出撃の時
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太陽が頂上手前まで昇る頃。かなり下流へと流されたルナは川岸にうつ伏せとなって倒れていた。
「ぅ……ぁ……?」
薄っすらと目を開いたルナは、ザァァ……と流れる川の音を聞いてゆっくりと起き上がる。
「ぁれ……?あたし……。なんでここで寝て……。」
周囲を見回しながら首を傾げるルナは瞬間。水中にて別れた黒の姿が頭を過ぎる。
全身ボロボロで動く事すら辛いはずなのに、それでも先を流れる自分に手を伸ばし、届かなくて悔しそうに顔を歪め、気絶してしまった黒。
「そんな……まさか……。」
全てを思い出したルナは目を見開いていた。その声は震えていた。頭が嫌な事を考えてしまい、それを否定しようとするも、黒の体の状態を考えるとどうしても現実を突きつけられてしまう。
「くろ……。黒が……。」
口に出すは最後まで自分を守ってくれた男の名前。
「……死ん……だ……?」
起きて早々ルナは言葉を失う。川を流されたのにどこも痛くないという謎の現象も、大きな怪我どころか擦り傷すら無い異常も、全身を襲う寒さすらも気にならないくらいに、頭は黒の事でいっぱいであった。
「……いや、生きてる……。黒だよ。生きてるに決まってる……。何を言ってるんだあたしは……。」
そうつぶやくルナであるが立つ事が出来なかった。黒の死を否定する自分と、生存はありえないと現実を突きつける自分が同時に存在し、体は脱力してしまっていたのだ。
「……立たないと。黒を……探さないと……。」
震える足をルナは立たせる。歩けない訳では無い。怪我も痛みも何もない。ただ、襲う喪失感が大き過ぎただけである。
短い期間であるがずっと一緒にいて、笑わせてくれて、守ってくれて。そんな存在が急に居なくなると、体はなかなか言う事を聞いてくれなかった。
(探して、黒が見つかったとして……。あたしは一体何ができるの……?……また黒の邪魔になるだけ。これ以上黒を傷つけるのだとしたら、あたしは……。)
ルナの胸の内では様々な思いが込み上げていた。ポロポロと涙を流すルナ。それは、このまま黒を見つけずに、静かに離れようかという考えに至ってしまったが故の涙。
「離れたく……ないよ……。」
そして、それを受け入れたくないが故の涙だった。
楽しかった。それと同じくらい迷惑もかけた。嬉しかった。それと同じくらい傷つけた。ルナの胸には心地良い思いと同じくらいに罪悪感があったのだ。そして、ルナは魔物の群れと鈴の音を聞いた時から何となく嫌な予感がしていた。
(やめた……。これ以上黒に関わるのは……。……。……やめ……。)
グッと唇を噛み締めるルナは、ボロボロと大粒の涙が地面に落ちるのを見ながらも、消え入りそうな声でつぶやく。
「……やめれるわけ……ないじゃん……。」
ズキンと痛む心。それが何を意味するのか。ルナは震える足ながらも立ち上がり、おぼつかない足で地面を踏みしめ上流へ向けて歩き出す。ありったけの黒の生存への期待と罪悪感を胸に抱いて。
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「あら……?子供……?」
下流へ向けて歩いていたムーは、ふらふらと上流へ向けて歩く子供……ルナを見つけた。
身長百五十七程の銀髪赤眼の少女。服装はボロボロで濡れている様子。足に履く葉っぱの靴も壊れかけ。それなのに擦り傷とか何もないという違和感だらけの少女。ムーはそんなルナを見て首を傾げてしまう。
(こんな所を一人で歩くなんて、死ぬ気なのかしら……?)
疑念と心配が混ざり、声をかける事をにしたムーは、徐々に近づいてくるルナを前にゴクリと固唾を飲んでしまう。
「あなた……こんな所で何してるの?」
「……?」
声をかけられ悲しみに染まる赤い瞳をムーへと向けたルナは、やっと人が居る事に気づいたのか、その目を薄っすらと丸めてしまう。
(……綺麗な……人……?なんでこんなところに……?)
