表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

使命と選択。

 --

 -


 鬱蒼うっそうとした森。日が暮れ真っ暗な森の道なき道を草木かき分け進むは黒髪黒眼。身長百七十程の男性……時宗黒。その鋭い瞳には疲れが見えるものの、足取りに迷いはなかった。


「大丈夫だからな。なにがあっても俺が守るから……絶対。」


 荒い息を吐く黒は、背負う身長百六十程の銀髪の少女……ルナに向けて話しかける。気を失っているルナはだらんと脱力しており、黒の言葉に何かを返す事はなかった。


「キョロロッ!!」


 黒の死角から跳び出す下位魔物。その腐ったような手を組み、振り上げると黒の後頭部を狙う。


「'遮防幕ムーディル'」


 カァン!!と衝突音が鬱蒼とした森に鳴り響く。黒と下位魔物の間には黒い壁が作られていた。それが下位魔物の奇襲から黒を守ったのだ。しかし、一秒と持たずに黒い壁にはヒビが入ってしまう。


もろい……。)


 黒が壁を蹴り飛ばすと同時。バリンッ!とガラスが割れるかのような音と共に壁は破れ、反対側に居た下位魔物を蹴り飛ばした。


「ギョロッ!?」


 巨木の幹に打ち付けられた下位魔物は、衝撃のあまり白目をいてしまう。


 ---


「……おい。お前。」


 蜘蛛の巣状に荒れ果てた盗賊団アジト前の広場。黒がにらむは身長二メートルを優に超える褐色肌の男性……スコット・ナーガ。ルナの魔入りに対し疑念を抱いていた人物だった。


「ルナの額に角がない。魔族になったんだろ?どういう事だ?」


 抱き上げたルナの額を見ながら黒は尋ねる。魔族となったはずのルナの額には、本来あるべき角が見当たらないのである。


「……。分からない。今まで見て来た魔族に角なしは居なかった。魔入りが失敗したのか、これから生えてくるのか。……すまぬ。」


「……ちっ。」


 はっきりとしない事態に苛立つ黒は、振り返り森に入って行く。


「我々はグランツ王国へ向かう。貴殿も共に来てくれぬか?」


 落ち着いたスコットの野太い声が、森へ入って行く黒の背にかけられる。


「……。」


 黒は一度足を止めた。それは、国というある程度安全が確保された場所へ行く事が黒の目的であったからだ。


「強制はしない。ただこの森は危険だ。その子供を守りながら行くのは難し」


 直後。バチバチと音をたてる雷の槍がスコット目掛けて投げられる。


「うぬ。」


 大剣を一振り。スコットは雷槍を相殺し、森へ入って行く黒をそのまま見送った。


 ---


 思い出されるはルナの魔入りが終わった直後の事。下位魔物の急襲にあって思い出すのは、自らの選択に少しでも迷いがあったためであった。


(大丈夫だ。魔法だって使える。……こんな森。ルナを守りながらだって余裕だ。)


 それはもはや自身に言い聞かせているようなものであった。


(ルナの寝息も、心臓の鼓動も感じる。ルナは生きてる。魔族になったからってルナは変わらない。俺の守る対象は変わらない。)


 グッと地面を踏み締めた黒は、真っ暗で先の見えない森の奥を見据えると、ダンッ!と駆け出した。直後。「キョロロォォ!!」と何匹もの下位魔物の鳴き声が辺りに響き渡る。


(弱気になった時が……終わりだ。)


 --

 -


「……はぁ。……はぁ。」


 ガサッ!と更にぼろぼろになった黒が草木から出たそこは、月光が僅かに地面を照らす、少し開けた地形の場所。


(休憩。ここでルナが目覚めたらいいが……。)


 しばらく周囲の警戒をした黒は、気配が感じられないと判断するとゆっくりと中央へと歩き出す。チラチラとドス黒い粒子が辺りに散る。


(これが出てからか……。魔法を使えるようになったのは。)


 ルナを助ける時に出た謎の粒子。黒はこれが魔法を使えるようになったのに大きく関係すると察していた。


(……分からない事ばかり増えやがる。)


 チラチラと異様に光るドス黒い粒子は、黒の意思に従いその右足に纏わり、吸収されて行く。


(ただこれだけは分かる。これは俺に力をくれる。それも。)


