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己の身

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 歩き続け日が昇った翌日の昼の事。ドォォン!!と轟音が森中に響き渡る。万緑が続く中、砂埃が派手に舞い上がった地点では、三人の男女が顔を青くしながら必死に何かから逃げていた。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!おい!この道は安全じゃなかったのか!?」


 深い森の中、必死に走りながらそのように叫ぶは黒髪黒眼、身長百七十程の男性……時宗黒。銀髪の少女……ルナを背負っており、手と体の自由があまりきかない状況であるにもかかわらず、盗賊ミームーよりもかなり前を進んでいた。


「想定外ッス!普段は安全なはずなんス!!……ってか!すこっしも!待つつもり無いッスね!?」


 黒の後方を走るは長い金髪を後ろで括った、身長百九十程の優しそうな雰囲気の男性……ミー。その青い瞳は前方を行く黒と、自身と並走するムーを気にかけていた。


「っったりめぇだ!あんな奴までいるこの森危険すぎるだろ!!生存優先!裏切り覚悟!さっさと餌になって死ね!!」


「言ってる事が極悪人のそれ!!それよりまずいわ!!この先崖よ!!」


 危険を叫ぶは肩まで届くさらさらとした茶髪の綺麗な女性……ムー。身長百八十とスタイルの良い彼女は、流石元盗賊か。黒とミーの速度についていける程身軽に走っていた。


「……ていぅよりもう無理ぃ!!」


 しかし、それも必死に食らいついてるが故の産物のために限界は近かった。音を上げるムーを無視した黒は、'崖'という言葉に疑問を示した。


「崖!?そんなもん飛び降りれば」


 そこまで口にした黒は、ガサッ!と森から飛び出し、視界が開けると言葉を失ってしまう。


「はぁっ……!!はぁっ……!!飛び降りられる程……低い崖だったら良かったわね……。」


 立ち尽くす黒の後ろに、ひざに手を付き肩で息するムー。

 黒が目に映すは、ザァァッッ!!と轟音を鳴らし流れ落ちる滝。勢い良く流れ落ちる水が、水しぶきで最後まで見えない程高い崖。そこから先に広がるはずっと奥まで続く緑に、遠くにうっすらと見える海。そして、とんがった屋根が印象的な西洋風の水城を中心として家々が広がる国があった。


「あれがモロッコ王国ッスよ!黒っち!っても、ここからじゃほとんど見えないッスけど……。」


 苦笑いを浮かべるミーは、「でも!」と続ける。


「あと少しッス!!」

「どんくらいだ?」

「迂回するんであと十日ッスね!」

「なげぇよ。」

「だいじょぶッス!!十日はそう遠かねぇ!つってね!」

「……。」

「あれ!?黒っち!?は、反応は!?」

「いいから。……私達いま追われてるのよ?」

「ッスゥ……。」


 ジトッとミーを睨みつけるムー。しょぼんとするミーを他所に、黒は改めて崖の下を見るも水しぶきで見えず。高さは八十メートルもの巨木が四本入るくらいはあった。つまりは飛び降りたら普通に死ねる。


「ミー。ちなみに迂回するとしたらどの方向に行く?」

「来た道を真っ直」

「他。」

「……ぅう。とりあえずこのまま右に」

「安全か?」

「……いくつか、魔獣の縄張りに入るッス。」

「……そうか。」


 その道は選びたくなさそうなミーを見て、難しそうに眉をひそめる黒。その時であった。



「ギュォオオォオオッッッ!!!」



 耳を塞ぎたくなるほどの雄叫びと共に、八十メートルもある巨木が目を疑いたくなるほど根元から綺麗に両断されると、現実逃避したくなるほど簡単に弾き飛ばされ、崖下へ向かって落ちてしまった。


「っっち!!ミームー!来い!」


 そう言って黒は躊躇ちゅうちょもせずに落ち行く巨木の上に飛び乗った。


「……は?」

「……え?」


「「はいぃぃ!?」」


 あまりの無茶に目を見開いてしまうミームー。いくら森での生活が長いと言えど、流石にそんな度胸あるはずがなかった。それだのにあの男はなんと言ったか。'来い'である。


「ムーさん。死ぬのと死ぬの。どっちがいいッス?」


「どっちも死ぬんじゃない!!〜〜っっ!!あぁもう!!早く行くわよ!!」


 投げやり気味にミーと手を繋ぎ飛び降りるムー。


「……はぁ。仕方ないッスよねぇ。」


 諦めたミーの体からブワッ!と青い粒子が舞うと、ミームーの周囲をおおう。


「'重力操作(グラヴィティ)'……!!」


 ギリッ!とミーが歯ぎしりをする。それは適性ではない魔法。体からブワッ!と凄まじい勢いで舞い散る青い粒子。抜け行く魔力。脱力してしまえば、木に捕まるチャンスを逃す。理解しているからこそミーは力が残る程度に調整する。


