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兄を探して数多の異世界訪問  作者: Ridge


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巨獣闊歩の世界

 パドマの世界を渡る力が回復して次の世界へ行けるようになるまでスズは待つことになり、図書館の中を歩いて情報収集をした。本棚にある本を読もうと手にとったが、どれも漢字を何十倍も難しくしたような超高密度の謎の言語で書かれていて読めなかった。それどころか見ているだけで頭痛が起きたのですぐに閉じて本棚へ戻した。


 窓の外を見ると外は真っ暗で、何かあるのか何もないのかもわからず距離感が全くつかめない不気味さがあった。空間自体存在しない気さえした。円筒状の吹き抜けの2階の廊下を歩いていると本棚の向こうで立って本をすらすらと読んでいるエンマを見つけた。エンマは視線に気づいて本から目を離してスズの方を向いた。


「やあ。酒は抜けたようだね。どうかした?」

「パドマの力の回復を待っている間に何かできないものかと思って…。でも何も読めなかったです」

「だろうね。まあ大人しく休んでいなよ。次の世界で体力使うかもしれないのだから。リゾートに向いた世界がいくつもあるから、ウパラに命じて好きなところに送ってあげようか?歌を聴きに行くのもいいかもね。あ、ウパラはパドマ同様にサポートする擬人化したシステムのことだよ。分かる?」

「青いカーディガンの女性ですよね?」

「うん、その通り。それでどうする?行く?」

「折角ですが止めておきます」

「そうか。ま、行きたくなったらパドマかウパラに言いなよ」


 エンマはそう言って一度本に視線を戻したが、「そうそう」と言って何かを思い出したように再びスズの方を向いた。


「長丁場になりそうだから覚えておいてほしい。ウパラとパドマは管理者の直接のサポートとして作られた存在だ。彼女たちはボクたちに反乱しないが忠誠を誓うわけでもない」

「どういうことですか?」

「人が皿を落として割った時、普通は重力に腹を立てないだろう?普通は自分の失敗を悔やむ。彼女たちは管理者や管理者代行、ボクがサポートせよと命じた君のことを重力のように認識している。すなわち、この世界の構成要素の前提条件として認識している」


 エンマは淡々と続けた。驚かせたり怖がらせたりという意図もなければ、親身になって優しい忠告ということもなく、不気味なほど冷静にスズに語り掛けた。


「彼女たちはボクたちが存在しない方が良いと思って排除することはない。ボクたちの存在を前提として行動する。だからといって重力下で重い物を持てば苦しいように、ボクらが彼女たちに負荷をかけすぎれば彼女たちを苦しませることになる。重いと文句を言うことはあっても重力のせいでと文句を言うことはない。だから程々にして無理をさせないようにね」

「…分かりました」


 エンマはスズの返事を確認すると本に目を移して再び読み始めた。スズのことをもう意識から外れ、スズはその場を離れて居住空間へと戻って行った。本に目を通したエンマはその本といくつか本棚から関連するものを選んで抜き取り、手に抱えて執務エリアへと運んで行った。



 部屋に戻ったスズは机に向かって持ち込んだノートに記録を付けて状況や心理を整理していった。

 その翌朝、スズはパドマと朝食を取っている時に尋ねた。


「もう次の世界に行ける?」

「はい。可能ですよ~」

「じゃあこの後お願い」

「りょーかいです~」


 朝食を終え、身支度も終えた後、2人は居住空間を出て図書館にやって来て、対象の本のところに来てパドマの力で2人は図書館から姿を消した。

 ゲートが開いて2人は夕暮れの草原の上に落下した。乾いた風が肌を撫で、青臭い草と枯草の混じった匂いがした。周囲を見渡すと、辺りには草原が広がり、風で草が波を描くように揺れていた。遠くには緑の山が見え、よく見えないがそこには木が生えているようだった。辺りをよく見ると草の生えていない部分が見えた。


「あそこが道かな?行ってみよう」

「はーい」


 草を踏みながらそこへ近づくと異様な光景が見えて来た。帯状に枯草があるのだが、凹んで踏み固められたような3m近い穴のようなものが縁のほうに点々と続いていた。


「これは一体…」

「何か来ます」


 パドマは周囲を警戒し、一瞬で煙で30cmほどの杖を形作った。木の杖の先に向かって細くなっており、掴む部分の上には紅の蓮の装飾が付いていた。スズは人差し指を胸のネックレスの輪にかけていつでも武器を出せるようにした。

