クラスマッチ③
side 皇遥
クラスマッチはお昼の時間も試合をする為、自分の好きなタイミングでお昼を取ることになっている。
そしてこの日は体育館での飲食がOKとなっている為、私達は試合の邪魔にならない端の方で4人で輪になってお昼を食べている。
「え? 加藤もマギアやってたの?」
「うん。実はね、そうなんだ」
直美が驚き加藤くんが頷く。
私も知らなかったし、黒月くんも初耳って顔をしてる。
加藤くん、教室でみんながマギアの話してても関心なさそうにしてたから、やってないんだと思ってた。
「もしかして加藤ってさー、結構強かったりする?」
「え、いや、どうかなぁ。普通にやってる人よりは強いとは思うけど......」
直美の質問に対して加藤くんは返答に困ってる感じ。
でもわかるよ。
自分で強いなんて中々言えないもん。
「じゃあさー、ランクB+の相手とソロで戦って余裕で勝てたりする?」
「敵によるけど、それくらいなら勝てるよ」
今度の直美の質問には平然と答えた。
さも当たり前って感じで答えてるし、見栄を張ってるようにも見えない。
でもそれって......
「え? それって普通に強いよね?」
思わず黒月くんの方を向いてしまい、自分のやらかしに気づく。
黒月くんがマギアやってるのって、みんなに秘密じゃん。
ついいつもの癖で聞いちゃったけど、黒月くんは首を傾げて知らんぷりの対応。
慌てて直美を見ると視線は加藤くんの方を向いている。
「そりゃあ強いでしょ。だって私倒せないし」
だからか直美も自分への質問だと捉えてくれたみたい。
よかった。
バレてないみたい。
「でも相澤さんって神官でしょ? 倒せなくて当たり前だよ」
それは私も思った。
直美は戦闘職じゃないもん。
「ん? 加藤、私が神官だってなんで知ってるの?」
「え、確か教室でそう言ってたかなって......」
「あー、そっか、なら知ってるかー」
直美の質問に加藤くんが答えるけど、なんか歯切れが悪い感じがする。
直美は気にならないみたいだけど、これって。
もしかして加藤くんって、直美のこと......
そう思って加藤くんを見ると、加藤くんと目が合って......
うん。加藤くんとはいい協力関係が築けそうな気がした。
「でさー、加藤ってどこかのギルドに入ってたりする?」
「いや、入ってないけど、なんで?」
直美が加藤くんを質問攻めしている。
口調は普段通りだけどなんか真剣な感じ。
もしかして直美も加藤くんを......って一瞬思ったけど、それとも違う感じがする。
どうしたんだろう?
「なら私のいるギルドに入って欲しいんだけど、どう?」
「え、相澤さんのいるギルド? それって佐藤くんの所ってこと?」
「いやいや、佐藤の所な訳ないじゃん。私がいるギルドは【ラピスラズリ】っていう中学の同級生で作ったギルドだよ」
私もマギアを始めた頃、加藤くんと同じこと聞いて同じように言われたなぁ。
「あ、そうなんだね。ごめん、知らなかったよ。それで、なんで僕をギルドに?」
「えっとさー、うちらのギルドって私を入れてメンバーが4人で全員女なんだけどさ......」
「えっ!? そこに入るの!? なんで!?」
加藤くんが直美の言葉を遮り慌てる。
だって女の子しかいないギルドに入ってくれ、だもんね。
加藤くんが驚くのも仕方ないよ。
「ちょっと最後まで話聞きなって」
「あ、ご、ごめん。どうぞ、話を続けて下さい」
「実はさ、最近変な男達に付き纏われてるんだよね」
「変な男達? 怪しい人達なの?」
「なんか『俺らのギルドに入らないか?』って言ってきて、断っても何度も誘ってくるんだよね」
え? なにそれ。
「私そんな話聞いてないよ」
思わず会話に入ってしまう。
だって直美そんなこと一言も言ってなかったじゃん。
友達なのに、相談して欲しかったよ。
「ごめんね遥。遥のこと巻き込みたくなくってさ。前にギルド本部行った時に絡まれたって言ってたじゃん? たぶん同じなんだよね。そいつらと」
「え、じゃあ、もしかして」
「GENESISの名前を出してくるんだよね。知り合いだとかメンバーに会えるとか。別に興味ないって断ってるんだけどさ」
直美は私が声をかけられたって話を聞いてたから、気遣ってくれたんだ。
「そっか。ごめん、直美。ありがとう」
「いーよ。あいつら遥のこと知ったらどんなことしてくるかわかんないし。で、加藤さ、そういう訳で悪いんだけど、うちらのギルドに入ってくんないかな?」
加藤くんを巻き込むことへの負い目があるからか、直美の表情は普段よりも暗い。
そりゃあ「あなたに迷惑をかけます」ってお願いだもん。
「えっと、じゃあ僕は相澤さん達の用心棒をすればいいってことかな?」
「用心棒なんて大層なもんじゃなくて、ただギルドにいてくれればいいよ。男がいるってだけで十分効果はあると思うんだよね」
「そっか......」
加藤くんが悩み始める。
てっきりすぐに「僕でよければ力になるよ」って頷くと思ってたのに。
やっぱり面倒事は嫌って事なのかな。
「あー、別に無理にとかじゃないから。嫌なら嫌で全然おっけーだし。断ってくれていいからさ」
「......いや、やるよ。僕でよければ力になりたいし」
加藤くんは気持ちを決めたらしくハッキリと意思を告げる。
でも直美の表情は浮かない。
「いいの? さっき悩んでたみたいだし、無理させてまでっていうのはちょっと......」
直美も加藤くんが即答しなかったのが引っかかってるみたい。
「あ、ごめん。僕が考えてたのは別のことだから大丈夫。だから相澤さんの話受けさせてよ」
加藤くんはそんな直美の気持ちに気づくと、安心させるように笑ってみせた。
「ありがとう加藤、ホント助かるよ。早速今日の学校終わりログインできる?」
「わかった。大丈夫」
「じゃあ、みんなにも連絡しとくね」
「みんな女子なんだよね......なんか緊張してきたな」
「何言ってんの、大丈夫だって。みんないい子だから」
加藤くんの背中を直美が叩いている。
さっきより距離が近くなった感じがする。
よかったね。
そんな2人から視線を外し黒月くんを見ると、スマホで何かメッセージを打ち込んでいる。
相手は誰だろう。セツカちゃんかな?
