5話 テスト前
「あとちょっとでテストだけど、進んでる?」
登校したら、葵に話しかけられた。
「やってるにはやってるけど、長い時間取り組んでるわけじゃないな。めいは?」
「範囲は定まってるから、時間をかけて覚えている」
後一週間ほどで、中間考査が行われる。三日間に分けて行われるので、体力も重要だ。
「さすがは三位だね。私も、どんどん時間を増やしていかなきゃ」
「寮での勉強って、捗るのか?」
涼太と葵は、寮で生活している。家から学校はかなり遠いそうで、休日にしか帰れないらしい。
「あんまり」「全然だな」
両者ともに同じような反応だった。
「まぁ、部屋の人にもよるけど、すごい集中できるってわけじゃないよね」
「全員がやってるって状況だったら、やりやすいんだけどな」
「誰か一人でも違うことをしていると、難しいってことか」
住民の行動が気になってしまうのは、ある意味仕方ないだろう。自分の勉強に没頭する他無い。
「そ、一週間前だから、するようになってきてるけど」
「自習室の解放、明日からだっけか」
この学校には自習室があり、テストの一週間前になると解放される。寮生活をしている生徒にとっては集中できるいい空間だろう。
「うん。予約制だけどね」
「そんな制度もあったな」
「げ、俺まだ予約してない」
「まだ取ってなかったの? もう、いい時間は取られちゃってるんじゃない?」
この学校では、ICT教材の活用を名目に全校生徒にタブレット端末が貸し出されている。
教材の利用だけではなく、学校の運営においても活用されていて、行事や授業の参加、一部の教室の利用にも使われる。
タブレット端末を用いて、自習室の枠を予約するシステムだ。
涼太のタブレットを、俺と葵が覗き込む。カレンダーの殆どの時間にはバツ印がついていた。
「そうだな。って、夕飯の時間しか残ってなかった…」
涼太はその情報を見て落胆するが、すぐに仕方ないと割り切ったようだ。数少ない空いている時間から二つ選び、予約した。
「早めに予約してたら良かったのに」
「忘れてたー。ま、仕方ないか」
軽い反応だ。寮での勉強をそこまで苦だとは思っていないのかもしれない。
「おはようございます。やっぱり寮で勉強するのって、集中しきれないですよね」
望月音波がやってきた。お嬢様……って言うほどお淑やかでも賢いわけでもないが、案外、物事には徹底的に取り組むタイプだ。
「おはよう音波。勉強、進んでる?」
「はい。課題は勿論終わりましたし、復習も進んでいます」
「音波は計画的にするタイプだよな」
「ここの生徒は殆どそうではないですか? 勢いで誤魔化してる人あまりいないと思いますよ」
涼太の深く考えていない言動に、しっかりと棘を刺す。
「確かに。言っちゃ何だけど、レベル高いもんな。ここ」
「ま、一回目のテストなんだし、気合い入れて進めてこ?」
「そうだな。頑張るか」
一発屋には、ならないように。順位を維持できるように。
◇◆◆◆◇
定期テストの勉強とは、質より量である。これは、どのレベルの勉強でも対して変わらないと思っている。
問題を解いた回数。教科書を読んだ回数。解説を理解した回数。そして、暗記の回数。
どれだけ難しい問題が出ようとも、これだけは変わらない。
時間を有意義に使うことこそ、テスト勉強の基本的な考え方だ。
熟練度が足りなければ、満足の行く結果にはできないのだ。
「調子はどうだ?」
「ん、ぼちぼち」
何度も周回したワーク。暗唱できる教科書。応用を利かせた公式。
それらを、完璧になるまで繰り返す。
休日は、多くの時間が取れる。活用できる時間が増えれば、基礎問題の確認から、応用問題の解き直しまで、様々なことができる。
「昼は何がいい?」
もう昼前だ。午前中は基礎の復習。午後に応用を充てている。自分にはこの時間配分がちょうどよい。午前中で覚えたことを基に応用に挑戦でき、知識の定着が深まると思う。
「そうめん、ある?」
「あるよ、今から作る」
そうめんか、久しぶりに食べるな。まだ夏というほどの気温ではないので、少しだけ季節外れだ。
勉強を頑張っているときの明は、ちょっと変わったメニューを頼むことがよくある。いつもは食べないものを食べて、モチベーションを上げているのかもしれない。
別でサラダも作ろう。そうめんの取り合わせといえば、きゅうりだろうが、あいにく買っていなかった。トマトとキャベツ、ツナも合わせよう。
そうめんを茹でている途中で、野菜サラダが出来上がった……と言えるほど、野菜の品数が多い訳では無いが。
明日は、野菜を多めに買おう。
お湯を切って、水で締める。少し冷たいかもしれないし、氷は入れないでおこう。
「いただきます」
食器を洗っている俺を横目に、明はそうめんを食べ始めた。