 草むらが風の作る波とは違う形で揺れ、兎のようなものが跳ねてスズに跳びかかって来た。ぱっと見は兎だが開いた口の中にギザギザの葉が何層にもついていて、兎とは別物だった。横からショットガンのように鋭い幾つもの氷塊が飛び、その獣を引き裂いて撃ち落とした。パドマの術である。


「まだいます」


 獣たちは草むらから跳びながら近づいてきた。


「来ないで!」


 スズはリングを引き、鞭を引き出して草むらを薙ぎ払い、それに当たって裂かれた獣たちは千切れて吹き飛んだ。残った獣は逃げ出していった。


「どうやら逃げたようです~」

「助かった…」


 スズはふらっと崩れ落ち、取っ手が地面に触れた鞭は煙となってネックレスに戻って行った。草原には血痕が残った。


「ごめんね、どうか安らかに」


 スズは目を閉じて黙祷を捧げ、目を開けてパドマの方を向いた。


「スズさん、人がこっちに来ます~」

「え?」


 スズはパドマの指差す方を見た。何か機械に乗った人がやって来るのが見えた。近づいて来るに従い、姿がはっきりしてきた。男が馬や牛に似た四足歩行の機械に乗って、後ろについてくる同様の機械は左右にぶら下がるように荷物を載せていた。男は2人の前で動きを止めて機械に乗ったまま2人に尋ねた。


「何者だ?車はどうした?」

「私はスズ、旅人」

「パドマです、同じく旅人です~。車と言うとその機械のことですか~?」

「そうだ」

「私たちはそれを持ってないんだ。遠いところからここに初めて来たばかりなもので」


 男は困惑している様子だった。装備が乏しいのは誘拐されて逃げだしでもしたのだろうかと考えた。


「お兄さんはどこかへ行く途中ですか~?」

「これから街に帰るところだ」

「ご一緒してもいいですか~?」

「えっと…」


 男は怪しんで拒否しようとしたが、ここに置き去りにするのも気が引けたのと、断ってもついてきそうな様子、そして人と過ごしたいある事情から、受け入れることにした。


「まあ…いいよ。その車に乗りなよ。ただし、俺の目が届くように前を歩いてもらう」

「それはありがたいけど、操縦の仕方が分からなくて…」

「それなら自動操縦で街に着くように設定してあるから問題ない」


 男はモニターを見てコントローラーのボタンを操作して設定を変えて後ろにいた牛のような機械を横に移動させた。それには荷物があまり載っておらず、スズたちが見ているとはしごが降りて来た。


「2人乗りってこと?」

「みたいですね~。スズさん、前と後ろどっちがいいですか~?」

「私はどちらでもいいよ」

「じゃあ私が前にしますね~。後ろの方が楽そうですからお譲りします~」


 パドマは先にはしごを登り、前にまたがって座り、スズは後ろに座った。そこには座布団のようなものが敷いてあり、手すりが前についていて、ハーネスが掛けられるようになっていた。


「パドマ、何かベルトのようなもの出せない?」

「支えないと不安ですね」


 パドマは煙を出して変化させ、金属のフックのついた樹脂のベルトにした。2人はそれぞれ腰の後ろに回して手すりにかけた。それを目撃した男は動揺した。


「今、何をした?」

「遠い故郷の技術です。どうか内密にお願いしますね~」


 パドマは微笑んで頼みこみ、男は緊張しながら頷いて了承した。

 そして準備は整い、街に向けて歩き始めた。整備された道が無いので車輪じゃない方が良いのだろう。


「名前を聞かせてもらってもいい?」

「俺の名はスカラ。探索者組合所属」

「探索者組合?」


 スカラはホームタウンでは誰もが知っていることを知らない様子を見て妙に思ったが、この人たちは遠いところから来たのだからと納得した。


「探索者とは街の外に出てエネルギーを探す人たちを指す。その人たちの組合で、緩い繋がりを持っている」

「さっき獣に襲われたように街の外は危なそう」

「ああ、外は危険でいっぱいだ。街は山の斜面と川、人工の壁で囲まれていて比較的安全だ。だけどその中だけではエネルギーが足りない。誰かが危険な平原へ出て、エネルギーを取りに行かなければならない。それを行うのが探索者」

