出るつもりは一切ないらしい。

 だから俺と加藤が全試合出場して、安田と古川は補欠扱いにするつもりだ。


 まぁ逆に出場されると優勝が遠退(とおの)いてしまうから、こちらとしても好都合だ。


「ありがとう。頑張るね」


「ああ、行ってくる」


 安田と古川に返事をしてコートに向かう。


 試合は時間の都合で1ゲーム11点先取の2ゲーム先取制。

 ルールについては、シャトルはコートの内側に落とす、サービスは対角へ、ネットに触れない、2度打ちしない(など)、一般的に知られている共通認識程度でそこまで厳しくはない。


 コートを挟んで相手チームの選手2人と向かい合う。

 相手は俺達と同じ2年生の生徒で安田や古川と同じ雰囲気を(かも)()している。


 これは試合前から勝負が決まったようなものだな。


「黒月くん、勝とうね」


「ああ、そうだな」


 加藤と短く言葉を交わし、俺達のクラスマッチ初戦が始まった。



 結果を言えばストレート勝ちで試合は終わり、俺達はめでたく2回戦へ進出した。


「一年ぶりだけどいい感じだったね」


「そうだな」


 加藤と話をしながら安田と古川の所に戻ると、2人に適当な挨拶で迎えられた。

 俺達の次の試合は第10試合。

 まだまだ時間があるなんて考えながらスマホを開くと、新着メッセージを知らせるアイコンが表示されていた。


 誰だ? なんて今さらもう思わない。

 このタイミングで俺にメッセージを送ってくるのは一人だけだ。


 皇 遥:勝ったよ! 次の試合は10時10分からだって。黒月くんも頑張ってね!


 メッセージの(あと)には頑張れと表示された黒猫のスタンプが送られてきている。


 皇は毎回色々な黒猫のスタンプを送ってくる。

 前に猫が好きなのか聞いたら、黒猫が好きだと言っていた。


 だから俺も勝った(むね)のメッセージと共によく使う黒猫のスタンプを送っておく。


「もしかして皇さんから?」


 隣にいる加藤が的確に相手を当ててきたことに驚く。

 小声なのは俺への配慮だろう。


「......どうやら向こうも勝ったらしい。次の試合は10時10分からだそうだ」


 肯定も否定もせずメッセージの内容だけを伝える。

 現在の時刻は9時50分。

 もう少しで開始の時間だ。


「ならバスケの試合観に行かない? まだ僕達の試合まで時間あるし」


 皇の試合か。


 一人だったら行かなかったが、誘いを断ってまで行きたくない訳じゃない。

 それに皇も来て欲しいと言っていたし、メッセージで時間を伝えてきたのは俺が来ることを期待してのことかもしれない。


 いや、それは考え過ぎか。

 まぁとにかく断る理由はないな。


「そうだな。じゃあ行くか」


「決まりだね。安田くんと古川くんはどうする? 僕達これからバスケの試合観に行くけど」


 加藤は安田と古川にも声をかけるが2人の反応はあまり良くない。


「俺はいいや。人多そうだし」


「俺もやめとこっかな。皇さんは見たいけど、正直めんどい」


「それな。わかるわぁ」

 

