4話 貢献
「明くん、あなたにお願いがあるの」
1-cの担任で国語科担当の教師、古川早織先生に呼ばれて、放課後の教室にやってきた。
「何のようでしょう?」
「文化祭をより良くしてほしいの!」
勢いよく、そう言ってきた。
「えっと、そういうのは生徒会に頼むべきでは?」
とりあえず思ったことを一言。俺でなくても努まりそうなことだ。
「まずは話を聞いてくれない?」
真剣な眼差しだ。入学したての新入生に対しての態度ではない。
「……どうぞ」
「この学校の文化祭は面白みがなさすぎると思うの」
「というと?」
「文化部ってそれなりの数があるのに、実際に発表の場が設けられてるのは吹奏楽部、ダンス部、演劇部の三つだけで、それ以外の文化部には発表の場が設けられていないってこと」
「へー…。って、やっぱり生徒会に頼むべき案件では?」
説明を聞いてもなお、俺に頼み込む理由になっていない。
「あなたも入学説明会で散々聞かされたでしょう。校則」
この学校は、公立高校や他の私立とは比べ物にならないほど校則が多く、学校生活の制限が基本的に多すぎるのだ。
生徒会は学校行事を主導するが、校則を重んじているので、校則に校則に触れてしまいそうな案件にはなかなか手を付けない性質があるのだろう。
「なるほど。でもそれは、生徒会内で協議をしなければ可決されないのでは?」
俺に生徒会に入れなんて言わないでほしい。
「でも、六月と一月の生徒会だけは、生徒や教員側から意見案を出して協議に参加することができる。勿論、人数制限もあるし、学年の誰かが参加して支持を集めたら変わってくるかもしれないけど……」
「俺でなくても務まりますよね。明に頼んでもいいわけだし、同じクラスだったら渚だって……」
「明は軽率すぎるからだめ。暁は君ほど柔軟じゃないよ」
「自分もそこまで柔軟とは思っていませんが」
「いいから、引き受けてくれない?」
押しが強い。否が応でも俺にやらせようとする意思まで感じられる。
「つまり、俺に意見案を提出しろというわけですか」
「うん。そういうこと」
「……何か、報酬はありませんか?」
思い切って聞いてしまった。
「ま、ただで引き受けてくれるってわけには行かないよね。勉強時間も欲しいだろうし。そうだなー……また考えておくね」
「そうですか。校則に抵触しないものにしてくださいよ」
「任せて。それは、引き受けてくれるってことでいいね?」
「はい。先生も会議に参加してくださいよ」
「勿論、意見案も一緒に考えようね」
「では、さようなら」
そう言って教室を出る。早織先生が、あんなに真剣に話しているのは初めて見たかもしれない。
……担当の部活がどこかぐらい、聞いておけばよかった。
◇◆◆◆◇
「そろそろ体育祭なんだが、君たちは何をするか知っているか?」
六月には体育祭もある。忙しくなりそうだ。
「知らないみたいだな。では教えてやろう」
今は五月中旬。もうすぐ中間考査もあるので、勉強の時間を取りたいところだ。
「体育祭は、クラスで一致団結し、競技ごとに競い合い、優勝を目指す。そのうえで、クラスの中での親睦を深めてもらうのが目的だ。競技は確か、リレー、綱引き、障害物競走の三つだったか」
「東先生、選抜リレーもありますよね」
「ああそうだったな。今日から体育や総合で練習を増やしていくから、バトンパスの基本からやろう」
バトンパスの仕方なんかもテストに出るのだろうか。
リレーや競技の歴史とかは出そう。
そもそも中間考査では副教科は無いし、そこまで急ぐ必要もないのだが……。
『副教科も、悪くない程度には取ったほうがいいよ』
なんて、母に言われた。
勉強すればそれなりに点数は取れるだろうから、時間を取ってやればいい。
実技の評価はテストで補うのが基本だ。
「なんだか、苦手そうな顔だね」
練習の後、渚に話しかけられた。
「運動はちょっと、な」
「短距離のスコアは悪くなかっただろう?」
「それでもお前には負けてるよ。それに、他クラスにも早いやつはいっぱいいる。貢献はできそうにない」
別にそこまで体育祭に全力を投じたい訳では無いが、負けるのはなんとなく嫌なので、少しくらいは貢献したいものだ。
「貢献できないとか、言うんじゃない。私からしたら、走っているだけで貢献者だ」
「仮に勝敗に影響しなくとも?」
「嫌な質問をするね」
「自分だってこの前試してきただろ」
部活当てゲームをさせられたことは覚えている。
「そうだね。勝敗に関係しなくても、走ってさえくれればいい」
「綺麗事だな」
「綺麗事は言わなきゃ意味がないだろう? それでも不満なら、全力で競技に取り組んだものは、クラスに貢献できるとでも言おうか?」
「はっ、なら、俺でも貢献できそうだな」
知り合ったばかりの人物とは、あまりうまい会話ができない。




