表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第三章 「決定打のステージ」前編①



図書室で勉強をしていたケイシーは、ひと段落して自室に戻ろうと、広げた教科書をまとめ始めた。

図書室を出ようとした時だった。

「もうお部屋に戻られるのですか?」

カウンターに座っていた黒陽の女子生徒が立ち上がって声をかけた。

ケイシーは振り返った。

「ああ。……君はここを任されているのか?毎日そこに座っているみたいだけど」

ストレートの長い髪をおろし、分厚いレンズの眼鏡をかけた、いかにも生真面目そうな女子生徒だった。

「はい。テン・マレイズと申します」

深々と頭を下げるのは、まだ一年生のテンだった。

「オルマンダ家のケイシーさんですね?ここ最近毎日いらしていますが、お勉強で?」

礼儀正しく毅然とした態度でテンは尋ねた。

二年後に黒陽のエースとなる知性と品格が、既にこの時から備わっていた。

「昇学試験を控えているからな……」

ケイシーは手に持った教科書にチラッと目を向けた。

本来なら守護者は自室を設けているため、わざわざここにくる必要はないのだが、今のケイシーには、自室にいたくない理由があった。

「勉学に励むのはとても良いことだと思います。ここは静かですし、最適な場所だと……」

テンは頬を染めて、前に組んだ指をモジモジと動かした。

「…………」

ケイシーがそちらに足を向けると、テンは小さく肩を揺らし、じっと彼を見つめた。

近くまできたケイシーにテンは目を合わせられず、赤くなった顔を下に向けた。

「……あ、あの……っ」

「君は、一年生か?」

ケイシーに聞かれ、テンは顔を上げて頷いた。

「は、はいっ!」

「何組?」

「え……? い、一組ですが……」

それを聞いたケイシーは笑顔で返した。

「なら、エンジーと同じだな!」

「……っ」

ケイシーの笑顔を間近に見たテンは、言葉が出ずに、ただポーッとなった顔で彼を見つめた。

「弟のこと、よろしく頼むよ。テン」

「えっ!……は、はいっ!こ、こちらこそ……っ」

テンは慌てて頭を下げた。

ケイシーはクスッと笑い、「じゃあ」と図書室から出て行った。

「…………」

下げていた頭を上げたテンは、しばらくぼーっとした様子で立っていた。



自室がある最上階まできたケイシーは、部屋の前に誰かがいることに気がついた。

「っ!?エンジー!?」

壁に背をつけていたエンジーは、ハッとして顔を上げた。

「兄さん!」

「どうしたんだ?お前がこんなところに来るなんて」

ケイシーは驚いたまま、エンジーの方に歩み寄った。

一年生であるエンジーの表情には、まだ幼さが残っていた。

「守護者の部屋がどんなものなのか、一度見てみたかったんだ。……迷惑だった?」

エンジーは少し躊躇して聞いた。

「いや、そんなことない。…………」

ケイシーは一瞬、廊下の奥にあるナタリーの自室へ鋭い視線を走らせた。

彼女がいつ扉を開けて、理不尽な要求を突きつけてくるか分からない。わざわざ図書室で勉強していたのも、その警戒ゆえだった。

ケイシーはエンジーに目を戻した。

「まぁ入れよ」

「……うん」

弟の視線を落とす様子が気になったが、ケイシーは扉を開け、彼の背中に手を添えて中へ誘導した。


ケイシーは持っていた数冊の教科書を机に置き、エンジーの方に振り返った。

辺りをキョロキョロ見回しながら、エンジーは部屋の中を歩いている。

「これが守護者の部屋か。さすが待遇がいい……」

エンジーは家具の細かい装飾を指でなぞりながら言った。