 ギチギチと右足から嫌な音が鳴ると、徐々に痛みも感じ始める。黒はルナを背負いながら駆け出すと、中央にあった木に蹴り入れる。メキッ!と鳴った木は、メキメキとゆっくりへし折れる。


(簡単に限界を超える程の力を……。)


 倒れ行く木を見て、その力の大きさに目を細める黒。しかし、岩を両断する盗賊。頬傷のギリーや、この蹴りを食らってもビクともしなかったスコットを思うと首を振るった。振るざるを得なかった。


(俺はようやく同じ土台に上がっただけだ。)


 右足に吸収されていたドス黒い粒子が霧散して行く中、黒は背負っていたルナを前で抱きかかえ、へし折った木の幹に座る。


(だから俺より強い奴はまだ居るし……。竜とか勝てる気がしないし……。それでも……。)


 うつらうつらと閉じようとする目を必死に開こうとする黒。気を抜けば今にも眠ってしまいそうな程、疲れた体の訴えは強かった。


(俺は、もぅ……。負けられ……ない……。)


 薄れ行く意識の中。黒は起きないルナの手を握り、ゆっくりと目を閉じた。


 --

 -


「黒っt……。黒さん行っちゃったスね。」


 蜘蛛の巣状に荒れ果てた盗賊団広場前。

 長い金髪を後ろで括った身長百九十程の男性……ミー。その寂しそうな青い瞳は森へ去って行った黒を見送った。


「……私、声を出せなかったわ。……。出せるはずないのよ……。」


 肩まで伸びた茶髪が綺麗なスタイルの良い女性……ムー。その茶色い瞳は悲しそうにミーへ向けられる。ムーのそれは当然であった。ミーは黒を殺し、ムーはそれを見ていた。二人の目の前で絶命したはずの人間が生きてて、喜びと疑問と罪悪感とがごっちゃになった感情で、一体なんと声をかければよいのか。


「……。別人みたいだったッスね。黒さん。」


「……。裏切ったのは私達だもの。……当然よ。」


 うつむいてしまうミームー。自らを養護する言葉なんて言えなかった。


「貴殿らは共に来てもらう。色々と話を聞きたい。」


 落ち込んだ様子の二人に話しかけるは、二メートルを優に超える褐色肌の大男……スコット。


(この人達は確かグランツ王国に向かうと……。ならこの誘いに乗ればムーさんと安全な場所に行ける。それに……。)


「それって強制……」


「……だ。」


「……ッスよねぇ。」


 少し悩んだ末の返事を聞いたミーは、分かっていたと言わんばかりににへらと笑い、ムーの手を取った。


(俺の目的は罪意識の返上じゃない。どれだけ汚れたってどうでもいいんス。ムーさんを守る為なら。)


「ムーさん。行きやしょう。」


 取ってつけたようなミーの笑みにムーは直ぐに気づいた。'見ないようにしてる'と。


「……えぇ。」


 不服そうなムーの返事。それは大事な人の死を目の前に泣き叫んだ少女の姿が色濃く頭に残っていたからだった。後ろ髪を引かれる中、ミーに手を引かれスコットの後を付いて行くムー。そんな時であった。


「ご、ごめんなさい!!」


 無理矢理反抗した感が抜けないような女の子の声が辺りに響き渡る。振り返れば十数体もの光り輝く兵士が剣を天に向け待機していた。


「ぬぅ……。」 


「はは、この兵士、まだまだ出せるみたいだね。」


 どうしたものかと悩ましげなスコットに、呆れも含まれた戦慄するようなビリドの声。二人の強さなど既に知れているが為に、目の前の兵士の実力もある程度知れてしまう。


「ミケル殿。先に。」


「はい。」


 スコットの指示と同時であった。金髪碧眼。スーツのような黒服を身に纏った女性は'空間移動'にてこの場から消えてしまった。


「貴殿らは後ろへ。」


 スコットが大剣を構えながらミームーの前に出る。


「出来るだけ木陰に身を潜めておけ。この数だ。体が焼かれても責任は取れん……。」


 スコットの額を脂汗が伝う。それは、いかに対処しようか考えていると見受けられた。それ程までに真剣なスコットの表情。ミーはムーの手を引き、直ぐに木陰へ避難すると、そこからスコットの後ろ姿を見ていた。


