15話 学年種目
一年生の綱引きが終わると、二年生の学年種目が始まる。
『台風の目』だ。
四、五人で長いバーを持ち、コーンまで走り、戻ってバーを列の下にくぐらせ、次の走者へ渡される。
重要なのはバーをパスする部分だろう。ここでミスをしてしまうと、逆転されてしまう場合もあるので、大きくリードしていても油断できないスポーツだ。
「めい、あれ、海先輩」
明が指さして教えてくれた。
応援席から見て手前側、a組に、海先輩はいた。ここからでも、あの長髪と佇まいを見れば、すぐに分かった。
そして、先輩にバーが渡る。
すごい勢いで走り出していく。そんな様子を見ていると、応援席からは黄色い?声援が聞こえてきた。
『頑張れー!』という声援の中に、『ベルサイユー!』が混ざっているのだ。
なんなら放送席からも、『ベルサイユッ!!勢いよくバーを運んでいます!』
なんて実況が。
「ベルサイユって何だ?」
涼太は知らないみたいだ。
逆に、二、三年はほとんどに認知されているようだ。
やはり、海先輩がもたらした影響は、彼らの学校生活を大きく変えるものだったのだろう。
今気づいたけど、海先輩の隣りにいるのは、陽菜乃先輩だな。
二人とも、意外と運動はできるようだ。
そして、勝敗は決する。
勝ったのはb組だった。もう少しだったのに。
◇◆◆◆◇
次は三年生の学年種目、『借り人競争』だ。
一人ずつリレー形式で走る。
バトンを渡された後、箱の中からお代の書かれたカードを引き、それに会う人物連れてくる。
よく知られたルールだ。至ってシンプル。
戦略については、まぁ……。言うなれば、体育祭の盛り上げ担当といったところか。
三年生と聞くと、生徒会長や、美緒先輩を思い浮かべる。
「私、三年生に知り合いいないんだよね」
山葵がつぶやいた。書道部の先輩は一人だけだったし、その人も二年生なのだろう。
「そうだったね。私は、三年生といえば遠藤先輩がいるな」
まさしく生徒会長のことだ。何処で知り合ったのだろうか。
そして、競技が始まる。
はじめの方は箱に入っている母数が多いからか、普遍的なお題がよく出る。
『メガネを掛けている人』とか、『理数系の人』とか。
お題を見たらすぐに走り出し、条件に合う人物を連れてくる。
単純なルールながらも、お題によって連れてくる人物は変わるし、その人物に対する印象なんかも図ることができるだろう。
本当に盛り上がるスポーツだ。広いグラウンドにはあちらこちらから声援が飛び交っている。
競技は中盤に差し掛かる。各クラスの残り人数は半分を切り、そろそろ奇想天外なカードも多く出る頃だろう。
『スマートウォッチをつけている人』、『テストの順位が一桁の人』など。
ちょっと進学校のそれが垣間見えるが、誰がカードを書いているのだろうか。
……あれは、美緒先輩か。何を引くのだろう。
『頼りになる人!』
実況のスピーカーからはそんなお題が聞こえた。
『頼りになる人』、か。難しいお題だな。
俺なら、誰を選ぶだろうか。
明は頼りになんかならない。母さんはよくできる人だが、頼りにはならない。早織先生は少し違う。なんだか、振り回されているような感じ。
今は選べない。あるいはもっと違う人だろうか。
美緒先輩は誰を選ぶのか。
引いてすぐには走り出さず、その場で考えてしまっている。俺もそうなってしまうだろう。
そして、決心したのか、応援席の方へ来た。
美緒先輩が手を引いているのは、海先輩だった。
少し意外にも思ったが、妙に納得してしまう。
部活でそこまで深くは関わっていないように思えたが、そうでもないのだろう。
少し経って、バトンは各クラスのアンカーに渡る。
アンカーの中には、生徒会長――遠藤秀――もいた。
彼が引いたのは『後輩』。
最終にもかかわらず、普遍的だ。
「渚、来るんじゃない?」
「いや、私が呼ばれることはないだろう」
そうか。秀先輩は渚と同じテニス部なのか。
秀先輩はカードを見て、一瞬の逡巡もなく走り出し、こちら側に走ってくる。
もしかすると本当に、
なんて考えていたが、彼が向かったのは二年生の応援席だった。
そこから、一人の男子生徒を連れ出し、走る。
「ほら、言った通りだろう」
俺は、その言葉に違和感を感じた。普段の渚なら、言わないようなことだと思ったのだ。
決着。勝者クラスはc組だ。
ふと渚の顔を覗くと、薄笑いを浮かべていた。納得したような、理解できたような、そんな表情だった。