「ムーさん!ぜったいに……!離さないでくださいッスよぉ!!」


 真下へ加重されると慣性を無視して落ち始める二人。加重と軽減を繰り返すと当然ミームーの体調は悪化する。故にミーは一度で決めたかった。そのためには……。


「黒っち!!」


 巨木に掴まる黒へと手を伸ばした。ミーから手を伸ばされると黒は反射的に手を伸ばしたが、ミーの手と触れそうになった時、バッと、思わず手を引いてしまった。


「……ぇ?」


「……ぁ。すま」


 ミーが目を見開き、黒が謝ろうとした時。一行より先に下へ降りる魔獣の影。バシャン!!と勢いよく滝壺に入ったか、跳ねた水の勢いにて黒ら一行は落ちる進路から弾き飛ばされる。


「ちっ!!'遮防幕(ムーディル)'!!」


 黒の背後に何枚も生成される黒い壁。それは弾き飛ばされた黒とぶつかるとパリン!と直ぐに割れる。何枚も突き抜けてゴロゴロと地面に転がる黒は、痺れる体を無視して即座に体勢を整えた。


「くそっ!ミームー!……大丈夫か!?」


「なんとかっ!ッス!」


 ムーを抱きしめたまま、'重力操作(グラヴィティ)'にてふわりと地面に着したミーは、青い顔しながら黒と同じく滝の方向へ向いた。


「ミーくん。ありがとう。……少し、休憩を」


 少しばかり気持ち悪そうなムーは、ミーにお礼を言うとその場にしゃがもうとする。しかしその時であった。



「ギュォオオォオオッッッ!!!」



 水中より勢い良く飛び出したそれは、雄叫びとともに水しぶきを辺りに散らせる。触れたものはジュワァ……と溶かされて、原型がなくなってしまう。


「ムーさん。残念ながら休憩時間はくれなそうッスよ。」


「そ、そんなぁ……。」


 水中より姿を現すは、剣のような鋭い爪の目立つ翼を背にした四足歩行の竜。ごつごつとした龍鱗はてかてかと光り、地面に突き立てる四肢は白濁色の物体でおおわれていた。


「ちっ。しつけぇな。ミー。あれなんだ?」


 バチッと弾ける黒い雷をまとう槍……'雷槍'を生成した黒はそれを握ると構える。右腕を雷が伝いビリビリと破壊しようとするも、激痛を無視して黒はミーへたずねた。


「……あれは酸爪竜ッスね。」


「やっぱりおかしいわよ。いま昼よ!?夜に活発化する竜なのに!……それに、あいつの縄張りはこんな所じゃないはず……。」


(……酸?……あの液体か。長ぇ爪。木を両断するんだ。受け止めないのが正解だな。)


 ミームーの話を聞きながら黒は酸爪竜をにらむ。雷槍を握ったのは当然応戦するためであり、黒がその気だというのはミームーも簡単に察せれた。


「無茶よ!あれが見えないの!?岩がドロドロに溶けてるのよ!?あの酸に当たらず勝つなんて無理よ!!てか早く逃げたいんだけど!?」


「逃げても追ってくる。危険だと分からせなきゃいつまでも獲物のままだっ!」


 ダッ!と駆け出した黒は、自身を睨む酸爪竜をギロリと睨みつける。


「っっ!!ギュギャォォオオオッッ!!」


 反撃に出た黒を生意気と怒り雄叫びを上げる酸爪竜。その瞳が鋭くなれば、剣のように鋭い翼を構える。その姿を例えるとするならサソリ。自らの武器を前に出し、弱点である頭を守ると同時に攻撃の姿勢も崩さない。そんなすきのない構えは走る黒に一瞬の動揺を生ませる。


(巨木を両断したのは間違いなくあの翼だ。……なら。)