「ん? どうかしたか?」
「え、あ、ううん。なんでもないよ」
黒月くんがスマホをしまいながら尋ねてくる。
なんだかその仕草が私に何かを隠しているように見えて少し気になった。
12時からの第3回戦。
私と直美はまたギャラリーからの応援だ。
だけどギャラリーにはさっきより人が増えていて、しかもその人達からは観戦や応援って雰囲気がしない。
それはまるで......
「......ねえ直美、私達見られてるよね?」
「私達っていうか遥ね。どうする? どこか別の場所に移動する?」
これがサッカーやバレーだったらすぐに移動したんだと思う。
だけどバドミントンは、黒月くん達の応援はこんなことで止めたくない。
「しないよ。私は2人の応援をしたいから」
「だよねー、私も同感。まあ話しかけてこないなら、いつも通り気にしなければいいよ」
「うん。そうだよね」
ただ目の前の黒月くんと加藤くんを応援するだけ。
周りなんて気にしなければいいんだ。
黒月くん達は順調に試合を進め、1ゲーム取ってのコートチェンジ、ギャラリーにいる私達と向かい合う形になった2ゲーム目の途中、私は誰かに話しかけられた。
「皇先輩、こんにちは」
「......工藤くん」
声のした方を向くとそこには見覚えのある1年生、工藤くんが笑顔で立っていて、その後ろにも何人かの男子がいて、私を見ながら何かを話している。
工藤くんには告白とかGENESISのこととかあっていい印象がない。
直美もGENESISのことがあるからか視線が冷たい。
それでも笑顔でいられる工藤くんはある意味すごいと思う。
「皇先輩、サッカーに全然来ないんで探しましたよ。バドミントンの応援をしてたんですね」
「......そうだけど、何か用かな?」
自分の声がいつもより低く感じる。
さっきまでの楽しい気持ちもどっかにいっちゃったみたい。
「サッカーの応援に来てくださいよ。俺達のチーム順調に勝ってて、もうすぐ次の試合なんですよ」
「そうなんだね。でも私、ここでクラスメイトの応援したいから。ごめんね」
話はもう終わりとコートに目を向ける。
コートの上には戦ってる黒月くんがいてその姿を見てると、冷たくなった心が温かくなっていく感じがして自然と頬が緩む。
「......あの人」
同じようにコートに目を向けた工藤くんは、黒月くんの姿を見て目を細める。
「皇先輩、もしかしてあの人達の応援ですか?」
「そうだよ。クラスメイトだし、優勝して欲しいから」
クラスメイトを強調したけど、前に私達が一緒にいるのを見てた工藤くんならそれ以上の関係だって勘違いしてどっかに行ってくれると思ったんだけど、そんな上手くいかなかったみたい。
「......でしたら、あの人達に俺達が勝ったら、俺達を応援してくれませんか?」
「......何言ってるの? 工藤くん、サッカーじゃん」
なんでそうなるかな。
しかもどうやって黒月くん達と戦うつもりなのか全然わからないんだけど。
「俺がバドミントンに出ます。これで勝ったら次はうちのクラスと戦うみたいなんで」
「そんなことやっちゃダメでしょ」
ルール的にもダメだし、なにより工藤くんのクラスのここまで頑張ってきた人達が可哀想じゃん。
「たかがクラスマッチでそんなの気にする人いないですよ」
たかがクラスマッチって、そんな言い方。
「それに俺バドミントン結構得意なんですよ」
「だからって......」
ダメなものはダメだよ。
「ならハンデを付けるんでどうですか? あの先輩達、こう、なんていうか、運動が苦手そう、ですし?」
そんな工藤くんの言葉に、後ろにいた男子達が笑いながら話に乗ってくる。
「ハンデは必要だろ。どう見たってあの先輩ら陰キャじゃん」
「おい、ハッキリ言うなよ。工藤の気使いが台無しだろ」
「そうだぞ。あんなんでも先輩なんだから少しは顔を立ててやれよ」
まただ。
黒月くん達のこと、何も知らないくせに。
「......ハンデなんかいらないよ。2人ともすごく強いんだから」
負けないよ、2人は。
絶対に。
「だねー。あんたらどうせ負けて恥掻くだけだから戦わない方がいいよー」
