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一と二。そして黒。

 --

 -


 血溜まりに倒れる男が居た。身長百七十程の黒髪の男性……時宗黒である。血の気のない顔は徐々に生気を取り戻し、体中の傷が塞がり、折れ曲がった手足がバキボキと音を立てて正常な位置に戻る。ミチッと、乾きこびり付いた血が鳴れば、薄っすらとまぶたが開かれ、血走った黒い瞳があらわになる。


「……。」


 ズンと立てられる傷跡だらけの腕。ギチギチと鳴る体は限界故か悲鳴を上げ続け、腹を襲う鈍痛は黒の瞳に怒りを宿らせる。


「……。」


 しかし、黒は立ち上がる。身を襲う痛みも怒りも苦しさも全て無視して。黒はしばらくの間、手をニギニギと握ったり、「あー」と声を出したり、簡単な計算を脳内でしたりと体の正常さを確かめていた。


(体は正常。傷も全部塞がってる。……腹の鈍痛がきついな。……が、体は死ぬ前より断然軽い。)


 黒が体の正常を確かめ終えた時。爆音がとどろき、森の鳥が一斉に飛び上がる。


「……。」


 異様に静まる森に違和感を覚えた黒の目が、一つの方向へと向けられた時、その瞳は心配で色濃く染まる。


「……ルナ。」


 呟くと同時にグッと踏み込む黒。ダン、ダタン!と駆け出す黒の動きは軽く、死ぬ直前どころか正常であったとき以上であった。しかし、そんな事など念頭にない黒は、速度を落とす事なく森を駆ける。


(すぐに行く!!)


 そんな思いを強く抱いて。


 --

 -


 盗賊団アジト前には三十を超える盗賊が、一つの方向を凝視していた。一人一人がバキバキと音を立てて近づき来る存在を不安そうに見ていた。


(何が来やがる……?魔獣か?竜種か?どちらにしろ……大魔法を撃った後じゃきついな。)


 身長百九十程のドレッド頭の男性。盗賊団団長アゲルトは、盗賊員の最後尾にて森を見据えていた。


(隠れたとこで奴らは耳が良い。……こんなにいちゃ隠れても意味ねぇ。)


「てめぇら。出来る限り魔法を撃てるよう待機させておけぇ。」


 アゲルトのほおを冷や汗が伝う。彼は嫌な予感がしていた。盗賊にちてから十年以上の年月が流れている。故に研ぎ澄まされた直感が訴えているのだ。


「死ぬ気でかからなきゃ……殺されるぞ!」


 同時の事であった。高さ十メートル程、ガサッ!と音を立てて鬱蒼うっそうとした森から飛び出すは身長百七十程の上裸の男性……ビリド・スタッカー。長く淡い緑色の髪は肩まで伸び、左眼を薄らと隠していた。真っ白な肌故に異様に目立つ傷跡の数々。開かれた緑色の瞳は一瞬にして盗賊の団長を把握する。


「てめぇら!撃て!!」


 アゲルトの号令を聞き、三十名の盗賊が属性様々な魔法を放つ。しかし、ビリドが身をよじると全てをギリギリで交してしまい、魔法弾はドゴッ!バキッ!と、樹の幹をえぐる。


「そこっ!!」


 落下するビリドの動きを予測したアジーク。叫びながらも矢を引き放つと、狙いの定められた矢は、飛来する魔法弾を掻い潜り一直線にビリドの心臓へ。


「っっ!!」


 魔法弾の陰より現れたやじりに目を見開くビリド。しかし、その体が黒く染まり行けばニヤリと口が裂ける。ズズズッと地面に着すと同時に沈み消えたビリド。放たれた矢は黒く染まったビリドの顔を抉り、貫通しては後方の樹へと突き刺さる。


「「「「「消えたっっ!?」」」」」


 驚く盗賊団はしかし、バキバキッ!と鬱蒼うっそうとした森より現れた二メートルを超える大男……'スコット・ナーガ'に目を釘付けにされる。

 青いラインの入った銀色のよろいを下半身にのみ装着し、上半身は竜の皮から造られた青いラインが入った銀色のシャツを着ていた。パツパツのシャツから分かるのは、男性の体が凄まじい筋肉におおわれているという事。


