11話 爪痕
「さあ、始めようか」
生徒会長のその言葉で、その場の雰囲気がより一層引き締まった。
「それでは、一年生の方から」
俺が先に話したほうがいいのか? こういうのは初めてでよくわからないのだが。
隣のやつは始めそうな雰囲気では無かったので、俺が先に始めることにした。
「僕からは、『文化祭で文化部の展示、披露』について説明いたします」
今になって、やはり早織先生の誘いを無理にでも断ればよかったと、考えてしまう。
なんだか、思っていたのと違う、そんな学校生活を送っている。
母さんが聞いたら驚くだろうか。いや、俺の不憫な生活を笑うだろうな。
「まず、校則に記載されている文化祭の定義ですが、『文化祭とは、文化部の日頃の活動を一つにし、発表する場。故に半端な発表は認められない』とあります。僕が提案するのは、文化部の小規模な展示、あるいは披露ですので、発表ではなく、校則には抵触しないと考えます」
軽く説明したが、俺の説明の下手さが目立つな。
「へぇ。ということは、今年も、古川先生の差し金ってことですか」
すぐに会長が口を開いた。早織先生に顔を向ける。
「あ、やっぱバレた?」
会議の口調じゃないでしょう? 慣れているのか、適当なのか。
「バレるも何も、去年残した爪痕は大きかったですからね」
うーん、ダメそう。恨まれているんじゃないか?
「あはは。でも、今回は勝ちに来たよ」
すっごい砕けてる。勝つも負けるもないだろうが。
「説明を続けてください」
あ、司会の人ありがとう。このままだと早織先生が暴走しかねない。
「つまり、本命の発表の前や合間に、観覧できるような、小規模なブースを各文化部に作ってもらい、そこで展示や披露をしてもらうということです」
簡潔に進めないと時間も大変だろうから、できるだけ手短に。
「なるほど。高等部の模擬店のようなスタイルでということか」
そうなんだ……?
「まあ、今日は資料がないみたいだし、次回以降検討をしよう。柏くんは各部活に賛否のアンケートとってきて。皆さんもそれでよろしいですよね?」
意外と好感触か?
周りからも異議は出なかった。次回に期待。
「それでは、次は僕の案を」
隣の――小柳然が話し始める。
「どうぞ」
司会はもっと頑張れ。
「僕の案、というよりは、新聞部の案ですが。さっき柏さんの話にも上がった通り、生半可な発表は通せないということでしたので、新聞部の高品質の発表を行いたいと思います」
ああ、やっぱり、俺より説明がうまいよ。
「自信があるんだな」
「ええ、最近まで生徒会の傘下でしたので」
議論にも強いクチか。敵わないな。
「そりゃそうだ」
会長は苦い表情をしているけど……。
新聞部って確か……、今年から新たにできた部活だったよな? 放送部もそうだけど。
早織先生は去年、生徒会に大きな爪痕を残したみたいで、その後新聞部と放送部ができたんだよな。
つまり、早織先生が起こした出来事によって、新聞部と放送部が生徒会の傘下を脱したってことか?
勿論、推測の域を出ないわけだが……。
「詳細はまだ未定ですが、予定では、文化祭までに学校で起こった出来事、事件などをニュース風に面白おかしく紹介する、らしいです」
なるほど。俺達の案とは違うアプローチの仕方なわけか。
「わかった。それもまた次回以降だな」
これも好感触。やはり校則の弊害が出ているのでは?
これにも反対意見は出なかったので、一年生の意見は概ね通ったようだ。
その後、二年生、三年生と意見の提案が進んだが、どれも詳細の部分の変更やタイムスケジュールの変更が多く、一年生の二つの案が進まないと決定できないということで、それらも次回以降に回されることとなった。
◇◆◆◆◇
まあ、無事に会議は終わった。
意外とあっさりしていて助かった。
「どうだった?」
「案外好感触でした」
「まあ、去年のおかげかな」
やっぱりそうなんだ。
「去年はどうしたんですか?」
単純に気になる。今のところうまくいきそうだし。
「君、確か読書部だったよね。海はよく知ってるはずだよ」
海先輩が? 生徒会にいたのか?
「わかりました。聞いてみます」
そうして、俺は会議室を後にした。
◇◆◆◆◇
「終わったんだ」
図書室に入ると、いつものメンバーがいた。あまり変わらない様子で明が声をかけてくる。
「ああ」
「お疲れ様」
「表情を見ると、悪くは無かったようだね」
明は勉強をしていたけど、二人の先輩はしっかり本を読んでいた。
「会議の際に聞いたんですが、海先輩、去年の生徒会で早織先生が残した爪痕って……」
「何だ。知っているのかと思っていたよ」
それはどうだろう。まだ入学して二ヶ月なのだが。
「その様子だと、早織先生には素直に聞かされなかったようだね」
「はい。海先輩に聞いたらわかると言われたので」
「確かに言いそうだ。去年の私は、君と同じ立場だったんだよ」
海先輩が言い放ったその言葉は、俺の予想もしていなかったことだった。