 グッと姿勢を低くした黒は、酸爪竜の攻撃手段を把握し、その翼の動きを注視していた。そして、その鋭利な翼が僅かに黒へ傾いた時、黒は地面を踏み締める足に力を入れた。


「……今。」


「ギュォアッッ!!」


 剣のような翼を前に突き出した酸爪竜。その動きを察していた黒はダンッ!と跳躍し、生成した'遮防幕ムーディル'を足場として用い、空中を走り酸爪竜との距離を詰める。


「……この距離なら」


 ダン!と酸爪竜の頭上へ跳び出す黒は雷槍を投げようとしたが、目を見開いた。酸爪竜の背中には二つの水の球が創り出されていた。


「しまっ」


 ガンガンと脳内で警鐘が鳴り響く。それは全身を襲う嫌な予感が生み出した本能の訴え。しかし、逃げようにも現在黒は空中に居る。突然のそれに対応できなかった。


「ギェェェェェッッッ!!」


 酸爪竜の雄叫びの直後。生成された水の球は黒へ向けて射出される。


「ちっっ!!」


 '遮防幕ムーディル'を目の前に展開した黒であるが、直後。展開された黒い壁は真っ二つに両断される。


「な……。」


 ズレる黒い壁。その隙間から覗くは酸爪竜の鋭い瞳。

 呆然とした黒の目と見合った酸爪竜は、白濁色の物体をまとった腕で、黒の体を叩き落とす。


「ぐっっ!……ぅ!!」


 バチャッ!と勢い良く着水した黒は、全身を襲う衝撃にもだえる事しか出来ず。グラグラと揺れる視界の中で雷槍をつかもうと必死に手を伸ばすのが限界であった。


(あと……少し!……と、どけ……。)


 ブルブルと震える黒の指先が雷槍にちょんと触れると、直ぐにグッ!と握る。



 バチバチバチッッッ!!



 黒い雷が水を伝い全てを破壊せんと襲いかかる。黒の体を。川に生息する生物を。川の水に足を浸けてる酸爪竜を。


「ギュエェエエエッッッ!!」


 痛みに雄叫び上げる酸爪竜。それを背後に、何とか近くの岩に掴まり水上へ這い上がった黒。体の至る所が雷に裂かれ、酷い火傷を負っていた。ダラダラと血が流れ岩を血で染め上げる。当然、重傷である。意識は切れる寸前であった。


「黒っち!」

「黒さん!」


 バシャバシャと水を蹴りながらミームーが近づく中、黒はガタガタと震えながら、ゆっくり起き上がると、再び雷槍生成した。


「黒っち!もう十分スよ!逃げる……ス……。」


 黒の体を支えるミーは、息を飲んでしまう。


 ---

 スキル


 '抗う者'

 自分より優位な相手との戦闘時、身体能力が倍増。維持される


 '窮鼠きゅうそ

 傷が増える度身体能力が一時的に倍増。

 ---


「ぐっ!……がぁ!!」


 血に染まった岩に紫色の文字が浮かび上がると、直後。ギチギチと人体から鳴ってはいけないような音が黒の体から聞こえると、たまらず黒は叫んでしまう。


「だ!?だいじょぶッスか!?」

「なに!?まさかどこか折れて」


「……るさい。」


 ガンガンと頭痛が思考を鈍らせる中、黒の焦点の合わない目は、こちらを睨み付ける酸爪竜の姿をなんとか捉える。


「ま……だだ。あいつはまだ……。やるつもりだ……。」


 酸爪竜は大したダメージを負っていなかった。体のテカリを生み出す酸ががされ、いくつか龍鱗がひび割れただけである。四肢にまとわれた白濁色の物体は、まるで生きているかのように全身に広がって行き、また元の酸をまとった状態に戻ってしまう。


「ギュェェェエエッッ!!」


 バサッ!と翼を広げる酸爪竜は、ギロリと黒を睨み付ける。


「黒さん。そんな体で戦えると思ってるの!?」


 ふらつく足取りで歩き出そうとした黒の肩を掴みムーは叫ぶ。


「……戦える。今までもそうだった。」


「ルナちゃんの分。傷つきながら?」


「っっ!!」


 目を見開いた黒はムーを見た。キッと睨みつけるムーの瞳には怒りが含まれていた。


「ずっと。ずっとおかしいと思ってたのよ。あなたは死にそうなくらいボロボロなのに、ルナちゃんの体には汚れこそあれど、擦り傷一つないなんて。」


「……。」


 バレたと言わんばかりに顔をしかめる黒は、ムーの目から目をそらしてしまう。


「ルナちゃん。……ずっと貴方の心配をしてた。どうしてだか分かる?いつも死にそうなくらいボロボロで、なのに無茶して。傷は増えるばかりで自分は何もできなくて。口を開けばルナちゃんを守る。そればかり。貴方……自分の心配はいつするの?」