「今度はなんだ!?」と一人が叫び、「音の正体は人間だ!勝てるぞ!」と一人が鼓舞し、「てめぇら!数ではこっちのが有利だ!かかれ!!」とアジークが命令をする。そんな中。とスコットは到着して直ぐにアゲルトに向かって叫ぶ。


「避けろ!!」


 同時の事であった。アゲルトの胸より真っ赤に染まった刃が突き出る。


「は……?」


 がふっとアゲルトの口からあふれ出る大量の血。目を見開いたアゲルトが後方を見ると、緑色の瞳が異様に光っていた。ビリドがアゲルトを背後から刺したのだ。


(どうなって……。)


 揺らぐ瞳。それはビリドの緑色の瞳を見続けた。

 困惑故か、自らを殺した者を目に焼き付けようする故か、何故か。アゲルトの頭の中を一つの情景が過る。二十年前のあの日。全てを失い地獄へ叩き落された日の事。


 入口に立ち尽くす子供。首を吊った両親。そして……。


(緑色の……ひと、み……。)


「「「「「お頭っっっ!!!」」」」」


 ひざから崩れ落ちるアゲルト。その姿は三十を超える盗賊らの瞳に映り、衝撃となり叫び声となる。そして。


「てめぇら……。もうちょい踏ん張れ……!」


 アジークの沈んだ声が異様に響く空間。その声色には静かな怒りが含まれいた。


「殺せ!!!」


「「「「「ぅぉおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」


 大きな怒りとなりてビリドへ迫り行く。


「殺す意味があったかって顔してるね。スコット。」


 三十を超えた盗賊らがビリドへ向かう中。ビリドの緑色の瞳が真っ直ぐスコットを見据えると、ビリドを中心に、十メートル四方の地面が黒く染まり行く。


「っっ!!いかん!貴様ら!やめ」


 ビリドのやらんとする事を察したスコットが叫び、駆け出した時。


「っっ!!ムーさん!!」


「きゃっっ!?」


 黒く染まり行く地面が危険と察したミーがムーを抱き寄せながらび。


「「「「「死ねっっ!!」」」」」


 怒りで我を忘れた盗賊らが一斉に斬りかかろうとした。




「'影之剣山ツェル・フェーヴェル'」




 ビリドの冷酷な声が透き通って聞こえると、黒く染まった地面から何百もの黒い剣が突き出る。三十名もの盗賊は、断末魔を上げる間もなく串刺しにされる。


「知ってるでしょ?これが僕のやり方さ。」


 黒い地面に消え行く何百もの剣と、三十の死体。その中心にてニコリと笑うビリドに、ギリギリで避けたミーとムーは絶句する。


「ぅ、嘘……でしょ。こんなの有り得ないわ……。」


(盗賊団を……一瞬で……。)


 二人の抱くもの。その瞳に宿すもの。次元が違いすぎる存在を前にして抱く感情は恐れ。まとう雰囲気は絶望であった。


「さ。スコット。早く用を済ませるよ。」


 驚き固まるミーとムーを見たくせして、ビリドは構わず土煙の方向へと歩き始める。


「「……。」」


 事態の成り行きを理解できないミームーは、互いに見合ってしまう。三十を超える盗賊からなる集団を一瞬で壊滅させた男が、'たった二人'を殺さないのだ。疑問になって当然であった。


「こ、殺さないんスか……?」


「殺されたいのかい?」


「ぃ、いや。そんな事はないッスけど……。」


 たずねたはいいものの、思わぬ返しに口を閉じてしまうミー。そんなミーを笑うようにビリドは緑色の瞳を歪める。


「君達は運が良い。他の盗賊達も、あれさえ避けれたら生き残れたのにね?」


 クスクスと笑うビリドは、ちらりとスコットを見た。剣の柄を血が出る程強く握りしめるスコットは、その力を抜き足早に歩くと、ビリドを押してさっさと歩かせる。


「……。……早く終わらせるぞ。」


「はいはい。君はすぐ不機嫌になるんだから。」


 ぐちぐちと文句を言うビリドは、スコットに押されながら土煙へと向かって歩いていく。


(助かった……んスか?)


