13話 文化部巡り
今日は会議の資料作成のために文化部を周って俺の案に対する賛否を聞き集めなければならない。
部活動の数は多いわけではないため、一時間もあれば終わるだろう。
まずは美術部か。美術室は三階なので階段を上がって向かう。
途中まで吹奏楽の華やかな音楽が聞こえていたが、静かな美術室の前まで来ると、ほとんど聞こえない。
ここに来る旨は伝えているので臆せずにノックして、入室する。
「柏さんですか? 話は聞いていますよ」
この人は確か、美術科担当の西垣先生だったか。
「はい。文化祭でも展示について意見をうかがいたのですが」
「勿論、賛成だよ」
奥から、一人の男子生徒がやってきた。部長だろうか。
「本当ですか。そしたら、この用紙にその旨を記述してほしいのですが」
「はいはい。ちょっとまってね」
アンケート用紙にサインと賛否を書き始める。
――賛成――。
「はい。期待しているよ」
「ありがとうございます」
まずは一つ目。
◇◆◆◆◇
次は、放送と新聞か。
しかし、活動場所も内容も異なるため、実質二つ分である。
先に新聞部の活動場所である、理科室へ向かうことにした。
なぜ理科室で活動しているのだろうか。
図書室の一階ですればいいのに。
「失礼します」
「ああ。君か」
なんだ、こいつか。
会議のときにいた然だ。
まあ、予想はできたけどさ。
「部長はいるか?」
「今は資料の確認をしている。戻って来たら書いてもらうから、後でまた来るんだな」
「わかった」
俺は然に用紙を渡し、理科室を後にする。
音楽室が近いからか、合奏の音がとても大きく感じる。
新聞部の立地悪くない?
放送室です。
「文化祭での展示について、新聞部にも書いてもらうのですが、一応、書いてもらいませんか?」
「聞いたよー。ベルサイユの再来だね」
そんなことをしているつもりはないし、それは海先輩の過失だろう。
「はい。どうぞ!」
――反対――、参加しない。
だろうな。
放送部にこんなことをする理由がないからな。
おそらく然が言っていたことも、放送部との合同なのだろう。
「ごめんね。僕らの部活は、企画力を持っているんだ。生徒会から引き継いだ、ね」
「いえ、この返事は予想できていましたよ。ありがとうございました」
部長は奥の方に戻っていった。
「お前、何してるんだ?」
同じクラスの高橋優希だ。
「何って、見てわかるだろう」
「見てわからないから聞いてるんだろ」
「そのうちわかるだろ」
まあいいや。
「おい、何だよ」
放送室の扉の向こうからは、そんな声が聞こえた。
◇◆◆◆◇
静かだな。パソコン部は。
「はい。頑張ってね」
淡薄か。
「ありがとうございます」
――賛成――、っと。
何するんだろうね。
? あいつは――
「苗守、か? パソコン部だったんだな」
所謂、おとなしいタイプの女子。だが、この学校ではおとなしいタイプはたくさんいる。
その中でも桜庭苗守は、クラスで一番。いや、学年でも一二を争うほどおとなしい女子だ。
「あ、柏さん。こんにちは……」
周りには聞こえないくらいの声で応えた。
「何してんだ?」
苗守のパソコンを覗く。黄色い背景に人の影が映っている画像だ。
「えっと、体育祭の、ポスターデザインを作っているんです……」
美術部のやつはさっき見たぞ。パソコン部でも作っているのか。
「美術部も作ってたよね」
「あ、それは、生徒会に提供するもので、私達のは新聞部に提供するものなんです……」
なるほど。同じものを使わないあたり、新聞部のやつらは結構生徒会を敵視しているのかな?
「いいじゃん。頑張って」
「はい。柏さんも、頑張ってください……」
よし。
次、次。
◇◆◆◆◇
ボードゲーム部は、
「あっ、めい! 遅かったね」
だよな。元気そうな葵が出迎えてくれた。
「ああ。後回しにしたからな」
ボードゲーム部の部室は一年生の教室の隣の空き教室だ。
「何でよ〜。あ、プリントもらうね。部長に渡してくるから」
葵は俺のファイルから用紙を奪っていった。
「葵と知り合いみたいだけど、誰だ?」
葵と一緒にいた女子に話しかけられた。
てか、こいつ。
「舞だよな。クラス一緒だろ?」
こいつは、まあ普通?