(何この子……凄く可愛いわね。まるで昔の私みた……。いけないわ。もうおばさんじみた事を……。)
ぶんぶんと首を振るうムーを前に、びくっと驚くルナ。やがて首の位置が定まったムーは、ルナの目の高さに合わせ、ミーからもらった毛布を躊躇せずにかけてあげた。
「こんなところで何してるの?一人?親とかはいないのかしら……?」
ムーは気になる事を率直に聞いた。子供一人が歩くにはこの森は危険すぎたのだ。
顔も良いスタイルも良い。ついでに見ず知らずの子供に毛布をかけてあげる優しさ。言う事なしの美人を前に、ルナはたじろいでしまうも直ぐに口を開く。
「ぇ、と。一応一緒に行動してた人が居たんだけど、その……はぐれちゃって。そ、それで今探してるとこなんだよ。お姉さん、上流から来たんでしょ?このくらいの男の人見なかった?」
手で黒の大体の身長を示すルナであるが、当然ムーは誰とも会っていない。申し訳なさそうに首を横に振る。
「ごめんなさい。それらしき人は見てないわ。」
「……そ、そんな……。」
ルナは上流から来たムーの言葉は確かだと信じて、目を丸めた後にしょんぼりとしてしまう。ただでさえ悲しそうであったルナの瞳は、諦めも含まれ始めていた。
「……ど、どうしてはぐれちゃったの?」
うなだれるルナを見たムーは、肝心な事を尋ねた。
「……ぇと、今朝……川岸を歩いてたら魔物の群れと遭遇して、黒……探してる人なんだけど、黒はあたしを担いで逃げようとしたんだけど川に落ちちゃって……。そこで……。」
「川に流されちゃったってわけね。あなたも大変ね。」
可哀想に思ったムーはルナの頭を撫でた。突然撫でられ、少しきょとんとしたルナは、自分がされている事を理解し、照れてしまう。
「ぁはは……。な、なにかな?」
嬉しいような恥ずかしいような。そんなルナの声にハッとしたムーは、ルナの頭から手を離しこほんとせき払い一つ。
「えっと、私はムーって言うの。」
そう言いながらムーは手を差し出した。
「ルナだよ。よろしくね。」
「えぇ。よろしく。」
差し出した手を握ったルナを可愛く思うムーであるが、少し浮かない顔をしていた。この後の行動を考えていたのだ。
(一緒に探してあげたいけど……私は私でモロッコ王国に行かなきゃだし……。でも、この子一人行かせるのも不安だし……。でも、私は急いでるし……でもやっぱり見過ごすなんて出来ない……。)
何度も同じ事を繰り返し考えるムー。そうして考え出した答えが、少しくらい大丈夫よね?であった。
「二人でどこに向かっていたとかは?分からないの?」
「……ごめん。色々あって……話し合ってないんだ。」
「そう……困ったわね。」
うんうんと頭を悩ませるムーは、何とか見つけ出してあげたかった。それは、行動を共にしていた者と離れるのは寂しい事であると分かっていたから。体験したばかりの事であったから。
(この子はまだ子供……。私に出来る事は……。)
そこまで考えたムーであるが、終ぞ何も出ず。同じくうんうんと唸っていたルナは、ムーが気に病まないようににへらと笑う。
「う〜ん……うん。ムーさん!一緒に考えてくれてありがとう!もしかしたら黒は下流に居るかもしれないから……行ってくるね!」
ムーが上流から来て誰も見ていないと言ったのなら下流に居るかも論で、お礼を述べた後に振り返り走り出そうとするルナ。それを瞬時に見越したムーは、ルナの手を掴んだ。
「ぁ!ちょっと、待ちなさい。一人で行くのは危険よ?下流だったら私も方向が同じだから一緒に行きましょう?」
ムーの提案。しかし、それはルナにとっては受け入れ難い提案であった。
「ぅ〜んと、ありがと。でもね、あたしと居ると危ないよ?本当に。」
そう。ルナは決して忘れるはずがなかった。自らに関わった人達がどのような危険に晒され、どのような命の落とし方をしてしまったのかを。そして、その中には黒も入っていた。常に誰かに迷惑をかけているという自覚の上で、ルナはムーのその願いを断りたかった。ムーの為にも自分の為にも。
「……あのね、見くびらないでちょうだい。こう見えても結構強いのよ?私。それに、放っておけないもの。あなたの事。」
しかし、ルナの思いとは裏腹に、ムーは案外面倒見の良い所があった。
「……。分かったよ。でも、何かあったら自分を優先してね?」
「……あなた。……いえ、分かったわ。ほら、早く行きましょう。」
「うん。行こう。」
守られる事を拒んでいる様子のルナに何か言おうとしたムーであるが、それを追求出来る程の仲ではないが故に流してしまった。
そうして二人は少しの会話を挟みながら下流へ向かう。早足になるルナに、難なくついて行きながら見落とさないように周囲を見回すムー。そこに会話は少ししかなかった。
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どうしても急ぎ足になってしまうルナに、ムーが合わせて十分程が経過した時の事だった。多少の会話でも少し仲良くなった二人は、歩きながら会話していた。
「ところで、ムーさんはなんで一人なの?ここら辺盗賊が出るから一人じゃ危ないよ?」
「……あなたね、自分の事を言える口かしら?」
「あたしは……ほら、すばしこいから。」
「ふらふら足がなにを言ってるのか……。大丈夫な要素が全く見当たらないわね。……でも、その妙な自信は羨ましいわ。」
「……?」
「……いえ。私ね、さっきまで人といたの。」