 安堵故に脱力するミーだが、未だ何が起きたのか消化しきれていない様子であった。


「ミーくん。私達……生きられるの?」


「……そう、みたいッス?」


 互いに見合うミームー。何が起きてるか分からないと言わんばかりの顔は、土煙へ向けて歩いて行くビリドとスコットに向けられる。


「さて、どうしようか?これ?」


 土煙が晴れ行き、徐々に姿を現すは黒い影のような手に覆われた銀髪の少女……ルナの姿。虚ろなその瞳は何を見るか。胸の前で手を組み何を思うか。ぶつぶつと呟かれるか細い声は何を吐き出すか。ルナを見たスコットはグッと奥歯を噛み締めた。


「……どうするも何も。……痛みを感じる前に終わらせるしかなかろう。」


 スコットは背に担ぐ二メートルもの大剣を片手で軽々と構える。


(……こんな子供がな。可哀想に。)


 悲しそうに眉をひそめるスコットの頭を過るは、地面に横たわる子供の姿。五代目の英雄として活躍するはずだった、今は亡き子供の姿。大剣を振り上げると目を瞑った。


(大人は汚いな……。組織を守るためなら、こんな子供でさえ殺すのだから。)


 スコットはルナを殺す事に躊躇ためらっていた。血が流れる程強くくちびるを噛み、ギチチッと鳴る程強く大剣の柄を握る。丸太の如き褐色肌の腕には脈がくっきりと浮かんでおり、大剣を振り下ろしたくない思いが強く表れていた。


(せめて……一思いに。)


 ゆっくりと開かれた目は黒い手の内のルナを見据える。


(申し訳ない。)


 そんなスコットの思いと共に振られる大剣は、ルナの体をおおう影のような黒い手と拮抗する。黒い手はルナ姿が見えなくなる程周囲を囲う。それはまるで、スコットの大剣からルナを守るよう。


(なんだ……?この魔入り……。子供を守ろうとしている……?)


 スコットがルナの魔入りに対して疑念を抱いた時。ガサッと森から現れ、スコットの元へと駆ける者がいた。黒髪黒眼。身長百七十程の男性……時宗黒である。


「あは!やっぱり!……君も居なくちゃおかしいよね!!」


 待っていたと言わんばかりにスコットの上を飛び越えるビリドは、自らの周囲に杖のような長剣を起点として二つの魔力溜まりを生成する。バッと属性が変わるは毒と光。二十センチ四方の球体は、ビリドが地面に着すと同時に黒へ向けて飛来する。


「……。」


 速度を落とす事なく駆ける黒は、目の前より飛来する魔法弾と、杖のような長剣を構えるビリドを見据えた。


(……異世界とか。命の取り合いとか魔法とか。……どうでもいい。俺はただ。)


 過ぎる一秒一秒が黒にとって何分にも引き伸ばされたように感じる時間の中、地面を踏み締める黒の体からあふれ出すはドス黒い粒子。


「'破裂ブラスト'」


 ビリドの緑色の瞳が嫌に歪めば、黒へ向けて飛来していた毒と光の球体はバンッ!と破裂し、カッ!と眩く光れば黒の視界を奪い去り襲いかかる。間髪入れずに長剣を振るうビリド。その刃が破裂した毒や光を切り裂き、黒をも切り裂こうとした時。バチッ!と糸のように細い黒き雷が幾本も走る。


(……へぇ。)


 ビリドはその緑色の瞳を僅かに見開いた。ビリドの振るった長剣はバチッと雷を纏う槍に受け止められていた。


(転移者のくせして、もう高度な魔法が使えるんだ。)


 木の幹には紫色の文字が浮かび上がる。


 ---

 '魔創'


 想像した魔法は現実となる。

 ---


「……退け。何をしてでも守ると決めたんだ。」


 雷から創られた槍……'雷槍'を握る黒は直後。ビリドを弾き飛ばしスコットの元へと。否。黒い手におおわれた塊を目指して駆け出した。


(見えなくても分かる。……ルナ。そこに居るんだろ。)


 捉えるは黒い塊。にらみつけるはそれに大剣を振り下ろすスコット。濃密な殺意に呼応するように、ドス黒い粒子がチラチラと舞い散ると、背後から声がかかる。


「ほら。油断してると背中刺されちゃうよ?」


「っっ!!」


 突如として背中から現れたビリドに驚く黒は、後ろに振り返りながら雷槍を横薙ぎる。瞬時にバッと離れたビリドは、その口と瞳を面白そうに歪めて笑い出す。


「ぉっとと。ははっ!凄い反応速度!(ドライ達が負けるのも納得だね。)」


 ビリドは現在の状況を楽しんでいた。それは黒を凄いと思っているのではなく。


「平凡そうな'転移者'にしては……合格ってところかな?」


「っっ!!」


 ビリドが黒だけに聞こえるよう呟いたそれは、黒にとって驚きを隠せないものであった。


(なんでこいつ俺が転移者って事を……!)