順位も確か低いわけではなかったような。
「名前を知っているのか。だが、私は君のことを知らないな」
嘘だろ。もう入学して二ヶ月も経ったんだが。
「柏だ」
「三位のか。覚えておこう」
三位で覚えられていた? 酷いな。
「舞もボドゲ部なのか?」
ここにいるってことはそうだろうと質問した。
「いや、今日は遊びに来ているだけだ。私は空手部だ。今日は休みだからな。チェスでもしようと思ったわけだ」
「ボドゲ部を遊びに使うのは辞めてほしいよね。ねぇ柏」
いや誰?
「すまないけど、名前を教えてくれないか?」
「初めまして。一年a組、姫野恵茉。よろしくね」
一年は何人くらい入ったんだろうか。ここにいるc組は葵と舞だけみたいだ。
「美春、柏くん来たよ」
恵茉が奥の机で上級生と向かい合っている女子を呼んだ。
美春って、あれ、だよな。
「あなたが柏明? 思っていたのより間抜け面なのね」
河崎美春――、この学校の入試で二位を取った。あの、河崎美春だよな。
「初めましてだな。美春」
「あら、初対面なのに下の名前を呼び捨てで? 馴れ馴れしいわね」
まあ、これは俺が悪い。
苗字で呼ぶのってなれないよね。
「敬意の表しだ。嫌なら苗字で呼ぶことにするよ」
都合のいい言い訳だな。
「そう。それじゃあ私も、めいと呼ぶことにするわ。よろしく」
ふぅ。
なんとか気圧されずに済んだ。威圧感強すぎだろ。
「はい。書いてもらったよ」
やっと葵が戻ってきた。
――賛成――。
この部活男子居ないのか?
◇◆◆◆◇
パシン、パシンと音を立てる教室。
柔道場だ。
扉を開けても誰も振り向かない。
『さびしさに やどを立ちいでて ながむれば いづくも同じ 秋の夕暮』
ラジカセから流れる音源が、手を叩く音につながる。
刹那の時間に、一瞬の勝敗が決まっていく。
「失礼します。一年c組の柏明です。文化祭について、部長に賛否をお聞きしたいのですが」
見とれていてはいけない。
「ごめんね。すぐ書くから、ちょっとまってて」
それにしても凄いレベルだな。
一字決まりくらいしか覚えていないから、俺なら瞬殺だろうな。
「どうぞ。頑張って」
――反対――。
まあ、何するんだって話だもんな。
◇◆◆◆◇
後二つ。
一つは読書部なので実質ラストだな。
「渚から聞いたよー。大変みたいじゃん」
そんなこと言ったか?
こいつは本庄山葵。よく、渚と話しているのを見る。
「部長、めい来たよー」
「はーい。今から書くね」
かるた部とは随分違った雰囲気だな。たったの四人だから、部長以外は全員一年か。
先生もいないみたいだし。
「できた。はい」
受け取りました。
――賛成――。
まあ、普通に半紙飾るだけでもいいもんな。
「じゃあ、頑張ってね。また明日」
「ああ。また明日」
◇◆◆◆◇
「あ、お疲れ様」
図書室に入ると、美緒先輩がねぎらってくれた。
本当に疲れているのだから驚きだね。
「美緒先輩も一応書いてもらえませんか?」
最後の一枚を手渡した。
「いいよ」
「僕は新聞部に行ってくるので、書いておいてくれると助かります」
「はい。頑張って」
図書室を出て、再び理科室へ向かう。
「やっと戻ってきたか」
「意外と苦労したんだよ」
それに書かれていたのは以外なものだった。
――賛成――。
てっきり、放送部と同じで反対かと。
「何するんだよ」
「号外を作るのさ。とびきり豪華な、な」
なるほど。パソコン部が作っていたものも関係するのかもしれない。
「失礼するよ」
無事に終わった。
◇◆◆◆◇
無事に図書室に戻ってこれた。少しほっとする。
「どうぞ」
こちらも、――賛成――。
だが、何を?
「何をするつもりなんですか?」
「うーん。あんまり考えてないけど、本の紹介とか?」
なるほど。それならまあ。
すると、明が図書室にやってきた。
「何処に行ってたんだ?」
「思っていたのより間抜け面なのね」
「聞かれていたのか……」
いつからいたのだろうか。少なくとも、ボードゲーム部の後からはつけられていたのだろう。
「やあ。終わったのか」
本棚から、海先輩が顔を出した。
「ええ。賛成多数ですので、無事に進みそうです」
「良かったね。次の会議、楽しみにしてるよ」
やっぱり陽菜乃先輩が味方なのは心強い。
「そうですね。次の会議には参加しないのですか?」
「うん。先輩、風邪治ったみたいだし。ごめんね」
謝らなくても。
「大丈夫です。先生と僕だけでもなんとかなります」
そのための意見調査だ。活かさなくてどうする。
明後日の会議の為に、資料をまとめなければならない。