「つまり勇者なんですね~。かっこいいです~」

「所詮は安全な仕事に就けなかった奴がやる仕事だ」


 スカラは褒められて照れ、自分を卑下する物言いで照れを誤魔化した。が、この世界の常識を知らないスズたちにはどこまで本当か分からなかった。


「そうなの?」

「あ、いや、そういう面もあるが、望んで探索者をやる人も多い」

「そうなんですね~」


 スズたちの載っている機械が段差のあるところに着地して揺れ、喋ると舌を噛みそうで黙っていたところ、スカラの方から話しかけてきた。


「仲間たちと5人でチームを組んで出たんだが夜に危険な獣に遭遇して命を落としてな。1人じゃどうにもならないから引き返すことにした。お前たちに会えて孤独な帰路にならず元気づけられたよ」

「それは…ご冥福をお祈りします。また襲われることはないの?」

「そいつは夜行性だから今は出て来ない。とはいえ、別の獣に襲われることはありうる」

「じゃあ見つからないようになるべく静かに…」

「いや、喋ってる方が近づいてこないからこれでいい」

「それならいいけど…」


 スズは周囲を見回してみたが、動物がいるのかすらよく分からなかった。乗り物の揺れもあって凝視して見えない。


「せめて巨獣の死骸を見つけていればな…4人の仲間を失って手ぶらで帰るなんてな。まあ考えても仕方ない。今は帰ることが優先」

「巨獣の死骸…?エネルギーを探しに出ていたのでは?」

「ああ、そいつが貯えた脂肪がエネルギーの塊だ。それを探している」

「成程。そういうこと」


 鯨油か石油みたいなものか。


「巨獣とは何?」

「やっぱり知らないか。巨大なサイみたいな奴らだ。違うのは高さが30mくらいあって、歩きながら有機物からエネルギーを吸い上げていること。そこの枯草ばかりの帯になってるのは通った跡だ。草だけでなく虫や動物も命を吸い取られて死ぬ」

「あの帯はそういうことだったんだ…」


 枯らして通った跡があの帯で、踏み固められたような穴が足跡だったわけか。


「巨獣の死骸を探すと言ってましたが狩らないのですか~?」

「仕留めるのは大変なコストがかかるができないわけじゃない。でもしない」

「どうして?」

「その前に、巨獣たちは急流は渡らず、急斜面は登らないという性質がある。平原の中を動き回ってエネルギーを集めている。だから街も畑も、斜面や川に囲まれて残りは人工の壁で囲った場所にある。他の街も似たような感じだ」

「住める場所はかなり限られそう」

「その通りだ。その昔、近くに生息する巨獣を殺し、巣も破壊しにかかった街があった。その脅威が取り除かれれば、斜面や壁や川に囲まれた狭い土地での暮らしの必要がなくなる、草原を畑にして多くの食料が作れるという目論見だった。しかしそれは失敗した。あいつらがいなくなったことで害虫や害獣、病気が蔓延して街は滅びかかったんだ。以来、手を出すのは禁じられている」

「なるほど~。まるで冬が獣の形をしてるようですね~」

「冬か…確かにそうね」

「お、街が見えて来た」


 スカラが指さした先には、山の手前に灰色の壁が見えた。ここからは見えないがあの奥に街があるのだろう。


「ふう…失敗の報告も仲間の死を伝えるのもそれを聞く人の顔を想像すると気が重くなる。それでも組合は俺と同じく法則神派なのがまだマシか…」

「法則神派?」

「宗派は色々あるが根幹となるのは大きく2つ、法則神派と人格神派の2つだ。神とは重力のようにこの世界に遍在する力、法則、原理として考えるのが法則神派。対して神に人格があり、救いや罰をもたらすと考えるのが人格神派だ。後は細かく分かれている」

「へえー…」


 神と聞くと人格神派の考え方しか思い浮かばなかったけどそんな考えもあるのか。


「法則神派はこの世界を支配する三大原理を肝に銘じ、時々唱えて思い出し、自分を見つめ直す」

「その原理を聞かせて貰ってもいい?」

「ああ。三大原理。1つめ、挑む者は富を掴む機会を得る。成功を保証するものではない。失敗は神の罰ではない。2つめ、動かなければいずれ枯渇して滅びる。ただし、休息を否定するものではない。3つめ、万物は移ろい変化する。永遠はない。以上」