 見開かれた瞳はしかし、直ぐにでもルナへ向けられる。


「ちっ。(どうでもいい。今はとにかくルナを)」


 黒の目がちらりと黒い塊を映した時。その視界の直ぐ下からビリドが現れる。


「寂しいなぁ。今は僕だけを見てよ!」


「っっ!!」


 咄嗟にバッ!と雷槍で振り払う黒であるが、そこにビリドは居らず。周囲を見てはミームーと目が合う。


「……。」


「「……。」」


 互いに見つめ合うその時間は短く。直ぐにふいと目を逸らした黒は、構わずにルナの元へ駆け出そうとした。


「ところで君はどんなスキルを持ってるんだい?」


 黒の隣で並走するビリドは優しく穏やかに笑いかけた。


「……。」


 黒は無言で雷槍を横薙ぎるも、今度は背中に何かが寄り掛かる重みを感じた。


「五代目の英雄……もう一人の転移者は子供でさ、持っている力が強すぎて暴走するんじゃないかってなったんだ。想定される被害はもちろん。一国が潰れるくらいだろうね。」


「……。」


 黒の背中に寄り掛かったビリドの横腹に肘を入れようとするも、今度は真上から人間の重さを感じた。


「だから彼女は殺されちゃった。……その点。君は英雄として問題なさそうに見える。どうだい?僕と一緒に来ないかい?」


「ちっ!」


 ガシッと足を掴み地面に叩きつけようとした所で、今度黒は気づいたらビリドの膝の上で寝ていた。


「……人間性にかなりの問題がありそうだけどね。ま、なんとかなるさ。」


「っっ!?」


 驚き目を見開いた黒は、慌てて立ち上がるとビリドをにらみつける。


「……まぁまぁ。スコットや鬼みたいにそんな怒らないでよ。冗談じゃないか。あれ、まさか君も冗談が通じない口?」


 ビリドの緑色の瞳が嫌に歪む。クスクスと小馬鹿にするように笑う姿は、白黒の空間でさんざバカにされた事を黒に思い出させる。


「……。」


 それでもルナの元へと走ろうとする黒は目を見開いてしまう。自らを囲う何十ものビリドの姿に、動揺を隠しきれないでいた。


「……くそ!……邪魔をするな!!」


 怒鳴り雷槍を振るいビリドを蹴散らし始める黒。そんな黒の姿を見て、ムーは理解できないと言わんばかりに眉を寄せた。


「……ミーくん。……く、黒さんは一体……何をしてるの?」


 ムーは'何もない'場所に雷槍を振るう黒を見て呟いた。しかし、ミーはそれに答えるでもなく静かに立ち上がる。


「……ムーさん。アゲルトの部屋から俺の剣、持ってきて欲しいッス。」


「……ぇ?……何言ってるの……?まさか!ちょ、ミーくん!?」


 ムーが察した頃にはミーは駆け出していた。


「〜〜っっ!!……死んだら許さないわよ!!」


 葛藤かっとうする時間が無駄と理解したムーが盗賊団アジトへ走る中。ミーは短剣を二振り回収すると、一人暴れる黒を面白そうに見るビリドの背後に'空間移動'で突如として現れる。


