2話 部活案内
『どうだった?』
電話越しに聞こえる母さんの声。少し前とあまり変わらない様子だ。
「あかりは一位で、俺は三位」
あの順位表を思い出す。
『あちゃー、二位、取られちゃったか』
「あかりと二位のやつは二点差だったよ」
『学費がタダになったんだ。よくやった』
「じゃあ」
『今度のテスト、楽しみにしてる』
電話を切る。
あかりがリビングに入ってきた。
あかりは、文字を伝えるときに手旗信号の動きを使って表現することがある。
問いたいものを直接表すのは文字数が多くなると大変なので、英語の頭文字→日本語の頭文字というふうに表現する。どうしてそうするかは知らないが、こいつと暮らし始めてから四年も経って、おおよそ分かるようになってきた。
例に漏れず、俺に尋ねる。
シュッ、シュバッと、旗を持っていたら聞こえてきそうなほど切れのある動きで、信号を表現している。
アルファベットは「W」、日本語は、「タ」に濁点で「ダ」
この状況なら「Who/誰」かな。
「母さんだ。あかりが一位を取って喜んでいるみたいだった」
声からわかったことだ。平静を装っていたが、内心心配だったのだろう。安堵の声が漏れていた。
「今度も頑張らなきゃ」
「そうだな」
俺も、いつかはあかりよりも高い点数を取ってみたい。
◇◆◆◆◇
「君たちなら、来てくれると思っていたよ」
放課後、読書部の活動のため、図書室へやってきた。俺達以外に入部した者はいなく、先輩も三人だけだ。
一人は今日は来ていないらしい。
二年生の先輩、汐見海さん。女子だ。黒いネクタイがよく似合っている。
「ここでの活動と図書室の案内をしよう」
そう言われ、図書室の奥に進んでいく。
図書室は中等部の棟と高等部の棟をつなぐ廊下に隣接している。つまり、建物の中心にあるようなかたちだ。
地上三階、地下一階まであり、地下室は蔵書を管理する場所になっていて、普段は立ち入れないそうだ。
一階は資料が多く、調べ物をする際に役立つそうだ。ここにあるものの殆どは貸出されていない。
二階と三階は、一般的な図書室の機能が揃っている。普段は二階で読書部の活動をしているらしい。
「ふたりとも、読書部に入ってくれてありがとう。普段はあまり話さないかもしれないけど、よろしくね」
三年生の一色美緒さん。読書部はロングの女子ばかりだ。といっても、すこしづつ長さが違う。
「「よろしくおねがいします」」
「わからないことがあったら――ないと思うけど――、私や海に聞いてね」
一応、部長らしい。
「今日はもう帰ってもいい。明日から、ここに来てくれ」
部活はとても静かで、よく馴染めそうだった。
◇◆◆◆◇
「カレー?」
「ああ。良かったか?」
「うん」
家に親はいないので、料理は俺がする。……いや、料理だけではなく、殆どの家事は俺がするのだが。
明は家事が得意ではない。料理も掃除もてんでだめだが、洗濯物を畳むくらいならやってくれる。
「先入るー」
「はい」
醤油を味付けに入れる。ソースではない。完成直前だったのに、風呂に入ってしまった。
テレビには、数週間前に録画したアニメが流れている。机の上には勉強道具が出しっぱなしだ。寝室に運んでやろう。
おっと、サラダにドレッシングを掛け忘れていた。あいつは青じそが好みだったな。
リビングのテーブルにカレーとサラダを運んでおく。箸とスプーンも忘れずに。福神漬も置いてやるか。
「めいー、パンツないー」
「裸で洗面所から出てくるな。今持ってく」
部屋干ししていたから。帰ってきたときにはまだ乾ききっていなかったが。
もう乾いたみたいだな。ついでに、俺の下着も持っていく。
「これもしまっといて」
「ありがとー」
その後すぐに、洗面所から出てきた。
「美味しそー。あ、福神漬もある!」
忙しないやつ。
「「いただきます」」
いつものカレーは、かなりの甘口だった。




