朱雀さんの愛情表現66
そうして自分の幸福にどっぶり浸っている間に、 白虎はいつもの立場と良心をすっかり忘れてし
まってというか、忘れたことさえ忘れたという重大なミスを犯したのである。
思い出したのは、台所にもどって、陰気な精力ををもわもわと全身から放射している清明様を
見た時で低い声で
「白虎殿らしくありませんな」と言われたときだった。
「はい?」
「青龍が脱皮で苦しんでるのに見捨てるとは」
白虎はそれでやっと記憶が巻き戻った。
ちょっとまて、白虎の明晰な記憶が働いて内部から青龍の声が聞こえてきた。
(口もききたくないってひどくね)
「あの最初に、見捨てたのは清明様じゃありませんか?青龍が言ってましたが」
一瞬、清明がぎくりとしたように見えたが、すぐに体制を立て直して
「あれは、少し懲らしめようと思って」と涼しい顔で言った。
なんという、中間管理職的な
いやそれ以上のすがすがしいまでに卑怯な責任転嫁であろう。
今こそ怒りを解き放つべきだと思ったとき
冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいた朱雀がぶはっといって麦茶を噴出しそれをぬぐおうともせ
ず白虎につかみかかった。
「皮、皮は白虎殿」さっきまでのしおらしいかわいらしさをかなぐり捨てた朱雀が襟元をつかんで
叫んだ。
白虎はさっきの幸福から一気に地獄のかまのふたがあき一気に垂直落下するのを感じた、
気持ちではなく状況がである。
「あれがないとすべて無駄なんですよ、わああああ、ああああああああ」
朱雀は、すっかり冷静さを失って、取り乱し気迫と、戦闘機のような勢いで急上昇する
アドレナリンで顔を紅潮させながら叫んだ
このゾーンに入ったときにはいつも大惨事が起こるのを知っている。
清明が素早く立ち上がって護符を投げたが、後ろを向いていたはずの朱雀がびっくりすような
ものすごい背筋を見せのけぞりながらよけそこから体制を立て直しものすごいジャンプをしなが
らきれいな回転を見せながらキックを放った。
幸いにも直撃しなかったのでまた護符を出そうと思った清明に天井から竜巻のように
降りてきたトウシューズに直撃され後ろの壁にたたきつけられた。
白虎も非常用のスタンガンを出し何とか無傷で抑えようとしたが、朱雀は今まで必死に練習してい
た。
グランフチエ、やパドドゥなるものを華麗にかつ全力で放ったので、凶器と化した
トウシューズにみんな倒れたうえさらに白虎のきものをつかんだまま
高速の男役のダンサーのように全力で振り回したので着物
がびりびりと破け何かにぶつかって気を失った。
食器が割れる音と怒号、悲鳴、朱雀も興奮したのか、けがを負ったのか鼻と口から
血をふき、だが全くそれを気にもとめず、というか気づいてもいないようで
何事かと集まってきた者も、竜巻のような素早さについていけず理解できないまま蹴倒され
完全に自分を見失った、朱雀は鼻血を噴出しながらも回り続け
夕方まで華麗に回り続けた朱雀が力を使い果たして優雅で悲しい白鳥の顔で倒れたあと
みんなバレリーナの身体能力の
おそろしさを思い知り、さらに白虎の中の怒りはまたしても解放の機会を失った。
清明はバレエならいいだろうと思っていたが、下手な武道より戦闘力が上がってしまったの
に遅まきながらも気づいた。