「今すぐやめるッス!!」


 振るわれた短剣。しかし、背後から振るわれたというのに、ビリドは杖のような長剣でそれを防いでしまう。


「静かにしてればいいのに。なんでわざわざ死にに来るんだい?」


 ビリドの緑色の瞳が面倒くさそうにミーを睨む。ミーは黒を見るとグッと奥歯を噛み締め、抱いた思いを怒りに変える。


「……。あんたには関係ないッス!!」


 カァン!と弾けば、すかさず左手の短剣を突き出す。


「僕の命を狙ってるんだから少なからずあるでしょ〜。」


 それを余裕の面構えでさばくビリドとミーは打ち合いを始める。杖のような長剣と二振りの短剣。ミーは弾かれると直ぐに体勢を整え、再びビリドと剣を交える。


「言えばあんたは魔法を解くッスか?」


 ギギィン!!とビリドと至近距離でにらみ合うミー。


「さぁね?でも強いて言うとするなら。」


 ビリドの杖のような長剣の柄頭にハマる宝石。そこには淡い青色の粒子がたまり行く。


「君に未来は残されていないって事かな?」


 柄頭の宝石より射出される淡い青色の粒子。それが二つの塊に別れては、ミーはようやく察する。


「その剣……'法杖剣'ッスか。はは、また癖のある武器を……。」


 バチッ!!と二つの塊がスパークすると、属性が変わるは雷。バチバチと弾ける二つの二十センチ四方の雷球。


「'破裂ブラスト'」


 バチバチ!と破裂した雷球は無慈悲にもミーの体へ襲いかかる。


「くっっ!!」


 しびれに短剣を強く握れないミー。振るわれたビリドの長剣を受け止める事が出来ずに弾き飛ばされてしまう。


「……流石に無理かい?その体じゃ、僕に攻撃は」


 '空間移動'にてビリドの目の前に現れるミーは、力の入らない足で地面を踏み締め、うまく握れない手で短剣を振ろうとした。


「まだ……!……戦えるッス!!」


「そりゃ面白いね。」


 カァン!!と鳴り響く剣の打ち合い。殺意に染められたミーの瞳と、道楽半分に剣を振るうビリド。その打ち合いはミーの痺れが収まり行くと共に、より早く。より重たくなって行く。


 ---


「もう……ここら辺にあるはずなのに……!」


 ガサゴソとアゲルトの部屋を漁るムーは、必死にミーの剣を探していた。しかし、あるのは首飾りや腕輪。ボロボロの剣やら使い物になるかも分からない様な物ばかり。そして、その中からムーは綺麗に磨かれた竜の爪の欠片から作られたペンダントを見つけた。


「……これ。ユバの……。」


 雑多な物ばかり置かれるアゲルトの部屋奥。その中から殺された盗賊。長舌のユバのペンダントが見つかった。改めてムーは雑多な物ばかりの部屋を見た。


(……。……何故。その優しさがあるのに、盗賊なんて……。)


 そこまで考えたムーは首を振るう。


(あなたがどれだけ仲間思いであったとしても、あなたが行った非道の数々が消える訳じゃないわ。)


 ユバのペンダントをそっと棚に戻したムーは、ふと、アゲルトの机に立て掛けられた鞘入りの長剣を見つける。


(……。捜し物は思わぬとこに。……昔読んだ本に書いてあったわね。)


 ムーは鞘入りの長剣を持ち上げると、コクリと頷いては直ぐにでもアゲルトの部屋を後にした。

 カァン!とミーが弾かれて百合目。弾かれると同時にミーは両手に握る短剣を手放し、振られる法杖剣を避けながらもビリドの懐に入る。


「ぅわ……!」


 ビリドの目が驚きと好奇心に染まったその時、流れるように突き上げられたミーの拳がビリドの頬へ打ち込まれる。ドゴッ!と鈍い音と共に、後方へ殴り飛ばされるビリド。トットと、軽く着地したビリドの口端は嬉しそうに吊り上がっていた。


「君。慣れるのが早いねぇ。ほんとに盗賊なのかい?」


「はぁ……はぁ……。だから。あんたに関係は、ないッス!」


 息切れ一つしないビリドに疲れを悟られないようにするミーだが、ビリドの次元に強制的について行こうとした為か、体は重く、動く事すら厳しいのが現状であった。故に、ミーの荒い吐息はビリドに終わりを悟らせてしまう。


「そうかい。ま、頑張った方だと思うよ?」


 タッ!と駆け出したビリドの目にはミーしか映っていなかった。手加減していたとは言え、目の前の男は自らの頬に一発入れたのだ。ルナの魔入りも、黒の存在も、現在の魔力残量も。何も気にせずにミーへと向けて駆けていた。


「……まだ……。ま、だ!!」


 苦虫を噛み潰したような顔をしたミーであるが、足元の短剣を拾ってはビリドの剣に備えた。真っ黒に染まったビリドの法杖剣を。


(無理さ!僕の剣は……。)


 ビリドの法杖剣とミーの短剣が交差する時。


「なっっ!!」


(切りたい物だけを切れる!!)