「二年後には、お前がここにいることになる」

机の椅子にもたれ、腕を組んでエンジーの様子を見ていたケイシーが言った。

「…………うん」

エンジーは先ほどと同じように視線を落とした。

「…………」

彼にじっと目を向けていたケイシーは、小さく息を吐きながらソファの方へ歩いた。

「部屋が見たくてきたわけじゃなさそうだな」

「……え?」

エンジーは振り返った。

ソファに座ったケイシーは、向かいの席に目配せしながら言った。

「何か話があってきたんだろ? ……座れよ」

「…………」

黙り込んだエンジーは、言われるがままにソファに座った。

「どうした?何かあったのか?」

ケイシーは前かがみになりエンジーの顔をうかがった。

エンジーは眉をしかめてケイシーに目を向けた。

「何かあったのは兄さんの方だろ?」

「……え?」

「先週の庭園での騒動、噂で聞いたよ。……白月とやり合ったんだって?」

「…………」

ケイシーは「そのことか」と、背もたれに背中を倒した。

「シリウスが怒鳴っていたらしいじゃないか。兄さんと口裏を合わせてのことなのか?」

二人の関係を知っているエンジーは、心配した様子で聞いた。

「お前が気にすることじゃない」

ケイシーは目を閉じた。

「…………っ」

腑に落ちないエンジーは、何か言いたそうだったが、それを躊躇いながら話し出した。

「気にしているのは僕だけじゃない。黒陽と白月のエース同士が言い争って、気にしない生徒がここにいるわけないじゃないか!」

ケイシーはハッと目を開けてエンジーに目を向けた。

「隠したら駄目だ……ちゃんとみんなに説明しないと……」

エンジーの言葉は、生徒全員の声を代弁しているようだった。

身体を起こしたケイシーは視線を落とした。

「……わかってる。ほとぼりが冷めたら、説明するつもりだ」

エンジーはケイシーをじっと見つめた。

気のせいか、彼は少し痩せた気がする。

エンジーは目を伏せ、ずっと躊躇っていた言葉を思い切って口にした。

「あのクイーン…………ナタリーって人が原因なんだろ……?」

ケイシーは黙っている。

「彼女が兄さんを苦しめてる。それで、白月にまで手を出した挙句にシリウスが怒ったんじゃないのか?」

話の途中でケイシーは席を立った。

エンジーはめげずに彼を目で追おうとしたが、それを遮るように、ケイシーが冷たく言った。

「……憶測で物を言うなよ。お前が心配することじゃないんだ。落ち着いたらちゃんと説明するから」

背を向けていたケイシーは振り返り、エンジーに微笑を見せた。

だが、その笑顔はどこか切ないものだった。

兄とシリウスの関係を幼い頃から知っているエンジーは、彼らの絆が壊れることを恐れていた。

「……ナタリーとの……婚約話があるって……本当なの? 兄さん……」

ズボンをギュッと握ったエンジーは、搾り出すような声で聞いた。

「っ!?」

ケイシーは驚いた。

「誰から聞いたんだ……?」

エンジーは視線をそらした。

「……この間、休暇で家に帰った時……父さんと話しているのを聞いたんだ……」

「…………っ」

その時エンジーがこっそり聞いていたなど知る由もなかったケイシーは、ただ驚いて弟を見つめた。

「父さんも父さんだ。一度突き放したバルモンの頼みを今さら聞くなんて……もちろん断るんだろ?兄さん」

「…………」

「ラングレス家は勢力を上げ続けてるけど、それとこれとは話が別だ。あの家とこれ以上関わりを持ったら、ヤツにいいようにされる……取り返しのつかないことになるのは目に見えてる!」