「……大切な……人?」
「えぇ。私の命よりもね。王子様みたいな人よ!」
「ぇ!?王子様!?それって絵本の!?」
「ふふ。……えぇ。絵本の王子様みたいね。ほんとにかっこいいのよ?」
「いいなぁ!いいなぁ!……でも、その王子様はどこに言っちゃったの?」
「……。」
ルナの単純な疑問に口を噤んでしまうムーであるが、胸にある不安を一人で抱えるのが辛くなり、つい吐露してしまう。
「私ね……盗賊なの。」
「っっ!!」
驚き騙されたと思ったルナは直ぐに離れようとしたが、ムーが「違うの!今はもう違う!」と食い気味に否定するとひとまず距離を取って落ち着く。
ムーは分かっていたが、警戒するようなルナの瞳に胸が締め付けられる思いになり、悲しそうな顔をしてしまう。
「ど、どういう事?抜け出してきたって事?」
「……えぇ。私の彼……ミーくんって言うんだけど、八年前……団長の命令を聞かないと死んじゃう契約をしたの。」
「な、なんでそんな……。酷使されるの見え見えじゃん!!」
「えぇ。本当にね。……でも、あの頃の私達にはそうするしかなかったの。例えそれが地獄の始まりだと察していようとね。」
ムーは八年前、盗賊団に囲まれた二人の男女を思い出す。自分を守ろうと戦うミーの姿を。しかし、直ぐに首を振り悲しく笑う。
「全部……私の為なのよ。私を守る為に何度も何度も自分を犠牲にして……。彼が辛そうにして居ても私は……。」
'何も出来ない'……。それを言おうとして言えないのは何故か。悔しそうに片腕を抱き締めるムーの姿からルナは察し、自分を見ているようだと思ってしまった。警戒していた瞳は一気に友達を励ます様な瞳に変わり、そっとムーに歩み寄った。
「……わかるよ……。黒はね、どんなにボロボロになっても、傷だらけになって、余裕がなくなったとしてもあたしを守ってくれるんだ。あたしは……何も出来ないのに。」
「ルナちゃん……。」
同調されて嬉しく思ったムー。思わずルナを抱き締めそうになるも、バッ!と手を広げたと同時に止まってしまう。
「む、ムー……さん?」
ムーが手を広げた瞬間ビクッ!と驚いたルナ。しかし、ムーが固まっては驚きは心配に変わる。
(ボロボロな……男……傷だらけ……。……今朝ルナちゃん達は川岸を歩いてた……。そして流され、ルナちゃんが向かったのは……下流ではなく上流……。)
些細な疑問が繋がり、それはやがて嫌な予感を生み出す。
「ね、ねぇ……ルナちゃん。」
「……?」
今自分は何を聞こうとしているのか。ムーは止めようとしても、動き出した口は止まらない。
「もし……もしなんだけど……。最近……。」
冷や汗がムーの頬を伝う。開こうとする口が妙に軽い。そうであって欲しくない。そんな思いがひたすらに脳内を駆け巡り、ついにムーは口を開く。
「盗賊と遭遇した?」
「……ぇ?」
きょとっと目を丸めたルナを前に、違ったと思ったムーはぶんぶんと手を横に振りながら弁解する。
「してないならいいわ!ごめんなさい!……私の彼……'十一人'殺した傷だらけの男を連れて来いって命令を受けてて……盗賊の出没するここら辺歩く人ってあんまりいないしでもしかしたらって……。」
チラリとルナの顔を見たムー。青ざめて震える様子のルナを見ては、滑らかな動作で両手で顔を覆う。
(当たってたぁ……。)
悪い予感が的中してしまったが故に大きなため息を吐いてしまうムー。しかし、どうしようかと考える間もなくルナが青い顔のままムーの服をぎゅっと握る。
「まずいよ……ムーさん。早くミーさんを追わないと最悪……黒に殺されちゃう!」
思っていた反応と全然違くて驚いてしまうムーであるが、直ぐに言葉の意味を理解しては口を開く。
「待って!どういう事?なんでわかるのよ?」
ムーは少しだけむっとした。自分の彼が傷だらけの男に負けると言われていい気などするはずなかった。当然。それを理解しているルナは、黒が如何に危険かを話し始めた。
「黒は大勢と戦って一方的にやられ続けてたんだ!反撃する余裕もないくらいに!!……でも。盗賊達が油断した時、別人みたいに強くなってそこから全員……。」
ルナは思い出していた。盗賊達が反応すら許されずに首を両断されて行く姿を。ゴリラのように筋骨隆々としていて、いかにも強そうなギリーでさえ、僅かな抵抗の後に殺された。
「……うそ……。そんなの……だって、信じられないわ!ギリー班は盗賊団の中でも強い人が揃ってて……。」
ムーは何としてでも否定したかった。でなければ、そんな人間の元にミーが向かった事になってしまうのだから。
「ずっと見ていたんだ。怖くて震えているだけだった……。いつもの優しい黒じゃなくて、ほんとに別人みたいで……。だから、もしかすると同じように、少しでもミーさんが油断したら……。」
ルナは黒を心配しつつもミーの心配もしていた。それはムーが'王子様'と言うくらいに大切な人で、愛している人なんだと知ったから。どちらにも傷ついて欲しくないのだ。
「そんな……。ミーくんの命令は捕縛か時間稼ぎ……。それ以外は命令違反。ミーくんが危ない!!」
振り返り走り始めるムー。ミーは時間稼ぎなどしないとムーは知っていた。出来る限り早く終わらせて、出来る限り早く自分の所へ戻ろうとするから。だからミーは初めから挑むだろうと。
そして挑む場合。殺す気でかかるのと否かで、力の出し方は違う。全力を出せないミーは、殺す気でかかる黒に負ける。
(早く行かないと……ほんとに手遅れになる……!)