 見開かれるミーの瞳。その瞳が映すは、短剣を両断せずに貫通した黒き法杖剣。まるで影のように形のはっきりしないその剣が、驚き動けないミーの首を切ろうとした時。ズザザッ!!と素早く駆ける黒が、わずかでも油断していたビリドに飛び蹴りを入れる。


「……。」


 ストッと着地した黒は一瞬だけミーを見たが、やはり構わずにそのままルナの元へと駆け出してしまう。


「……てて。ひっどいなぁ。」


 ズザザァ……と尻もちを付いてしまったビリドは一度冷静になり、頭を掻きながらも体を黒く染めていた。それは黒に接近する前兆。しかし、全身が黒く染まろうとした時、その緑色の瞳は僅かに見開かれ、ミーの方向へと向けられる。


「……行かせませんよ。」


 さやに納められたままの長剣を握るミー。盗賊団アジトの窓からは、安堵故にため息を吐いたムーがその様子を見ていた。口調の変わったミーの様子に眉を寄せたビリドであるが、構わずに黒の元へと影を伝っていく。


「っっ!!くそっ!」


 黒は目の前に現れたビリドにギリッと歯軋りをすると、駆けながらも'雷槍'を構える。


「だぁめ。まだ僕を倒してないじゃ」


「行かせないと言ったはずです。」


 瞬時にビリドの目の前へ現れたミー。鞘入りの長剣を振るうと、ビリドは急ぎ右腕で対応し黒の行道から強制的に弾き出される。


「行ってください。」


「……。」


 黒は鞘入りの長剣を構えるミーを横目に、しかし、直ぐにスコットを見据えるとさっさとその横を通り過ぎた。


「あれぇおかしいなぁ。君限界ぽかったじゃない。口調も違うし動きも変わった。その長剣になにかあるのかい?」


「黙りなさ……。……。……うるさいッス!!」


 直ぐにでも口調を戻し駆け出したミー。その動きは短剣を振るっていた時よりも軽やかであった。


(困ったなぁ。正直、魔力ほとんど残ってないんだよねぇ。長期戦に持ち込むつもりはなかったんだけど……。)


「ちぇ。まぁ、いっか。'転移者あれ'はスコットが対処してくれるでしょ。」


 ビリドが面倒くさそうに法杖剣を構えると、ギギィ!!と。ミーの鞘入りの剣と交える。荒々しさを感じさせるミーの瞳は、どこか不自然な冷静さも感じさせられた。しかし、ビリドはグニャリと緑色の瞳を歪めるだけだった。


「別に。魔法がなくたって君一人。殺すなんて造作もない。」


 ビリドの緑色の瞳が異様に光り、ミーの青い瞳と交差する。


「ほら。第二戦の始まりさ。存分に楽しもう。」


「命かかってるんス。……それはごめんッスよ!!」


 ギギィ!!と法杖剣と鞘入りの剣が交差する。


「うむ。この魔入りはやはりおかしい。」


 大剣に込める力を抜いたスコットは、ルナの魔入りの異常性を確信した。


(魔入りは全て等しく'黒い瘴気'により進行する。しかし、この魔入りは黒い手によるもの。魔入る者を守ったり、姿を隠したりなど。見た事もなければ聞いた事もない。完全に新しい魔入りだ。)


 スコットの元へと到着した黒が、グッ!と踏み締めた足に力を入れると、体からあふれ出るドス黒い粒子が足に吸収され、力を溜めていく。


「そこを……退け!!」


 ダン!と跳躍する黒。ボコッ!と地面は凹み、尋常じんじょうではない力がかかっているその足で、勢いそのままスコットを蹴る。


「うむ。少しだけ待ってくれ。」


 スコットは避けずに受け止めた。既に黒が魔入る子供の関係者だと理解しており、それを殺そうとしている自分を蹴るのは当然の権利だと考えていたのだ。


「なっっ!?びくともしねぇ!?」


 しかし流石の巨体。黒の蹴りではその体をルナの前から退かせなかった。


「転移者殿。一つ聞きたい。この子供の欲は一体……。」


 殴り返すでも蹴り返すでもなく、スコットは冷静に黒へと尋ねた。


「……。知るか。」


 全力で蹴ったと言うのにビクともしないスコットを前に、荒げる黒の動きは止まる。スコットが反撃してこない事を疑問に思いながらも、ビリドとはまた違った余裕の面構えに僅かな苛立ちを抱いていた。