立ち上がったエンジーがケイシーに言い聞かせた。

「……けど、父さんの考えは違うみたいだ」

「……え?」

エンジーが呆然と声を漏らした。

ケイシーはどこか遠くを見るような目で、淡々と続けた。

「ヤツと手を組んで操り、いずれは支配下に置くつもりなんだろう。話をしている限りでは、そんな口ぶりだった。……婚約は、きっとそのための一つの手段なんだ」

自らが親に利用されていることを察していたケイシーは、諦めた表情で言った。

「そ、そんなっ! だ、だったらまず、アンバー兄さんに話がいくはずじゃないか!」

「兄さんは跡取りなんだ! 操ろうとしている相手の刺客なんて、近づかせるわけないだろ!」

「なら兄さんならいいっていうのか!? そんなバカな話……っ」

エンジーは崩れ落ちるようにソファに座ってうなだれた。

「……エンジー……」

肩を震わせる弟の元へケイシーは歩み寄った。

「父さんにとって一番大事なのは、家の尊厳と跡取りなんだ……アンバー兄さんが家を継ぐと決まった以上、俺たちに自由を選ぶ道はない」

膝をつき、エンジーの顔を覗き込むようにしてケイシーは言った。

いずれエンジーも同じ思いをする時がくる。ケイシーは胸が締め付けられる思いで、弟の肩にそっと手を置いた。

エンジーはゆっくり顔を上げた。

「……じゃあ、受け入れるのか?兄さん……」

「わからない。今は抵抗して、向こうが諦めてくれるのを待ってはいるけれど……」

ケイシーの表情は諦めに近かった。

「…………」

エンジーは切ない顔でうつむいた。

「ケイシー、いるかー?」

扉からノックの音と呼びかけが聞こえた。

二人は扉の方に顔を向けた。

「リドル……」

ケイシーは立ち上がった。

「どうぞ」

扉が開くと、リドルが入ってきた。

「例のドレスの件、どうする……あ」

中にいたエンジーに気がつき、リドルはハッとした。

「おっと……! エンジーじゃないか」

「久しぶり、リドル」

エンジーは立ち上がり、先ほどの表情を隠して笑顔で挨拶した。

「ほんとだな! 兄弟水入らずのところ、邪魔したようだ」

リドルはチラッとケイシーに目を向けた。

「いいんだ。僕ならもう帰るから」

エンジーはリドルにそう言いながら扉の方へ歩いた。

「いいのか? 悪いな……」

リドルはエンジーとケイシーを交互に見ながら謝った。

「ううん、大丈夫。……じゃあ、芸術祭の準備、頑張って。兄さんも」

「ああ」

ケイシーとリドルが見送る中、エンジーは部屋を出ていった。

「なんか悪いことしたな」

「いいんだ。大した用事じゃない」

「…………」

リドルは、淡々と机の上の教科書を片付けるケイシーにじっと目を向けた。

エンジーは兄ケイシーの邪魔にならないよう気を使って、学園内ではあまり接しないようにしている。

そんな彼が兄の自室にくるなど、よっぽどのことだ。

「大したことじゃない」などと嘘をつくケイシーに、リドルは疑念を抱いた。

だが、自分が踏み込んで良い話ではないだろうと、リドルは触れずに目を伏せた。

「ナタリーのドレスの件だったな」

ケイシーに言われ、リドルはハッとした。

「いくつか注文していたけど、無事に届いたのか?」

「あ、ああ。それで何時間も迷ってるんだ。アイツ、僕たちじゃ見る目がないから君を連れてこいって」

「……え」

ケイシーは眉をしかめて露骨に嫌な顔をした。

「僕とカミーユもアイツに似合うドレスなんてわからないし、頼むよケイシー。君が行かないと、アイツの機嫌がまた悪くなる」

リドルは申し訳なさそうに笑いながら、手を合わせた。

「……俺だってわからないけど」

視線をそらすケイシーに、リドルは苦笑混じりに調子を合わせた。

「またまたぁ! 何度もパーティに出てたら、ドレスなんて飽きるほど見てるだろ? それにナタリーだって、君がおだてりゃその気になるって!」

「…………」

調子のいいリドルに、ケイシーはジロッと目を向けると、ため息をついて時計に目を向けた。

(午後五時半か……アイツのファッションショーが終わるのは、夜中になるかもな……)

