9話 真面目
「どう? 企画は出来上がった?」
「その前に聞きたいことがあります。でも、それを先生が知っているとは限りませんが」
失くなっていた九月号のことだ。あの十月に一体何があったのだろうか。
「へぇ、聞きたいことかぁ」
うーん、知らなそうだな。
「俺は昨日、六年前の出来事について詳しく知るため、図書室で資料を探しました。生徒会新聞を読んだのですが、九月号だけはどれだけ探しても見つからなかったのです。また、十月号には『様々な騒動があった』とありましたが、署名活動が行われただけならそんな書き方はしないハズです。仮に、些細な出来事だったとしても、署名活動後のダンス部の動向なども記述されていると思うので、九月号を読みたいのですが、行方は知りませんか?」
明に手伝ってもらったことは伏せた。余計な心配はさせたくないし。
九月号があれば、一連の騒動の転換点がわかるだろう。ダンス部が如何にして文化祭で発表を行えたのかが。
「生徒会新聞第百十五号の紛失、ね……」
教えていないのに、九月号の正確な号数を言ってみせた。知っているのか?
「知っているんですか。どんな内容が?」
「先生の間では有名な話よ。その事実だけ知ってるんだ。私は四年前からの赴任だからさ、当時のことはわからないんだ」
なるほど。朱崎学園は名門校であるが故、書類の管理や警備は徹底している。図書室には常に司書がいるし、生徒会新聞なんて資料を読むやつも少ないだろうから、持ち出したやつがいたらすぐに分かるのだろう。監視カメラもあるわけだし。
だから、『先生の間では有名』なのか。何故紛失しているのかがわからないから。
「校長室には詳しい資料があるかもしれないけど、あんなに膨大な資料の中から、生徒会新聞や二千二十年九月に関する資料を探し出すのは難しいでしょうね。そもそも、そんなことしたらいけないでしょう」
ですよね。結局わからずじまいか。
「あそこの資料を引き出せるのは、校長、教頭と、それこそ生徒会だけ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「それで? 企画は?」
ああ聞かれてしまった。できる限りこの話題を引き伸ばしたかったのに。
正直に話すしか無いか。
「早織先生、俺は、別に全文化部に発表をさせる必要はないと思うんです」
「へぇ……?」
あからさまに嫌そうな顔をする。協力してくれると思っていた生徒に楯を突かれたのだ、無理もない。
「それは、文化祭の方針にも当てはまります。『文化祭とは、文化部の日頃の活動を一つにし、発表する場。故に半端な発表は認められない』」
校則の引用だが。
「半端な部活が多いから、全てに発表の権利は与えられないってこと?」
先生の口調は穏やかだが、声は少し低くなっている。
「まぁ、間違ってはいませんが。この校則には『半端な発表は認められない』とあります。つまり、『発表』でなければ半端でも良いのです」
屁理屈かもしれないが、文化祭に関する校則には、『発表』という表現しか用いられてはいなかった。『発表』でなければ良いと思うのだ
「あっ、ステージで大々的、ってわけじゃなくて、ブースみたいな感じで小規模のってこと?」
「そうですね。全校生徒に伝えるのではなく、少数でも良いので文化部の活動について興味を持ってもらえるような」
「いいね。それなら生徒会側も検討してくれそう。最初から校則に抵触してないのは、目標の一つだったんだ」
どうやら納得してくれたようだ。蹴られなくと良かったと言ったところか。
やはり校則か。抵触していると、一気に実現が難しくなりそうだ。
「じゃあ、その方向で企画書を書くね。明日は一回目の生徒会会議だけど、資料が間に合うかはわからないから。喋れるようにしといてね」
「わかりました」
「明日、頑張ろうね」
「はい。よろしくお願いします」
穏やかな表情の早織先生を見送って、明日のことを考えた。
◇◆◆◆◇
「生徒会に、ね」
早織先生との話し合いを終えた俺は、読書部の活動のために図書室に来ていた。
「はい。まさか入学して二ヶ月でこんなことをさせられるなんて思ってもいませんでしたが」
「経験は大事だよ。といっても、私は生徒会に参加したこと無いから」
ですよね。
「早織先生も懲りないな」
やっぱりそうなのか。
「毎年やってるもんね。でも、今回はうまくいきそうだよね」
この案がか? 一筋縄で行けるなら良いのだが。
「ああ。君は真面目だな」
どういう意味だよ……。そこまで真剣に取り組んでいるわけではないのだが。
ああ。暁や望月ならばもっと良い案を考えられただろう。物事に対する姿勢が違う。
「明日、頑張ってね」
果たしてそこまで言われるようなことなのだろうか。いや、今までの生徒会の対応も考えると、自然なのか?
「まぁ、はい」
ぎこちない返事をしてしまった。明日はどうなることやら。