「……そうか。……実はな。この魔入りは特殊なのだ。」


「……特殊?」


 目を細めた黒はスコットを見上げ、「続きを話せ。」と睨みつける。


「あぁ。普通はこんな黒い手に覆われなければ、魔入り人を守りもしない。心臓を貫けばそこで終わるのだ。この少女が魔族になる事と関係しているのか……?それとも、繰り返される異世界人の召喚により世界がおかしくなっているのか……?」


(魔族……?魔入り……。……確かルナが教えてくれたな。)


 ---


 '魔族'それは欲に溺れた者……魔に類する者の頂点。人間が扱える魔法を失う代わり、'欲力'を扱えるようになった、額に角が生えた'理性のある'魔物の事である。下・中・上の魔物と違う所は、額の角と欲力を扱える事以外は完全に人間と同じ点である。


 '欲力'とは、人の持つ欲が元となった力。

 例として。火遊びを覚えた子供が火を欲として魔入り、自在に火を操ったり。金に魅入られた大人が金を欲として魔入り、触れた物全てを金に変える力である。また、'魔入る'とは魔に類する者に墜ちる事を指す。


 ---


(……ルナは確か。)


 --とにかく……魔族は額に角が生えてて、凄く残虐で恐ろしい存在であると理解していてくださいっっ!!


 黒の思い出すは過去にルナがしてくれた魔族に関する説明。そして、その魔族にルナがなろうとしているのだから、たまらず奥歯を噛み締めてしまう。


「……。……言ってる事が分からねぇ。ルナは助かるのか?」


 スコットは自分を真っ直ぐに見上げる黒を見て、その質問の意図を理解して、その瞳に宿る思いを汲んで、ギリッと歯軋りをする。


(魔族となれば色んなしがらみを抱えて生きていかねばならぬ。……この世界は魔族に厳しい。存在自体が悪とされているのだ。……魔族となって理性が残った所で、この子供の人生がより過酷なものとなるのは目に見えている。)


 スコットはなんと答えて良いか分からなかった。それ程までにルナを思う黒の目は真面目で、それ程までにこの世界の魔族に対する対応は酷いものだった。故にスコットは少ししてようやく口を開いた。


「魔族となる事が救いとなるかは知らぬ。……が理性は残るだろう。」


「……そうか。」


 スコットの重たい口調に黒は理解する。'魔族になる事'。それは、ただ死ぬよりも辛いかもしれないという事を。

 唇を噛み締める黒を見たスコットの頭をチラリと過るは、赤いラインの目立った淡白いコートを着た少女。もう一人の転移者、五代目の英雄の姿だった。


「転移者殿。貴殿はこの少女が魔族になっても守り通せるか?」


 それは確認。ルナが魔族になると知っても黒い塊を見据え、唇を噛み締める黒を見たらその答えなど分かりきっていた。その問いはただ、黒の口から直接答えを聞きたかっただけだった。


「……。」


 黒は目を瞑った。頭を過るはルナと過ごした時間。笑顔のルナや泣き喚くルナ。拗ねたルナや心配そうなルナ。たった数日の内に色んなルナを見ていた。




 ---……助けて……!!