考えただけでもゾッとしたが、二人に迷惑はかけられないと、ケイシーは渋々承諾した。

「……わかった……行ってくる」

「あ、ちょっと待てケイシー! カミーユに頼まれてたんだ」

「……?」

「アイツからそれとなく聞き出してほしいって。例の白月のクイーンから盗まれたものを」

「…………」

「ま、そんなもの実際にあるのかもわからないけどな。……カミーユが言うには、あの時は白月の連中がいたし、公の場だったせいで、アイツが口をつぐんだんじゃないかって」

ケイシーが険しい表情をしていることに気づかず、リドルは続けた。

「僕とカミーユが問いただしても、頑なに言わないんだ。だけど、アイツのお気に入りである君なら……」

ケイシーはリドルを鋭い目で睨んだ。

「……っ」

リドルはハッとしてたじろいだ。

「俺が聞いたところで同じだ。……アイツは俺の忠告を無視した。今度何かする時は、必ず相談しろと言ったのに……」

「…………」

リドルは何も言えず、ケイシーの言葉を黙って聞いている。

「そのおかげで、何も知らない俺たちは白月(やつら)の前で恥を晒すことになったんだ! アルベール姉妹が苦しんでいることにも気づくことができなかった……」

辛そうに話すケイシーを見兼ね、リドルは慌てて歩み寄った。

「僕たちだって、まさか、あのブローチの事件と同じ手段をもう一度使ってくるなんて思ってもみなかったしな…….…っていうか、一度痛い目を見たら、普通ならしないだろ」


ーーそこがナタリーの浅はかな……いや、恐ろしいところだーー


黒陽の守護者達は、それを痛感していた。



ケイシーはナタリーの部屋へとやってきていた。

あたりにドレスを脱ぎ散らかし、本人は上機嫌で、今着ているドレスに合うアクセサリーを選んでいる。

まるでこの間の騒ぎなど、なかったことのようだ。

時刻は午後九時近くになり、すでに疲れた様子のケイシーは、ソファに座ってぼーっと何かを考えている。

(……以前のように話せる時が、またくるだろうか……)

ケイシーは、ドレッサーの前で鼻歌を歌うナタリーにチラッと目を向けると、すぐに視線を戻し、ため息をついた。

(当分は難しいだろうな。フランにあれだけひどい嫌がらせをしたんだ……俺がナタリーの悪事に気がついて、彼女を止めさえしていれば……)

自分の不甲斐なさを情けなく思い、ケイシーは額に手を当て、後悔の念に駆られていた。

「…………」

ケイシーは、シリウスと最後に話した時のことを思い出していた。



シリウスがリハーサル中に乗り込んできた日の晩のこと。

ケイシーは不安な面持ちで、彼に電話をかけていた。

(シリウス……っ! 頼むっ! 出てくれ!)


明かりの灯らないシリウスの部屋に、電話は鳴り響いていた。

ソファに座ったシリウスは、足に両肘を突いて何かを考えながら、鳴り止まない電話を見つめていた。

決意したシリウスは目を閉じ、立ち上がって電話の方へと足を向けた。


「シリウスっ!? 俺だ!」

何度もコール音を鳴らし、ようやく受話器が上がった気配に、ケイシーは縋るように言った。

「…………」

シリウスはその声を聞くと、息を吐くように言った。

「約束もなしに電話するな。ただでさえ危うい状況だっていうのに……」

シリウスの冷たい言葉に、ケイシーは一瞬戸惑ったが、めげずに話を切り出した。

「す、すまない……今日のこと……っナタリーがフランにした仕打ちは、決して許されることじゃない。 彼女を止めることができなかった、俺の責任だ……」

シリウスは目を閉じた。

「……お前のせいじゃない。今日はっきりとわかった。あの女の執念は尋常じゃない。たとえ、お前や他の守護者が止めたとしても、あの悪女はあらゆる手段を使って必ず敵を潰すだろう……」