「……ねぇ。ミーくん……。」


 背中から不安そうなムーの声を聞いたミーは、直ぐに振り返った。


「どうしたんスか?」


 ムーの申し訳なさそうな顔を見て心配するミー。ムーは少し躊躇ためらった後にゆっくりと口を開いた。


「わがまま……。言ってもいいかしら……。」


 ミーは直ぐに察した。ムーのわがまま。それは。


「二人を追いかける。ッスか。」


「……。……えぇ。私忘れられないの。ルナちゃんの泣いた顔が……。」


 ムーの頭には泣き叫ぶ少女の姿が色濃く残っていた。それは、少女に強い同情の念を抱いたからか、ミーを失った時の自分の姿を幻視してしまったからか、それとも単なる罪悪感からか。


「アゲルトはもう居ないわ!私達を縛るものはなんにもないのよ!なら!……なら安全な所に行って無事を願うだけなんて……いやよ。」


「ムーさん……。」


 ミーは躊躇っていた。自らの役目はムーを守る事。このままグランツ王国に行った方が良いのだ。


「私達は盗賊よ……。グランツ王国に行ったって捕まって終わり。ならせめてルナちゃん達を国に案内してから捕まった方がいいじゃない……。」


「……。」


 ミーの頭を過るは、黒と川辺で愚痴を言い合った時の事。


(俺の目的はムーさんを守る事。この選択は危険すぎる。)


 ミーの頭を過るは黒と森を歩いた時の事。


(もう日も暮れる。……魔獣が動き始める時間だ。)


 ミーの頭を過るは背中を刺され痛みに叫ぶ黒の姿。


(あの人はきっと許してくれない。最悪攻撃してくるかもしれない。)


 ミーの頭を過るはビリドと対峙する中、無言で見つめ合った黒の姿。


(あの人はきっと……誰も信用しない。だからスコットの誘いを断った。)


 森へ入って行く黒の姿。ぼろぼろなその姿を見送ったあの時の思いは、寂しさ。……否。罪悪感。


(俺の……せいか。)