 頭を過るは初めて会った日の事。月光が照らす広間にて出会ったあの日が。申し訳無さそうで、しかし安心したような複雑な涙を流さんとするルナの姿が。今でも鮮明に刻まれていた。


(今も……そん中で助けを求めてんのか?……ルナ。)


 その様に考えた黒はゆっくりと、黒い塊に向けて歩き出した。


「……ぉ、おい。待」


「愚問だ。」


「……は?」


 スコットは呆然としていた。黒の突然の回答もそうだが、黒の体を取り込むように影のような手が黒を覆っていたのだ。


「何をしてでも俺はルナを守る。……例え。人を大量に殺す事になったとしても。絶対。」


 それだけ残して黒はちゃぷん……。と。小池に石を投げた時のような音と共に、黒い塊の中へと吸収されてしまった。


「……あ。」


 スコットの口から間抜けな声が漏れる。それは、ただでさえ理解不能な魔入りに他人が入るという謎が加ったから。……ただ。それだけでなく。断言した黒の姿がどこか見覚えがあったからだった。


「入っちゃった……。」


「はぁ……。はぁ……。……は?」


 ミーの相手をしながらビリドは呆然とする。ビリドの様子に疑問を抱いたミーは振り返った。その瞳に映るは消えた黒に、波紋の広がる黒い塊。そこから察せられる状況。察しの良いミーは直ぐに理解した。


「……まじッス?」


 ミーはあんぐりと開けたままの口を閉じる事が出来なかった。





 チリーン……チリーン……





 静かな辺りにそんな音が悲しく響く。盗賊団アジト周辺を囲い、指示を待つは無数の下位魔物。危機が迫っている事をまだ彼らは知らない。

おまけ



「……え、えぇ!?入っちゃたんスか!?」

「ぅ、ぅうむ。黒い手に抱きしめられるように入ってったぞ。」

「ねぇ、スコット。僕さ、君の'命大事に'って考え好きだよ?でもさ、なんでさっさと終わらせなかったの?何、また躊躇ちゅうちょ?」

「違う!この魔入りはおかしいのだ!明らかに過去に起きた魔入りとは違う……!」

「……。いいさ。僕がやる。丁度いい。中に二人も居るんだ。それだけ切っちゃえばいいんでしょ。」


---ガァン!!


「……。」

「「……。」」

「……。スコット。切りたい物だけを切るのが僕の剣の奥義みたいなものなんだ。」

「……うむ。」

「あまりに不遇すぎない!?これ、これほんとに僕が切りたい物だけを切るんだよ!?凄い事なんだよ!?」

「あっはぁ。それ、阻止されて結局役目果たしてないッスねぇ。」

「……は?なに君。喧嘩売ってんの?殺すよ?」

「って言って出来てないじゃないッスかぁ!」

「は、はぁ!?手加減してるだけだし!勘違いすんなし!!」

「ビリド!落ち着け!!」

「いぃやぁだ!こいつ殺すもん!!スコット!手を離せ!!」

「はっはっぁ!!宝の持ち腐れぇ!!ッスね!!」

「殺す!殺す!絶対に殺す!!」

「……。はぁ。なんなのだ……。この状況……。」



---キョロロッッキョロロォォ!!!



「「「っっ!!」」」

「これは……まずいね。」

「うむ。かなりまずいな。」

「……。ムーさんを」

「ミーくん!!まずいわ!!」

「ムーさん!!良かった、降りてきたんスね!大丈夫ッスか!?」

「えぇ!それより!今ここ周辺が大変な事になってるわ!!上から見ただけでもかなりの量の下位魔物が周辺を埋め尽くしてるわ!!」

「まじ……スかぁ……。」

「ビリド。まだ戦えるか?」

「……は?誰に言ってんの?そういう心配はそこのバカップルにでもしてあげなよ。」

「「なっっ!?」」

「……何よ!……つ、強いからって言っていい事と悪い事が」

「そッスよぉ!ば、ばぁかばぁか!」

「は、生意気。やっぱ殺す!」

「悪いが!今は……喧嘩している場合じゃなかろう!」


「「「……。」」」

「確かにね。ほら、バカップル。協力させてあげるよ。」

「「……。いや。」ッス。」

「……。言い方を変えるよ。協力しろ。」

「「……。」」

「……。……勝手にくたばっちまえ!このバカップル!!」

「「こっちのセリフですぅぅ!!」ッスぅぅ!!」

「いい加減にしろ!」

「「「……うぃ。」」」

「緊張感なさ過ぎか……。……はぁ。いいか。しばらくは休戦だ。今はこれを乗り越えるぞ。」

「「「……。ちっ!!」」」

「不安だ……。と、とにかく!構えろ!!」

「「「……ぅぃぃ……。」」」

「一周回って仲いいだろ貴様ら!!」

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