最悪のシナリオがいくつも頭を過ぎり、走りながらも泣いてしまいそうになるムー。その後を何とか追いかけるルナ。二人は互いの大切な人が死ぬかもしれない、傷付くかもしれない。そんな状況の為、全力で走っていた。
「ムーさん!別れたのっていつ!?」
「ぇ……たぶん数十分前よ!」
「ミーさんだけでも見つけて止めないと……。」
ルナとムーは走り続けた。出来る限り休まずに上流へ向け走り続け、そうする事一時間程。前方に二人の人影が見えてきた。
「「はぁ……っ!……はぁっ……!はぁ……。」」
肩で息を吐くルナとムーはジトッとした目で前方を睨んでいた。
「俺さ……もうぶっちゃけこの森やだ。血気盛んな奴ばっかだし、死にかけるし、川に流されるし、体は痛てぇし……。ルナとは……はぐれちまったし……。」
岩に背を預け座り込む黒は、酷く落胆している様子で川にポチャンポチャンと小石を投げ込んでいた。
「俺ももういい加減盗賊なんて辞めたいんス……。本当は……物を奪ったり人を攫ったりなんて、したくないんスよ……。ムーさんと一緒に……過ごしたいだけなんス……。」
同じく岩に背を預け座り込むミーは、グスグスと泣いていた。
「「はぁ……。マジ辛い……」ッス……。」
同じタイミングで発言したミーと黒。ハッ!として互いを見合えば何を思ったか、タコが潰れてゴツゴツとした右手と、傷だらけで生傷の目立つ右手が向かい合う。
「お前……。」
「あんた……。」
「「話が分かる……!!」ッス!!」
ガシッ!と手を握る黒とミー。その様子は正しく打ち解けている様子。
その様子をはぁはぁと荒く息を吐き出して見据えるルナとムー。互いに見合っては、再び男同士の友情を育んだ様子のミーと黒を見据え口を開く。
「「……は?」」
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「黒……!!」
「ミーくん!!」
「「これはどういう事なの!?」」
正座させられる黒とミー。その前にはルナとムーが怒った顔して睨み付けていた。
「いや、る、ルナ。その……無事でよか」
「ありがと!おかげさまで生きてるよ!でも違う!今は違ぁぁうぅ!!」
「はい。分かっております……とも。」
「ムーさん。俺たぶん首飛ぶッス!」
「軽く言うんじゃないわよ!!」
「ぁっう……いっぁたぁ……。」
「「何があったのかを聞いてるの!!」」
「「はいっ!!申し訳ありません!!」」
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遡る事一時間程前。
「ぅっ……。」
掠れた声が黒の口からもれる。歪む視界。それは如何に危険な状態にあるかを分かりやすく黒へ伝える。
痛み軋む体を無理矢理動かし起き上がる黒は、ぷっと口に入った砂利を吐き出しながら辺りを見回す。
「……。ルナは居ねぇし、どこかも分からねぇし、体は痛てぇし。」
ザァーと流れる川岸にて黒は大きなため息を吐いた。
「はぁ……。もうこの森やだ……。」
泣き出しそうになるのは何故か。しかし、少しして黒は立ち上がる。立ち上がらねばならなかった。探さねばならない者が居るから。
「……ルナ。どこだ……。」
ふらつく足でも黒は歩き始める。考え無しに下流へ向かって。しかし、下流より走り来る者を見ては、うんざりしながらも地面の石を握る用と投げる用で三つ拾う。
(……傷だらけの男……!)
ミーもまた黒を捉える。こんなにすぐ見つかるとは思っていなかったからか、体力も十分にある状態で見つかって幸いであった。
「悪いけど捕まって貰うッス!!」
シャアッ!と短剣の柄を握り引き抜いていくミー。次の瞬間その体は消え、黒の目の前に現れる。
「なっ!?んだそれ!!」
目を見開いて驚く黒は、即座に後方へ下がろうとするも、ミーの攻撃の方が早かった。引き抜かれた短剣。白銀の美しい剣身が露わとなり、黒の胸に一閃するかと思われ、黒が石にて抗おうとした時。再びミーは消える。
「また消え……たっっ!?」
驚き目を見開いた黒はしかし、背後より首を蹴られ、力の方向へと飛ばされる。身を捩りズザァァ……!と地面に着した黒。歪む視界ながらも勘に従い真横へ転がると、先程まで居た場所に巨大な岩が落ちる。
「っっ!?」
驚き目を見開いている黒。しかし、ミーはそんな隙を見逃す程甘くなく、黒の背部に右腕を回し地面に押さえ付けた。
「大人しくするッス。あまり手荒な事はしたくないんス。」
頭を地面に押さえ付けられ、右腕は完璧に関節を決められていた。
「ぐっ!?くそっ!有り得ねぇって。人技じゃねぇだろ!!どいつもこいつもイカサマばっか!どうなってやがんだ!!」
押さえ付けられながらも理不尽を訴える黒。それは異世界にて一日一日と過ごす内に蓄積された怒り。あからさまに消えたミーを見てそれが爆発したのだ。
「……はぁ?何言ってるんス?イカサマ?何がッスか?」