シリウスの声は強張っていた。

「……あ、悪女……」

彼のものとは思えない辛辣な言葉に、ケイシーは冷や汗を流した。

「犠牲者が出てもお構いなしなんだ……もう、そうとしか思えないだろう……」

マノンとマリオンの精神を極限まで追い詰め、ましてや愛するフランまでもが同じ目に遭うかもしれなかった。

シリウスの怒りの炎は、彼の中で今、静かに燃え上がっていた。

「…………っ」

ケイシーは言葉を詰まらせた。

「ヤツはあの校長の差し金だ。そして、その校長の目的は一つ……」

シリウスはケイシーに「わかっているだろ?」と問いの間を与えた。

ケイシーは目を閉じた。

「……両家の……俺たちの闘争心を煽ること……」

シリウスは頷いた。

「ああ。そして、白月と黒陽の対立の強化だ」

全てはクロスアルド家とオルマンダ家から膨大な寄付金を奪うこと。

対立を金持ちの娯楽と罵るメンジャークリン校長の浅はかで愚かな思考だった。

部派の対立が何の意味もなさないことなど、二人にはとっくにわかっていた。

その策として二人が考えたのは、敵の罠にあえてかかり、お互いがライバル関係を演じることだった。

だが、結果として、両家の対立だけでは物足りなくなった校長は、ナタリーという怪物をこの学園に放り込んでしまった。

「オレたちの仲を校長に……そして、あの悪女に知られるわけにはいかないんだ!」

両家の対立を楽しむ校長にとって、シリウスとケイシーの絆は裏切りそのものだった。

その腹いせに、今度はナタリー以上の爆弾をこの学園に投下しかねない。

なんとしてでもそれは避けたかった。

シリウスは眉間にしわを寄せ、受話器を握ったまま、虚空へ視線をそらした。

「……オレたち……本当の敵にならざるをえないようだ……」

「…………っ!?」

ケイシーは目を見開いた。

胸の奥がざわつき、鼓動の高鳴りが息苦しく感じる。

彼の返事を待っているシリウスも、目を閉じて受話器を持つ手にぎゅっと力を入れた。

ケイシーは必死に冷静さを保った。

「……これ以上ヤツが好き勝手しないためには……それが……一番の解決策だよな……」

親友の大切な想い人を守るため……。

わかってはいたが、そのためには自身がナタリーの餌食にならなくてはならない。

一人で耐えられるだろうか……。

今シリウスを失うのが怖い……。それが正直な気持ちだった。

「……わかった…………校長の願う通りにしよう……」

絞り出すような声でケイシーは言った。

「……すまない……ケイシー。……フランのためなんだ……」

そうしてお互いは、静かに受話器を置いた。



「いかがかしら?」

ケイシーはハッとした。

目の前にナタリーが立っていることに気がつき、ケイシーは彼女を見上げた。

「ぼーっとなさるなんて、あなたらしくありませんわよ? まぁ、この美しさを前にしてなら、仕方ありませんわね」

ドレスのスカートを上げ、クルクルと回りながら、ナタリーが言った。

「…………」

ケイシーはそれを冷ややかな表情で見つめていた。

ナタリーは2トーンのピンクのドレスに身を包んでいた。

シルクサテンのドレスにキラキラ光るビジューと大きなフリルがいたるところにあしらわれ、肩から手首に向かって膨らむ袖のデザインが存在感を際立たせていた。

「イヤリングはこれでよろしいかしら?」

ナタリーはこれ見よがしに、耳につけた大きなパールのイヤリングを揺らした。

意見したところで、どうせ彼女は考えを改めようとはしないだろう。

ケイシーは諦めたように視線をそらし、無気力に返事をした。

「……ああ」

「やっぱり! あなたならわかってくださると思いましたわ! このパール、わたくしの純粋さを表していますのよ!」

ケイシーとは対照的に、ナタリーは両手を合わせて、芸術祭を待ちわびるように飛び跳ねた。

(……そういえば、リドルに頼まれていたな)

ケイシーはふと思い出し、立ち上がってナタリーに問いかけた。

「ナタリー。そろそろ教えてくれないか? フランから盗られたっていうものを」

ナタリーは動きを止め、黙り込んだ。

そんな彼女を見て、ケイシーは察した。

「……やっぱり、君の嘘だったのか? ……頼むから、これ以上俺たちを困らせないでくれよ。黒陽の信用にも関わるんだからな」

呆れて言う彼に、ナタリーはフフッと笑みを浮かべて近づいた。

「あら……嘘ではありませんわよ? もうすぐ……もうすぐですわ!」

意味深に胸を弾ませるナタリーに、ケイシーは眉をしかめた。

「……? 何がだ?」

するとナタリーは、ケイシーの肩に手を置き、「しーっ」という素振りを見せた。

「もうすぐわかることですわよ! フフフフフフ……っ」

ナタリーは困惑するケイシーに満足したように笑うと、くるっと身体を返して、鏡の前でフリルを整え始めた。

ケイシーは眉をしかめたまま視線を伏せた。




第三章「決定打のステージ」前編②に続きます。


最後まで読んでくださってありがとうございました!

またも2パートに分けることになりました。

なかなか綺麗にまとめられずすみません。

次の「決定打のステージ」前編②も、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