「……。」


 自分の心配。その一言に黒は言葉を失い自身の腕を見た。両手で雷槍を扱っているためか、バチバチと雷が弾ける度に皮膚が裂け、血があふれる。火傷で黒くなったその手はもはや炭化しており、僅かな感触も残っていなかった。


「俺は……。」


 黒は当たり前の事を忘れていた。痛いという感情を仕方ないとして割り切って体を無理矢理動かしてきたのだ。感覚は完全に麻痺していた。


「……なぜ。」


 炭化した手を見ながら黒は呆然としていた。自分がなんの為にここまで傷を負っているのか分からなくなってしまったのだ。


「ギュエェェェェッッ!!!」


 動きを見せない黒にしびれを切らした酸爪竜は雄叫びを上げると、ザバザバと酸混じりの水を蹴飛ばしながら黒めがけて駆け出す。


「黒さん!!」


 ムーの訴え。それはここで戦っても貴方が必要以上に傷つくだけであるということ。ギリッと歯ぎしりをした黒は、右手にある雷槍を握りしめる。


「……チッ。('遮防幕ムーディル')」


 突如として酸爪竜の目の前に生成される黒い壁。驚き、反射的に後ろへ下がった酸爪竜は黒い壁にヒビが入っている事に気がついた。


「逃げるぞ。」


 バチッと弾ける雷の槍を投げた黒は、雷槍が'遮防幕ムーディル'を破る所を見る事なく振り返り走り始める。


「……分かったわ!」


「おけッス!」


 ヒビが広がる黒い壁を警戒せずに、切り裂こうと走り出す酸爪竜。しかし、酸爪竜が'遮防幕ムーディル'を切り裂く前に、投げられた雷槍が先に貫通した。バリン!と割れた黒い壁。貫通してそのまま直進し続ける雷槍は、酸爪竜に突き刺さらんと迫り行く。


「っっ!!」


 翼を広げ、急遽きゅうきょ後方へ跳んだ酸爪竜は、スレスレの所で身をよじると、迫る雷槍を避けた。

 '遮防幕ムーディル'を貫き、滝を貫き、岩壁へドゴォン!と深く突き刺さる雷槍。そこから無尽蔵に放出される黒き雷は岩壁を破壊すると、バチバチと水を伝い、酸爪竜の体に付着した酸を再びぎ落とした。


「ギュォオオォオオ!!!」


 再び逃げ始めた獲物を見る酸爪竜は、二度も自身へ攻撃した黒に怒り走り出そうとするが、その足を直ぐに止めた。パキパキと川の水が凍り始めていたのだ。



 ---逃がさぬぞトカゲ。



 トッ……と。静かに氷上に現れるは一匹の狼。白銀の体毛はキラキラときらめき、シュッと引き締まったしなやかな筋肉からなる体のラインは美しく。ただ存在するだけで周囲の物を凍てつかせるその魔獣は。


 ---氷狼。……その長として仇は討たせてもらう。……覚悟しろ……!


 突如現れた氷狼を見た途端、酸爪竜の目の色が変わる。薄かった黄色の瞳は真っ赤に染まり、剣のような翼は五つに裂け、まるで本気を出すと言わんばかりに周囲に酸で創られた球体が生成される。その数。七つ。


「ギュォオオォオオッッッ!!!」


 氷狼と酸爪竜の戦い。それは陽の光に照らされた氷の欠片と、酸の雫がチラチラと光輝き美しく。限りなく生成され放たれる氷の弾に突き上げる氷の柱、そして、その全てを両断し雄叫びを上げる竜。その様は見る者に息を飲ませ、魅入らせるものだった。