当然、背中にて関節を決めているミーは、黒が何を言っているか分からなかった。自分はイカサマなどしていないからだ。
「……はぁ……はぁ……ぁ?」
黒は荒い息を吐きながらも眉を寄せる。まさか聞き返されるとは思っても居なかった。
「だから……その、一瞬で俺の前とか後ろに現れたり、巨大な岩を降らしたり……。ずるいだろ。」
「……んん???」
「だ、だから!……いきなり炎出したり、俺を軽々と持ち上げたり、突風を起こしたり……ずるいだろって!」
「……んんん???」
ミーは首を傾げていた。この男は何を言っているのだろうか?と考え始める。そして、少しして導き出された答えがあまりに信じられないものであったが為に、その顔は少し引きつってしまう。
「まさか……'魔法'をご存知でない……ッスか?」
「魔法……?……なんだそれ……?」
「おぅ……。」
ミーは言葉を失う。魔法を知らないなどと言う人間は赤ん坊くらいだと思っていたのだ。
「ぇっと、じゃ、魔法も使わずに十一人殺したんスか?」
「……あぁ?(昨日の奴らの事か……。下手な事は言わねぇ方がいいな。)……必死だったからあんま覚えてねぇ。てか、仇討ちか?てめぇ?」
「……ま、そんな感じッス。団長からあんたを連れてこいって命令を受けてるんス。ま、思ったよりすぐ終わりそうッスけどね。」
ミーが'空間収納')より縄を取り出そうとした時であった。
「悪ぃが……俺は行くとこがあんだっっ!!」
同時。黒が全身に力を入れると、ミシッと肩が鳴る。
「ぅわっ!?」
黒は無理矢理立ち上がろうとしていた。ミシミシと嫌な音が鳴る中、ぐらりと少しでも持ち上げられて体が揺れたミーは、嫌な予感がしてすぐ様'空間移動'にて姿を消し、自らが落とした岩の上に現れる。
「……ありえないッスね……。痛みとか感じないんスか?」
立ち上がり肩をぐるぐると回す黒は、ミーを睨みつけていた。
「痛みより大事な者があんだよ。てめぇは知らねぇだろうがな。」
「あんたに……俺の何が分かるんスか!!」
むっとしたミーはタッ!と岩上から跳び、握った拳を後ろへ引く。
「俺は俺で待たせてる人が居るんス!!」
黒の顔面目掛けて突き出される拳。肉弾戦なら得意の黒はそんな甘えた攻撃をすぐ様見切る。
「くそ、話し合うってのが出来ねぇのかてめぇらは!!」
ミーの拳を流し、腕を掴んだ黒はそのまま背負い投げる。
「悪いんスけど……!時間がないんス!!」
逆に黒の腕を掴んだミーは、足を地面に着したと同時に、ギリギリの体勢であるにも関わらず、黒と同じように背負い投げようとする。
「知るか!てめぇの事情なんか!俺の体見ろって!ボロボロだろ!同情すら湧かねぇかクソが!」
身を捩った黒は、地面に着したと同時に、ミーの足を蹴り、よろけた瞬間に腹部を肩で強打する。
「ぐっ!!十一人も殺せるようなイカれた奴に同情する訳ねぇッス!!」
ズザァァッと地面を抉りながら後退するミーは、後転し体勢を整えると、タンッ!と駆け出し黒へ向かって行く。
「あれは殺さなきゃ殺されるような状況だから仕方なかったんだ!!ルナも人質に取られてた!ぐっ!!」
振るわれたミーの拳を直で受ける黒は、グッと地面を踏み締め、握った左拳をミーに打ち込む。
「あぅっ!……てて……。」
ドゴッとミーの腹を殴り飛ばす黒。
「……盗賊だもんな。奪う側は守る側の事を考えなくて楽だもんな。奪うだけ奪って命まで奪って。……まじ、クソ野郎だな。」
ぐるぐると肩を回し、痛む肩をを確認した黒はギロリとミーを見据えると、直ぐにキョトンと目を丸める。
「……うるさいッス……。」
ミーは泣いていた。
「……ちょ、おい。なんで泣いて」
「あんたに何が分かるんスか!?」
泣き叫ぶミーにビクッと驚く黒は、おどおどとし始める。
「な、なんだよ、泣くなって。お前から始めた戦いだぞ!?」
「うるさいッスうるさいッス!皆うるさいんス!俺はいつだって守る側だ!奪う行為だって命令されて仕方なくやってるんス!できるなら……やりたくねぇんスよ!!ムーさんと……幸せに暮らしたいだけなんスよ……。」
ボロボロと泣き出すミーを前に、黒は後頭部をカリカリとかく。
「悪かったって、言い過ぎた。だから泣くなよ。男だろお前……。」
「男だから泣いちゃダメなんスか!?男だから愚痴は吐いちゃダメなんスか!?相手になってくれたっていいじゃないッスかぁぁ!!」
「えぇ……まじか……。」
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「と、今に至る。」
黒は何があったかをミーと協力しながらルナとムーに説明した。
「「うん……意味わからない……。」」
それに対して返答は、ルナもムーも同じであった。
「「な、なんで……」ッスか……。」
「いや、だって殴りあってたんだよ!?それで急にミーさんが泣き出したからって「はい!終わり!」ってなるの!?」
「ルナちゃんに激しく同意!ミーくんが色々背負っているのを聞けたのは良かったし申し訳ないと思うけど……なんだろう……そうはならないでしょ!?」