「……ミーくん!」


 今にも泣きそうなムーの顔を見てミーは諦めたように肩を落とす。


「危険スよ?……いいんス?」


「当然よ。」


 分かりきった答えにくすりと笑うミー。立ち上がるとムーへ手を伸ばす。


「すっきりしに行きやすか。ムーさん。」


「っっ!!……ぇえ!!」


 伸ばされたミーの手を取るムー。立ち上がった二人は見つめ合った後にコクリと小さく頷きあった。


 --

 -


 パチリと目を開く黒。その目は直ぐに横を睨む。


「誰だ?」


「ぁっはは……。ばれてたか……。」


 苦笑いしながら地面から姿を現すはビリド・スタッカー。直ぐにバチバチと弾ける雷の槍を生成する黒であるが、ビリドはぶんぶんと手を振るう。


「やだなぁ!戦いに来たんじゃないよ。僕はただ確認しに来ただけさ。」


「確認……?」


「君って死んだんだって?なんで生きてるの?」


 目を開いたビリド。その目に映るは投げられた雷槍の切っ先。


「わわっ!?」


 慌てて横に跳んだビリドを黒は睨み付ける。


「その反応……ほんとなんだ。凄いね、どういう原理だい?」


「……。」


「ま、凡そ想像はつくけどね。君ら転移者は特別すぎる力を手に入れる。厄介だねぇ〜。そして、五代目の英雄は複数のスキルを有する。同じ転移者の君もまた……ね?」


 黒はただ睨み付けるだけ。そんな黒に対しビリドはくすくすと笑い、手を差し出す。


「僕はグランツ王国精鋭第二部隊隊長ビリド・スタッカー。安全を保証しよう。時宗黒。僕と共に来るといい。もちろん。その子供も一緒にね。今の君じゃこの森は危険だよ。」


 にこりと胡散臭い笑みを浮かべるビリド。


「断る。」


 黒は一瞬の迷いすらなく断言した。


「それは残念。」


 ビリドは分かっていたと言わんばかりにため息をつくと、体を黒く染め行く。


「今ならまだ間に合うよ?行かないのかい?」


「……。」


「そう。じゃ、またね。」


 クスリと笑うビリドは静かに影へと消えて行った。しばらく周囲を警戒していた黒が目を閉じようとした時。パキッと枯れ木を踏むような音が聞こえた。


「……。」


 音のなった方向をギロリと睨み付けた黒。バチバチと弾ける雷の槍を生成したが、直ぐに解除してしまう。


「なんの用だ。ミー。ムー。」


 木の陰から現れるは長い金髪に青い瞳。身長百九十程の男性……ミーと、さらさらの茶髪に赤みがかった茶色い瞳。身長百八十程の女性……ムー。


「謝る必要ならないぞ。」


 ミームーの様子から察した黒は彼らが頭を下げる前に言った。


「「……。」」


 思わぬ言葉に目を見開いているミームー。それも当然。追い払われると思っていたのだ。そんな二人の思いを無視して黒は続ける。


「あれは仕方ない状況だった。裏切りでもなんでもない。そもそもあんなお粗末な作戦で行けると浮かれてた俺が悪い。お前らは命令に従っただけ。それだけの話だろ?」


「「……。」」


 なおも浮かない顔をしているミームー。面倒と思った黒はルナを抱き上げ、ミームーの元へ歩き出す。


「これで痛み分け。」


「「え?」」


 直後。黒は二人の額に組んだ指を解き放つ。つまりはデコピンである。


「「ぃっっつ!!」」


 両目をぎゅっと瞑り、額を抑える二人はしばらく悶えて居た。黒はそんな二人を無視して口を開く。


「お前らがこっちに来たのは罪悪感からだろうが、俺は今余裕がない。ただついてくるだけのつもりなら消えろ。」


 突き放した黒の言い方。黒が振り返り木の幹へ向かう中、ミームーは痛みに悶えながらも自分らに出来る事を考え、口にする。


「俺ら、モロッコ王国までの道分かるッス!」


「えぇ!それに'この世界'の知識だって教えれるわ!」


 ムーがそれを口にした時。ピタリと黒の足が止まる。


「……この世界?そうか、お前ら知ってるのか……。」


 黒はバチバチと弾ける雷の槍を生成すると、矛先をミームーへ向ける。


「「っっ!?」」


 直ぐに剣の柄に手を伸ばしたミー。そんなミーを無視しながら黒は言う。


「俺がこの世界の住民じゃない事はルナに言うな。てか、誰にも言うな。」


 ギロリと睨み付ける黒の迫力は、剣の柄をミーに握らせない程。


「わ、分かったッス。」


「……。」


 黒はミームーを交互に見れば、雷槍を解除しドス黒い粒子へと戻す。


「国までだ。」


「……え?」


「案内するのは国まででいい。」


 黒の瞳。それを見たミーは予想が当たってしまった事に眉をひそめた。


「一時間後に出る。それまで休憩だ。」


 そう言って話を終わらせた黒は、再び木の幹に腰を下ろすと目を閉じ、浅い眠りについた。


「「……。」」


 黒の中に壁が存在するのは予想していたが、休憩があるとは思っていなかったミームー。しばらくの間立っていたが、黒と少し距離を開けた場所に座った。

「……く、黒さん。」

「……あ?そんな感じだったか?気色悪ぃ。」

「ぅっ……。黒っち。」

「おう。なんだ?」

「その、俺が聞くのあれなんスけど……生きてるのってやっぱ、スキルってやつが関係してるんスか?」

「……聞いてたのか?」

「……ッス。」


「……。……いや。魔法だ。」

「……え?」

「適当な魔法使ったら生きてた。それだけだ。」

「適当って……。そんな簡単にそんな高度な魔法使えないと思うんスけど……。」

「いや、あれは魔法だった。ぎり間に合った。」

「そんなまさか……。」

「そんなまさかの世界だ。おかしくないだろ。」

「そう……なんス?」

「そうなんす。」


「ね、ねぇ。黒さん。それ痛くないの?」

「あ?……これか?」

「酷い火傷……。血も出てるじゃない!?」

「仕方ないだろ……この雷槍を握るとこうなんだから。」

「握るとって……それあなたが創った槍でしょ?おかしいわね……。自分の魔法は自身を傷つけないはずなのに……。」

「知るか。」

「知るかって……自分の事なのに他人事ね。」

「ルナを守る為だ。」

「……そう。」


「それは治さないんスね?」

「……。……ぁ?」

「いや、高度な魔法使えるのに回復魔法は使えないんだなぁと。思っただけッス。」

「……。よし。時間だ。行くぞ。」

「ぁ、ちょ……。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