「なんだ……?また増えたぞ。」


 黒は逃げながらその光景を見ていた。


「あれは氷狼ッス。……酸爪竜と同じくらいやばいんスけど……敵対してる見たいッスね!」


「いぃから……ぜぇ……。ぜぇ……。早く逃げるわよ!!」


「……ぉ、おう。」


 走るミームーを追うようにして走る黒は、氷狼と目が合ったような気がしたが、今は得たチャンスを逃さずに、逃げに専念する事にした。


 --

 -


「「「はぁっ……!はぁっ……!!」」」


 しばらくの間ひたすらに走り続けた一行は、ぜぇぜぇと荒い息を吐いていた。


「逃げれ、た……のよね?」


 地面に腰を下ろしたムーは顔を真っ白にしながらもミーへたずねた。


「ムーさん。お疲れ様ッス!何とか逃げれた見たいッスよ!」


 ミーは'空間収納(アイテム・ボックス)'から水筒を取り出しムーへ渡す。


「あり、がとう……。ミーくん。」


「はいッス!」


 こくこくと水筒の水を飲むムーに笑顔で返すミーは、もう一つ水筒を取り出しながら黒を見た。


「黒っちもどうぞッス!!」


「はぁ……はぁ……。……。……いや、いい。」


 そっぽを向いた黒は、ルナを抱えると木陰の方へ行ってしまった。


「……そ、ッスか。」


 ミーは渡しかけた水筒を引っ込め、黒と水筒を交互に見た後、ぐぃっと水筒を一気に傾けた。


「よし!ムーさん!疲れたんで休みやしょう!」


「言われなくても休むわよ……。」


「まぁまぁ!あえてッスよ!あえて!」


 にしっ!と満面の笑みを浮かべるミー。その笑顔に引きづられたムーの口元は、疲れていたはずなのに自然と緩んでしまう。


「分かってるわ。……ありがと。」


「っっ!!……ッス。」


 ムーに笑顔を向けられると、ミーは照れたか。その目を逸してぽりぽりと頬をかいた。


「……ふふ。なによその反応……。」


 その様子を見てムーはくすくすと笑う。


「ぁ、な、笑わないでほしいッスよぉ。」


 ミーは恥ずかしそうに後頭部をかいた。ミームーが互いに疲れをやし合う中、大きくため息を吐いてしまう黒は、少しでも楽な姿勢を取るために、ルナを前で抱える事にした。足を開き、右足だけ高い位置に上げると左足でルナを受け、右足で背もたれとして支える。


(……俺の味方はルナだけだ。)


 楽な姿勢で座る事が出来た黒は、ミームーを見ては軽く首を振る。


(……ルナ。)


 抱きかかえる少女は未だに目を覚まさない。死んでいるかのように脱力した体は、何度も黒を不安にさせる。


(……早く目覚めてくれ。)


 普段は信じない神。人生で三度目、黒は再び祈った。


(他に何を失ってもいい。だから……ルナだけは。)


 脱力した少女の体を支える黒の手は震えていた。恐れているのだ。手の中に居る少女がこのままずっと目覚めないのではないか。そのように思うとちらちらと祖父母の姿が頭を過ぎってしまうのだ。


「……俺を、独りにしないでくれ……。」


 ぼそりと呟いた黒の一言。ルナを抱き締めて目をつむる黒の姿をミームーは黙って見ていた。

「あとどれぐらいで着くんだ?」

「……!……そうッスね。崖降りれたんでだいぶ縮まったッスよ。あと……三日ぐらい?」

「……長い。」

「仕方ないッスよ。一日や二日で行けるとこにアゲルトが拠点構える訳ないんスから。」

「チッ。」

「ぁ、はは……。」

「……。」

「……。」

「……。ミー。その、さっきは……。(あの時俺はミーの手を掴めたのに……離してしまった。)」

「……?……なんスか?」

「……。なんでもない。この先も安全なんだろうな?」

「はいぃ……。」

「出来れば目を逸らさないで欲しいんだが?」

「ぅう。だって……正規の道じゃないんスよ。」

「だろうな。……ムーが疲れきってのびてる。」

「……ぇ?……ぁ。ムーさんがだらけてる。珍し。」

「何よ……。嫌よ。まだ行かないわよ。今の私はテコですら動かせないんだから……!」

「ぁ、はは。結構無茶したッスもんねぇ。そりゃ疲れやすよ。」

「の割に貴方達は涼しそうね!特に黒さん……!そんなにボロボロなんだからもっと重傷者らしくしたらどうなの!?」

「……ほっとけ。」

「ミーくん!なんでそんなに優しいの!?」

「ぇ、と?ありがとッス?」

「なんで私はこんなに疲れてるのよぉぉ!!」

「……。ミー。ムーのタイミングで出発だ。」

「わ、分かったッス……。」

「もぉ!つかれたぁ!」

「ガキか。」

「……ぁ、はは。」

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