ルナとムーから反発を受けた黒とミーは眉を寄せる。酷く悩ましげな様子であった。
「じゃあ片方に死ねって言うのか?」
「「そういう訳じゃ……。」」
「それに、もう俺は黒さ……黒っちを攻撃なんて出来ねぇッス。」
「あぁ。俺も出来ねぇ。」
「「だって。」」
ガッ!と肩を組む黒とミー。その顔は悩ましげな顔からドヤ顔へと変わり、キラキラと光る目にてルナとムーを見ていた。
「「出来ちゃった。友情……みたいな!?」」
馬鹿みたいな二人を前に、ルナとムーは頭痛がして吐き出すようにつぶやいた。
「「……ぁ、そう……。」」
呆れた二人の声は悲しいかな、ぐぎゅるる……と鳴る黒とルナの腹の音にかき消される。
真顔の黒。顔を赤くしていくルナ。場は更なる混乱へと誘われて行く。
「どうするのよ……ミーくん。」
ガツブチと貰った干し肉を食らう黒とルナを後目に、ムーはミーに聞く。その顔は酷く悩ましげであった。
「アゲルトが知ったら間違いなく裏切りと捉えるわ!あなたの首が飛んじゃうなんて……冗談でも聞きたくないわ!」
腕を組み、トントンと忙しく指先を動かすムー。焦るのも無理はなかった。アゲルトは盗賊達の酒が抜け次第総員率いてやって来る。それ即ち。いつ来るか分からないのだ。一時間後かもしれないし、もっと短いかもしれない。
「そうなんスよ。そこが問題なんスよ。俺は旦那を連れて行かなきゃ行けない。でも旦那もルナちゃんも行くはずがない。おりゃどうしやしょう?」
ぺっぺけぺーなミーの対応にイラッとしたムーは、危うく怒鳴りそうになった。
「ミーくん。ふざけないで。真面目な話。いい?」
笑顔が怖いムーを前にぺっぺけミーは、スンッと真顔になり背筋を正す。
「う〜ん……やっぱり、戦わなきゃダメなんスかね……。俺、闘いたくないッスよ……。」
「私もよ。……でも、他に方法なんてな」
「あるぞ。」
二人の会話を聞いていた黒は言った。ハッとしたミーとムーは黒へ目を向けるも、それには半ば疑いもあった。
「俺達が協力すればいい。」
その時。ガサッ!と森の中から音がして、全員の目がそちらへ向くも何も無く。黒は続けて話し続けた。
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ガサッ!と草むらから飛び出すアジーク。目の前には盗賊団アジトがあり、アジークは膝に手を付きながらそれを見据えていた。
「はぁ……はぁ……。早くアゲルトに伝えないとな……。ミームーの奴ら……ついにやりやがった。」
息を整えたアジークは足早にアジト内へと向かうも、扉前にて止まってしまう。中からやかましいくらいに怒声が聞こえるからだ。
「な、なんの騒ぎだ……?」
ガチャリと扉を開くアジークは目を見開く。アジト内は喧騒に満ちていた。あれを取れだ、それを取れだの命令し合い、うるさいやら殺すぞという汚い言葉まで飛び交っていた。
ある所では胸ぐらを掴み合い、今にも殴り合いに発展しそうで、ある所では目を真っ赤にして、黙々とナタを研ぎ、ある所では机上にて手を握り合い、力比べをし、ある所では声を大にして泣き喚いたり。
「てめーら!なんの騒ぎだ!?」
あまりに統率の取れていないアジトの様子に、訳もわからずアジークが怒鳴るも、頭に血が上っている盗賊らにはその声が届かず。
「チッ。おい。これはどういう事だ!?」
仕方なくアジークは前を通り過ぎようとした盗賊の腕を掴み尋ねた。
「ぁあ!?今いそが……あ、アジークさん。えと、すんませ」
「謝んなくてもいい。何があったんだ?」
「今朝皆が酔い潰れてる中、ユバの奴がボロボロになって帰って来たんでさぁ……。そいで、ギリー班が全滅したと、アゲルトの旦那に伝えた後息を……。」
アジークはその説明でようやく理解が追いついた。ミームーの急な探索。朝から姿を見ないアゲルト。そして、黒とミーの会話。点と点が線になった気がした。
「……そうか、ギリー班が……。分かった。もういい。ギリーは九年目だ。世話になってねぇ奴なんてまず居ねぇ。道理でどいつもこいつもすごい剣幕な訳か。」
そう言いながらアジークは目を瞑る。
(ギリー。お前が殺される程……あの男は強いのか……。)
アジークが思い出すは、傷だらけの男……黒の姿。アジークは武器を持たずについていった自分の軽率さを今更ながらに恥じた。
(武器さえあればあの場で奇襲を仕掛けられたんだが……。いや、奇襲してもミーと傷男は避けるか……。俺が死んで終わりだな。選択はこれで正しいはずだ。)
過ぎた事は仕方ないと首を振るうアジーク。その目を再び目の前の盗賊に向けると口を開く。
「それで、アゲルトは何て言ってるんだ?」
「……皆を引き連れ仇討ちに行くと……。」
予想通りの事態に苦虫を噛み潰したような顔をしてしまうアジークは、「分かった。」とだけ言い残し、盗賊らをかき分けながらアゲルトが居るだろう二階へ向かう。
(あの馬鹿……!)