 加藤は2人の反応を予想していたのか淡々と話を続ける。


「じゃあ僕と黒月くんは行くから、何かあったら連絡ちょうだい」


「はいよ」


「ちゃんと試合までには戻って来てくれな」


「大丈夫、わかってるよ。じゃあ、黒月くん行こっか」


「ああ」


「いってら」


「いってら」


 2人に見送られ、俺と加藤はバスケの試合会場である第二体育館へと移動する。



「うわっ、やっぱり人が多いね」


「......そうだな」


 第二体育館に着いた俺達は入口を入って両脇にある階段を上がり、2階のギャラリーへとやってきたのだが、その人の多さに驚いた。


 第3体育館とは雲泥の差だな。


 先程までいた第三体育館のギャラリーは閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。

 まぁ参加している生徒のやる気のなさを(かんが)みれば当然とも言えるのだが。


「あ、あそこの(はし)で観れそうだね。あそこに行こう」


「ああ、わかった」


 ギャラリーの一番端に2人分の観戦スペースが空いてるのを見つけ移動する。

 少々見えにくい位置ではあるが、人の頭の後ろから観るより全然マシだろう。


「うわ、どんどん人が来るね。場所が取れてよかったよ」


「全くだな」


 試合開始近くになってギャラリーに人がどんどん集まってきた。

 うちのクラスが試合を行うAコートに近いギャラリーは既に人で埋まり、そこに入れなかった生徒はBコート近くのギャラリーから観戦するようだ。


「あ、始まるみたいだね」


 加藤の声でギャラリーへ向けていた視線をコートへ向けると、うちクラスの女子達がコートに入ってきた。

 もちろんその中には皇の姿もあって、軽く跳ねたり手首や足首を回して準備運動をしている。


 こうして見ると別人に見えるな。


 最近は学校でもマギアでも一緒にいることが多い皇だが、こうして多くの人に注目されている姿は、その可愛いさも相まってさながらアイドルのようで、俺はすごい人気のある人物といつも一緒にいるんだなと改めて思い知らされる。


「なあ、2年の皇先輩ってあの前にいるすげー可愛い人だよな?」


「たぶんそうだろ。っていうか皇先輩ってめちゃくちゃ可愛いな」


「彼氏いんのかな」


「部活の先輩はいないって言ってたけど、あやしいよな」


「そういえば3組の工藤がフラれたんだよな。あの工藤がフラれるくらいだから、やっぱり彼氏がいるんだろうな」


「だよな。いないとおかしいよな」


 別に聞き耳を立ててる訳じゃないが、どうしても隣の1年生の会話が耳に入ってくる。

 前に工藤の件の時に皇が噂に尾ひれが......とか言っていたが、こういうことかと納得する。


 皇も大変だな。

 勝手に噂されて、勝手に尾ひれが付いて。


 何とかしてやりたいと思うが、俺が皇の為に出来ることなんて殆どない。

 だからせめてもの思いとして、これからは皇にもっと優しく接するようにしようと思った。



 バスケの試合も時間が短縮されて1試合20分となっている。

 相手のクラスは3年生。

 前回優勝したクラスらしく、開始直後からうちのクラスは苦しい戦いを()いられている。


 相澤がポイントガードとして仲間にテキパキと指示を送っているが、状況は一向に良くならない。

 点差が開く(ごと)に仲間の士気が落ちてきているのだ。

 しかしそんな状況でも皇と相澤の2人は奮励(ふんれい)し、諦めずにボールを追いかけ走り回っている。


 普段やる気を感じさせない態度の相澤が、いつも明るく元気な皇が、汗を(ぬぐ)いながら必死にボールを追う姿は、観ているこちらの心を強く奮い立たせる。


「2人ともすごいね」


「......ああ」


 加藤もそんな2人の姿に感じるモノがあるのか、コートを真剣に見つめながら静かに口を開く。


 そんな試合も終盤に(せま)った頃、突然相澤が皇の所に行き耳打ちをした。

 そして驚いた表情の皇がこちらを向いて......


 一瞬か数秒か。

 曖昧な時間だが確かに俺達は目が合った。


 皇は視線を外すと目を閉じて一度俯く。

 そして自分の顔を叩いて気合いを入れると相手ゴールへと走り出した。

 コート上には相手からボール奪った相澤がいて、2人はパスを繋ぎながら相手を(かわ)していく、そしてゴール近くでボールを受け取った皇はステップを踏んでジャンプ、綺麗なレイアップシュートを決めてみせた。


 もう時間的に逆転は難しいだろう。

 なのにシュートを決めた皇はこちらを向くと満面の笑みでピースをしてみせた。


 試合中一度もギャラリーを見なかった皇が、ギャラリーの一方向を見て笑っている。

 気になった観戦者達は皇の視線の先を追ったはずだ。

 現に多くの視線が俺に突き刺さっているのを感じる。

 だがそんな雑多な視線は目に入らなかったし、気にもならなかった。

 俺の目には皇の嬉しそうな笑顔しか映っていなかった。


 皇が笑った。

 たったそれだけ。

 たったそれだけだが、応援に来てよかったと思えた。




「黒月くん、絶対優勝しようね」


 第二体育館からの移動中、加藤が強い意志を感じさせる口調で俺に告げる。


「ああ、もちろんだ」


 よかった。

 どうやら加藤も俺と同じ気持ちのようだ。


お読み頂きありがとうございました。

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