 スカラはすらすらと唱えた。完全に覚えているようだ。


「何だかシビア…」

「そうかもな。でも厳しいばかりじゃない。永遠に喜ぶこともないが永遠に苦しむこともないと示している。希望を与えてくれる」

「言われてみれば…」

「素敵ですね~」


 水の勢いよく流れる音が聞こえ始め、段々と大きくなっていった。少し進むと急流の川とそこにかかる吊り橋が見えた。その左右に見える川の流れの勢いは強く、落ちたらあっという間に流されて死ぬと予感させた。対岸は整備されていてブロックが敷き詰められた道となっていて、一部に草が隙間から生えてブロックを持ち上げていた。


「降りて歩ていい?揺れて上から落ちそう」

「別にいいけど、獣が飛び出してくるかもしれないから気を付けてな。この金属の塊に乗ってた方が狙われにくい」

「そんな気がする。でも川に落ちるのも避けたい」

「私も歩きますね。乗り慣れてないもので~」

「分かった」


 スカラは機械を止め、操作してはしごを降ろした。スズとパドマは下に降りた。近くの草むらがガサッと動き、豹のような獣が跳びかかって来た。スズはとっさにネックレスに手を伸ばしたが焦って空振りし、鋭い爪で引き裂かれそうになった。その瞬間、無数の氷が獣を吹き飛ばしつつ切り裂いて、草むらの中へと落として見えなくなった。後ろを見ると杖を構えたパドマが立っていた。


「ごめん、上手く動けなくて。ありがとう、助かったよ」

「もういないようですね。無事でよかったです~」


 パドマは杖を煙にして消し、とっさに動いて崩れた服を正した。


「また不思議な術を…」

「どうか秘密でお願いしますね~」

「あ、ああ。喋ったら氷漬けにされそうだな…。行こう」


 スカラは再び機械を動かして橋の上を進み、スズたちは後ろに着いていった。揺れる橋を慎重に進む途中、水の流れる大きな音と振動に包まれ、他には何も聞こえず、頭の中が洗われるような気分となった。それもあって橋を渡り終えた後は、一時的に目の前のことから離れられてスッキリとした気分だった。舗装された道を進み、徐々に街へと入って行った。


「この後はどうする?」

「少し調べものをしてまた旅立つよ」

「じゃあここでお別れかな。話せて少し気が楽になった。ありがとう」

「こちらこそ。街に着けてよかった。大変だろうけど頑張って」

「ありがとうございました~。お元気で~」


 スズたちはスカラとはそこで別れ、広場の方に行った。人々が歩いたり、話をしたり、屋台で買い物をしたりしている。


「スカラ君は大丈夫かな?」

「失敗は神の罰ではないと言ってましたから、きっと大丈夫ですよ~。また挑戦することでしょう~」


 探索に出ればまた仲間を失って苦しむかもしれない。でも何もしないと枯渇するからやるしかないか…。それにきっと苦しいだけじゃなく喜びもあると思う。成功の喜びや過程そのものの楽しさが。きっと乗り越えていける。


「これで追跡装置は使えるかな?」

「多分まだ足りませんよ。確かめますか~?」

「じゃあ一応」

「はーい」

「あ、待って。それって大変なの?」

「結構疲れますができないわけじゃないですよ~」

「じゃあやめておこう。もう少し情報を集めてから」

「りょーかいです~」


 パドマは解析準備を止め、気が抜けて息を吐いた。スズの頭にはパドマを無理をさせてはいけないという言葉があった。戦闘も交流もして、疲労がたまっていないかも不安だった。


「とりあえず見て回ろうか」

「そうですね~」


 スズたちは夕暮れの街の中を歩いた。斜面に沿って低い建物が所狭しと建っており、多くは夕陽を受けて金色に染まっていた。今いる広場付近も緩いが傾斜があり、少し歩くと高低差や曲道があるから景色が次々と変わって面白い。川がある方向は畑や水田があって遠くまで見渡せて開放的な印象があり、山も川も無い方向には大きな壁がそり立っていて圧迫感があった。