胸に抱くは自らの期待を裏切ったアゲルトに対する怒りであった。
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盗賊団アジト前に積まれた箱。その一番上にドッシリと座る盗賊が一人。毛皮のコートを羽織るドレッド頭の身長百九十程の男性……アゲルトは目を瞑っていた。
(くそ……。)
ギリッと歯を軋ませるアゲルトの頭を過ぎるはユバの死に様。そして、昨夜の自分の行動。
(ギリー班が探しに出た時点で引き戻しに行けば良かった。)
もし、ユバが帰らなかった場合、ギリー班が帰らなくともアゲルトは探しに行こうなど、唇を噛み切ってでも言わなかった。それは、死んでいるかもしれない仲間を探す為に死者を出してしまう程、愚かな事はないからだ。
しかし、目的は変わってしまった。探すではなく仇討ち。いつものように'これがこの世界のクソな所だ。'と割り切る事が出来なかったのだ。
「アゲルト!一体何を考えてんだ!?」
アゲルトが目を開くと、無精髭を生やした身長百八十程の色男……アジークがドシドシと大股で歩み寄っていた。
「あぁ?……。……分かんだろ。てめぇなら。」
「分からねぇから怒鳴ってんだ!本当に仇討ちなんて馬鹿げた事をしに行くのか!?お前なら予想される被害の大きさも!それが何も生み出さない事くらい分かるはずだ!!」
「チッ。誰だ。アジークに言った奴。」
アジークは、積まれた箱を上りアゲルトの背後に立っては断言する。
「止めろ!今すぐに!!お前は事の重大さを何も分かっちゃない!!」
直後。バッ!と立ち上がったアゲルトがアジークの胸ぐらを掴み、上から睨み付ける。フー!フー!と興奮気味なのが二人より見て取れる。
「どういうつもりだぁ?十二人も……十五人も仲間が殺られてんだぞぉ?」
「だからこそだ!!一人でそんなに殺せる奴が相手だ!!死者が出るのは目に見えてる!!」
カッとして殴りそうになるアゲルトは自分を落ち着かせ、なおもアジークを睨み続ける。
「てめぇ……。……。いや、そうだとしても俺はそいつが許せねぇ。理屈じゃねぇんだ。分かるだろ?クソ親共が首吊った日。てめぇも荒れただろうが。」
アジークは自らの胸ぐらを掴むアゲルトの手を無理矢理引き剥がし、両手でアゲルトの胸ぐらを掴む。
「俺が怒ってるのはそこじゃない!!これ以上の犠牲は無駄だと言ってんだ!!」
「チッ。まぁ、てめぇには分からねぇか。俺らの人生が狂ったあの日、てめぇは遊んでたんだもんなぁ。なぁ?今日はどこ行って遊んでたんだぁ?」
「アゲルト!!」
カッ!となったアジークはアゲルトを殴り飛ばす。ゴロゴロと木箱の上から転落するアゲルトは受身を取り、切った口端に触れ、自らの血を見ればチッと舌打ちをする。
「カッとしたらすぐ手が出るのはいつまで経っても変わらねぇなぁ。アジーク。」
バサッと毛皮のコートを脱ぎ捨てる。筋肉質な腕に彫られた、ビビ割れたハートを貫く羽の入れ墨が露わとなり、アゲルトの拳は固く握られる。
「アゲルトこそ。一度決めたら曲げない性格。なんとかしたほうが良いぞ。死人が出る。」
トットッと積まれた木箱から降りたアジークはアゲルトを見据える。その拳はやはり固く握られている。
ピリピリとした雰囲気が場を満たす。
そんな中、アジトの扉が開き、酒が抜けきれていないのか、少し足がふらついているハゲ頭のプルが登場する。
「アゲルトの旦那……と!?こりゃ、一体……。まずいでさぁ!」
目を丸めて驚くプルは何を思ったか走り出す。
プルに気付かないくらいアゲルトとアジークは睨み合い、少しの事で殴り合いにまで発展しそうな雰囲気はまさに一触即発。先に動き出したのはアゲルトであった。
「弟のくせに生意気だ!!」
「兄だからってふんぞり返るな!!」
互いに振り上げる拳。その拳がぶつかると思われたとき。
「ぁぶっっ!!」
アゲルトとアジークの拳の間にはハゲ頭のプルが居た。
「なっっ!?おい!何してんだてめぇ!!」
ふらんふらんと倒れそうになるプルを、直ぐに支えるアゲルトは怒鳴った。
「だ、だって、アゲルトの旦那を探してたら……お二人がピリピリした様子で……。恩人達が殴り合おうとしてたらそりゃ止めやすよ……。」
頬が赤く腫れていくプルは、震える手をアゲルトとアジークに伸ばした。
「兄弟は……仲が壊れたらダメなん……で、さぁ……。」
気絶したのか、パタリと伸ばした手が地面に落ちる。アゲルトは申し訳無さそうな顔をして、そっとその場にプルを寝かせる。
「……チッ!馬鹿が。」
「馬鹿はお前だ。アゲルト。」
「あぁ!?なんだ」
「ミーが裏切った。」
言葉を遮られたアゲルトは目を丸めてしまう。一瞬言われた事の意味が分からなかった。
「……は?な、何意味わかんねぇ事言ってやがんだ……。」
「俺はずっとミーを追いかけてたんだ。……そしたら傷男と戦う内にあいつ、心を開きやがった。」
アゲルトはアジークの様子を見て眉を寄せてしまう。