直美からも怒りの感情が伝わってくる。
でもその言い方は煽りにしか聞こえないよ。
「決まりですね。じゃあ次の試合楽しみにしてます」
「工藤と陰キャ先輩の試合とかウケるな」
「なあ、せっかくだしみんな呼ぼうぜ。」
「陰キャ先輩ビビって試合放棄したりして」
「それはそれでおもしろいけどな」
工藤くん達は笑いながらギャラリーから出て行く。
たぶんサッカーの試合に行ったんだと思う。
私は工藤くん達の出て行った出口を見つめ、この抑えきれない感情を手のひらに込めてグッと強く握り締める。
「直美、私、黒月くんと加藤くんに絶対勝って欲しい」
「ま、あの強さなら負けないでしょ。それよりも遥、まんまと乗せられちゃったねー」
直美の指摘で自分のやらかしたことにハッと気づく。
「......黒月くん達になんて言おう」
また余計なことしちゃったなぁ。
「皇、上で何かあったのか?」
試合が終わり私達を迎えてくれた黒月くんが尋ねてくる。
隣にいる加藤くんも同じように気になってるみたい。
あんな所で言い争ってるのを見せられたら、普通気になるよね。
ちゃんと正直に話さないと。
「えっとね。実は......」
私は黒月くんと加藤くんにさっきの出来事を伝えた。
工藤くん達がやってきたこと。
黒月くん達と戦って、勝ったら応援して欲しいと言われてこと。
黒月くん達を悪く言われて怒ったこと。
そして勝負に乗ってしまったこと。
「......という訳なんだ。勝手に約束しちゃってごめん」
2人に頭を下げる。
戦うのは黒月くんと加藤くんなのに。
それを私が勝手に決めちゃったんだから、怒られても仕方ない。
「......なるほどな。なあ、加藤はどう考えてる?」
話を聞いた黒月くんは加藤くんに意見を尋ねる。
私と直美も加藤くんに視線を向ける。
「僕はやっていいと思ってるよ。2人がそうまで言ってくれたんだし。それに言われっぱなしっていうのもね」
加藤くんは悩まずに即答する。
その姿がすごく頼もしく見える。
「それに黒月くんも同じでしょ?」
そう続ける加藤くんに対して黒月くんは。
「ああ、そうだな」
そう答えて頷く。
「ありがとう。黒月くん、加藤くん」
2人に対してお礼を告げる。
黒月くんも加藤くんも私が勝手に決めたことなのに不満も言わないで頷いてくれた。
「加藤も黒月も本気でやっちゃっていいからねー」
「もちろん。勝つつもりでやるよ」
「そうだな」
直美の言葉にも2人は素直に頷く。
そして黒月くんは私に視線を向ける。
「皇、そんな気にしなくていい」
「え、あ、うん。ありがと」
急にそんなこと言われてついお礼を言っちゃってけど......
「......もしかして顔に出てた?」
「そうだな」
「......そっか。いつもごめんね」
私の気持ち、気づいてたんだ。
今日だけでもたくさん黒月くんに迷惑をかけたのに、また勝手に話を決めて迷惑かけちゃった。
なのに黒月くんは。
「謝らなくていい。むしろ感謝してるんだ」
黒月くんが感謝してる?
迷惑しかかけてないのに?
「え、なんで?」
「俺達のことで怒ってくれたんだろ? なら謝る必要はない。皇、ありがとな」
黒月くんは顔を綻ばせて私にお礼を言う。
すごく優しい顔。
「黒月くん......うん!」
ずるいなぁ。
そんな顔されたら......
「ちょっと遥、こんなとこでそういうの止めてくんない?」
突然の直美の声に視線を向けると、そこには少し呆れた表情の直美と苦笑いの加藤くんがいて。
「わ、私、何もしてないよ! 直美もいきなり何言ってんの!」
って、否定してみたけど。
「はいはい。そういうのいいから」
さらに呆れられてしまった。
そして隣の加藤くんは黒月くんに話しかける。
「黒月くんって、皇さんと仲良いよね」
確信を持った言い方。
今のやり取りを見たからというより、ずっと前から知っていたような言い方。
そんな加藤くんに対し黒月くんは。
「そうか? 同じクラスだし......いや、そうだな」
「うん。だよね」
その答えに加藤くんは満足そうに頷いて笑った。
お読み頂きありがとうございました。