 街の雰囲気は余裕に満ちた感じはしないが、ギリギリで切羽詰まっているというほどでもないように感じられて落ち着きがあった。背水の陣ではなく、余裕を持ってエネルギー採取をしているようだ。小学校のような建物の校庭で小さな子供たちが遊んでいるのが見えた。ある子供が毛虫のついた枝を向けて相手の子の嫌がる様子を見て楽しんでいた。


「こら!やめなさい!」


 先生らしき人が子供の肩を引いて枝も取り上げた。


「人の嫌がることはやっちゃ駄目。いい子にしてないと罰が当たるよ」

「はーい…」


 子供は不服そうに渋々答えた。その目はまだ諦めておらず、教師の見ていないところでまたやろうという雰囲気だった。


「神様にはお見通しだから先生に隠れてやったって無駄だからね」

「ちえっ」


 子供は観念したようにやめて不満げにその場を離れて、また新しい遊びに目が留まって参加しに行った。


「スズさん、じっと見てどうしました?」

「あ、いや、私がイメージする神というのはこういうものだなって感じて。本気で信じているわけじゃなくて、薄っすらと意識してるものなんだけどね。子供に言い聞かせる方便というか。さ、行こう」


 スズはまた歩き出し、パドマは横について歩いた。


「神罰があるから悪いことはできない。でも死を含め酷い目に遭えば罰が当たったと考え、酷い目に遭うのは罰が当たるような悪いことをしたのだと考えるよね」

「そうですね~。そう考える人もいるでしょう。でも教義次第ですよ~」

「あちらを立てればこちらが立たずか。完璧にはいかないものね」

「小さな子の躾には罰があると思うのが都合良い、危険な外へ出るには失敗は罰ではないと思うのが都合良い、上手く分担出来てると思いますよ~」

「確かにね。分担…そんな見方があったか…」


 小道の頭上にガラス張りのこじんまりとしたアーケード街があり、そこには小さな店が所狭しと並んでいた。電飾などの派手な物はないが、塗装やデザインの違いで個性がぶつかりあう不思議な場所だった。その中に写真が掲示してある店があり、巨大なサイのような動物を見上げた写真や、遠くから青い空や草原を背景に撮ったものなどがあった。青々とした草原を通った後だけ枯草となって全く違う色になっているのがよく分かった。実物ではないが写真を見て、こんなのがいれば畑を外に作れないというのがよく分かった。


 小道を抜けると、山の斜面に出て、段々畑に未成熟な実を付けた果樹が植わっている景色が見えて来た。人の姿は遠くに一人二人見える程度だった。


「追跡装置の解析はそろそろいいかな?」

「十分可能と思います」

「それじゃお願い」


 パドマは煙を変化させてスズの腕輪にケーブルを繋げてモニターを出し、解析を始めた。世界の全てを把握せずともある程度知ることができればノイズを除去して追跡が可能。というより全てを知るのは不可能だ。


「この世界にいないようです。次の世界が」

「またか。兄さんは一体どこまで行ったんだろう…」


 スズは苦笑いして右手を頭に当てて髪をくしゃっと掴んで離した。


「ありがとう。一旦図書館に帰ろう」

「了解しました」


 パドマはモニターなどを煙に戻して片付け、ゲートを開くと、2人は吸い込まれて消え、図書館へと戻って来た。

 パドマは本を本棚に戻し、2人は報告のためにエンマの執務場所へ向かって歩いた。


「スカラ君の言うことには一理あるとは思うけど何か引っかかる。そう思うのは私が怠け者だからなのかな?あなたはどう思う?」

「そうですね~。彼らの環境に適した思想ですから適さない環境もありますよ~。待っていれば植物が実を付けます。それで十分足りる環境もあります。何でもかんでも動き続ければいいわけじゃないですよ~」

「ああ、そういうことか…」


 あれらの原理は彼らの環境では真実だろう。でもどこでも通用するとは限らないんだ。ということは私が漠然と信じている世の中の原理もどこでだって必ず通用するわけじゃないんだろうな。考えてみればそりゃそうだと思う、だけど改めて意識しないと気づけないものだね。

人間より強い存在が出る世界ばかりだったので、次あたりで人間が頂点の世界を訪れるかもです。

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