「有り得ねぇ。あいつは俺を裏切れねぇ。」
「だから!ミーの奴は裏切った!傷男と手を組んだんだよ!!」
アゲルトの胸ぐらを掴んで怒鳴るアジークは、受け入れたくない様子のアゲルトを見て突き飛ばす。
「もういい。俺の毒で全員殺ってくる。それでいいだろ。それでここは日常を取り戻せる。」
「待て!!」
アゲルトは立ち上がる。その目は葛藤を浮かべていた。
「なんだ。止めるか?俺を止めると馬鹿共が死ぬだけだぞ。ミーは強い。それは知ってるだろ。あいつと張り合えるくらい傷男は強かったぞ。」
「チッ。少し待てってんだ……。ギリーを失ってミーまで失うのは痛すぎる。」
「まさか許すんじゃねぇだろうな!!」
「いや。……あぁ。そうなるかもしれない。」
「ふざけん」
「だがぁ!!……いざとなれば'契約'通りミーを……殺す。」
その時、バンッ!と盗賊団アジトの扉が内側より勢い良く開く。
「てめぇらぁ!ギリーさんの……仲間の仇を討つぞぉぉぉおっっ!!」
「しゃぉらぁぁぁっっ!!」
「ぅぉぉぉおおおっっ!!」
「フォッヘヘェイッッ!!」
ゾロゾロと準備を終えた盗賊らが、首筋に脈を浮かべながら出てくる。
「あ、そうでやした!アゲルトの旦那〜〜っっ!!全員準備完了ですぁっ!」
起き上がったプルが手を上げて宣言すると、今度こそパタリと倒れる。アゲルトはこくりと静かにうなずいた。
「……。待てよ、まさか、なおも仇討ちに行くのか!?」
しばらくアジークと睨み合ったアゲルトは、地面より毛皮のコートを拾い羽織る。
「アジーク。てめぇの言う事は正しい。いつもそうだ。てめぇの判断で全員が生き延びた事なんてザラにある。」
そう言いながらアゲルトは腕に刻んだ刺青にそっと触れ、そのまま腰にかけてある鞘から使い古された剣を引き抜く。
「だが、この荒げる思いはきっと。今まで死んだ奴らの分も含まれた怒りなんだ。だから……。」
ドンッと木箱に片足を乗っけるアゲルトは、使い古された剣を上天へと突きあげる。
「てめぇら!!準備は良いかぁぁ!?」
「「「うぉぉぉぉぉおおおっっっ!!!」」」
「フォッヘヘェイッッ!!」
盗賊団のアジト前に集う盗賊三十三名が不敵な笑みを浮かべ、手に握るナタを天へと突き出す。
「行くぞぉ!!」
「「「アィアィ!!アィッサァァァァッッッッ!!!」」」
「フォッヘヘェイッッ!!」
動き出す盗賊団。
「……くそっ!なら俺も好きさせてもらう!!」
思い通りにならない事に怒るアジークはそのように吐き捨てると、自らの武器を取りにアジト内へ急ぐ。その顔は、苦虫を噛み潰したかの如く歪んでいた。
おまけ
「黒っち、なんで魔法知らないんス?」
「あ?……そりゃ、あれだ、情弱って奴だ。」
「……自分で言ってて悲しくないんス?」
「はっ。知らないのは恥ずかしい事じゃない。だから胸を張れと教わった。」
「学ぼうとはしないんスね?」
「……。揚げ足取りは膝蹴りで制裁。」
「ぃっ!……うぅ……酷いッスよ……。」
「てか、教えろよ。魔法。」
「ぅ〜ん。黒っちの手が使える状況だったら教えるんスけど……。」
「じゃ、この縄解くか。」
「ダメッスよ!いつ団長とぶつかるか分からないんスから!」
「チッ。じゃ、どう言うふうに出してるだけ教えてくれ。」
「えぇ……?……っと、想像するんス、現象を。」
「……ぁ?」
「ぇと、だから、例えば俺がさっき使った瞬間移動!あれは、あそこに行きたいと思うと同時に、今いる地点から瞬間で移動する自分を思い浮かべるんス!」
「おけ、わからん。妄想か?」
「うぅ……当たらずとも遠からずッスね。例えば、火を出す!さぁどんな火!?」
「火?……ひー……燃え盛る炎?」
「そうッス!それッス!それを実際にやって見るんス!」
「……。……いや、無理だろ。」
「無理じゃない!出来るんス!!こぅ……ぶわっ!と!」
「ぶわっと……」
「違う!ぶゎぁっ!とッス!」
「ぶゎぁっ!と……」
「違うブヒャァッ!とッス!」
「ぶひゃ……ふざけてるな?」
「……。」
「出来ない俺をからかってるな?」
「……。」
「内心楽しんでたろ?なぁ。おぃ。俺の目を見ろ。」
「……。そ、そんな事」
「あるな、ある奴の反応だ。よし、覚悟しろ。もう一戦するぞ。縄ほどけ。」
「黒っち!学ぶ姿勢が大事ッスよ!!それじゃ、いつまで経っても習得出来ないッスよ!!」
「っっ!!……俺は勘違いしていた。そうだ。どんな理不尽な事でも、今まで俺は理解しようと努力して来たんだ。これはそれらと何も……変わっていない!」
「そうッス!殻を破るんス!!さぁ!ファィヤァァァァ!!!」
「ふぁ……ファイヤァー。」
「違うッス!ファィヤァァァ!!」
「ファィヤァァァ……。」
「もっともっと!!ファィヤァァァァ!!!」
「ファィヤァァァァ!!」
「そんな感じッス!ご一緒に!!」
「「ファィヤァァァァッッ!!」」
「どうッスか!?」
「できねぇよ。」




