第3部3話 守ると決めた日ー再び、総統室へー
ある日の朝。
「いってきまーす!」
元気に結が奏と家を出る。
いつも通りのはずの結に蓮は、ほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
「……結」
呼び止めようとして、やめた。
理由は分からない
でも“何か変”と蓮の直感だった。
蓮は屋敷の中に戻ると陽葵に声を掛けた。
「結、なんかあった?友達と喧嘩…とか...?」
感じた違和感の正体が分からずモヤモヤする蓮
「うーん…?あ、先週かな、みんながスマホ持ってるのに結は子供スマホだから、からかわれたって」
なんだ…子供同士の些細な事か…。
俺は今日は抜けられない仕事があるし…。
奏が戻ったら頼もう。
—でも、この胸のざわつきはなんだろう?
学校の中庭でいつものように友達と遊んでる結。
今日はドッチボールをしていた。
結の元へボールが飛んできた。
「危ない!」
一瞬、ぼーとしていた結。
友達の声にハッとした瞬間。
結とボールの間の空間が歪んだ。
ボールが、結に向かう途中で破けてしまった。
「……あれ?」
何が起きたのだろう?
結は破けたボールを不思議そうに見た。
友達が「すごーい!今のなに?」と言うと
結は少し考えて笑って「わかんない。でも、できた」と答えた。
放課後。
結は少しだけ遅れると連絡のあった奏の迎えを待っていた。
そんな時また、あの不気味な声の男が現れた。
「楽しかったでしょう?」
結は特に警戒をする事もなく「うん」と答えた。
「凄いんだよ!ボールが破けちゃった!」
男は不気味な笑みを結に向けた。
「それが“力”です」
「壊す力」
結はよく分からず首を傾げた。
「壊す?」
「守るより、簡単でしょう?」
男はそう言うと、また消えていた。
その時、奏の車が見えた。
「遅くなりました」
「何してたの〜?」
と、結は何事もなかったように車に乗り込んだ。
「結さんのスマホ買ってました」
と、奏は笑った。
「やったー!」
と結もいつものように笑い、車は家へと帰路を進んだ。
家族の穏やかな夕食の時間だった。
陽葵はふと、結の箸が止まっている事に気がついた。
「……結?」
結は、ぼーっとして返事をしない。
「どうしたの?」
その時だ。
結の前にある皿がパキッ。と音を立てた。
ヒビが入っている。
「……え?」
陽葵は突然の事に驚いた。
その瞬間、蓮はバッと立ち上がった。
今のは普通じゃない。
と、蓮の直感が叫んだ。
今朝、感じた違和感、胸のざわつきの正体。
「結……!」
蓮は結の目を見た。
虚ろで光を失っている。
でも、それは一瞬で、すぐに光が戻った。
「……なに?」
蓮は言葉を失った。
結はどうしたの?と笑っている。
「…奏、結の傍離れんなよ」
蓮は結を見ながら奏に命じる。
「わかってます」
こういう時は奏はちゃんとやってくれる奴だ。
俺はすぐに自分のスマホを取り出し、電話を掛け始めた。
—「…はい。すぐに行きます」
電話を終えると再び結に視線を戻す蓮。
見つめる先の結の瞳は少し揺れている。
「陽葵、俺、天音さんの所に行ってくるから」
陽葵にそう告げると蓮はジャケットを羽織り
あっという間に出ていってしまった。
「…パパ、怒ってた?」
ポツリと結が呟いた。
「怒ってなんかないよ、ただ驚いただけだよ」
不安そうにする結を安心させようと陽葵が優しく囁く。
結のこれは…壊す力なのだろうか?
でも、蒼真がいなくなって私の力は消えて、結には受け継がれないと思っていたのに…。
—どうして?
結誓連盟 屋敷内
ここに来るのは久しぶりだ。
連盟を離席してからもう9年。
9年振りに足を踏み入れる。
受付係へ声をかけると、すでに総統室へ向かって良いと許可が出されていた。
–コンコン。
「失礼します」
一礼し部屋へ入る。
懐かしい…。
この部屋は、この部屋の凛とした空気はなんにも変わってない。
「蓮、久しぶりだね」
天音さんだ。
昔と変わらない…。
こうして陽葵の時も報告に来たな…。
また、この場所に来る事になるなんてな。
「とりあえず座れ。お前はお客様の立場なんだから」
橘さんに促されるが俺は座る事は遠慮した。
俺にとって天音さんと橘さんはずっと上司だ。
ここまで育ててくれたのは2人だ。
「…橘さんにはお電話で話しましたが…結に…娘に力が発現しました。でもあれは…壊す力だと思います。…天音さん、蒼真が居なくなって、陽葵の力も消えて、結には継承されないはずじゃ…」
天音さんは目を細め、手にしていた古い本を俺に差し出した。
「これは…?」
「力、に関する文献です。私も若い頃に読んだきりだったので、読み返してみたんですが…」
天音さんは目を閉じた。
「力の継承者である、神代家は制御の役割を担う。その存在が滅べば、力は無くなる…」
「私は力は使い方で守りと破壊になる。だが、もしも蒼真が守る力のみの制御だったとしたなら、壊す力が残されていても不思議じゃない…」
総統室に沈黙が流れた。
—力を無くすために、
陽葵を守る為に限界を越えた蒼真はどうなる。
蓮はそう思ってしまった。
天音もそう思ったのだろう。
最初に口を開いたのは、橘さんだった。
「…だからって、守らねぇのか?」
橘さんの力強い声が響く。
蓮はハッとした。
そうだ…今は過去の事を考えてる場合じゃない。
「いえ、守ります」
連絡は迷いなく、橘を見つめて答えた。
橘さんは頷く。
「だが、ちからの発現が早すぎる。何者かが発現を誘発したと思っていい。本来は15歳以上で発現するはずです」
天音が口を開いた。
そう…力の発現は15歳程度と言われている。
その事から、見習所の入所も15歳と規定されている。
「…黒影を覚えていますか?」
「はい」
勿論だ。
陽葵の専属執事となり、戦った相手だ。
元は連盟ナンバー2の実力者…。
「奴は影楼と組織名を名乗った。…私の見通す力でも、あの時から影楼という組織を探し続け、監察部隊でも探し続けたが見つけられず、黒影の死で崩壊したと結論付けしました」
天音さんは少し俯くと、なかなか口を開けずにいた。
変わりに橘さんが続けた。
「その影楼が…今もまだ存在していたとしたら、影楼が再び動き出した。と言うことだろう」
また、沈黙だ。
天音さんは自分の調査不足を嘆いているんだ。
蓮は少し息を吐くと2人をしっかりと見て話した。
「だとしても、答えはシンプルです。敵が何であろうと守る。…俺は、結も陽葵も守りますよ」
強い眼差しだった。
天音さんも橘さんも少し安心したような顔をした。
お前はそうだよな。と言ってくれているような顔だ。
その顔を見届け、俺は一礼して総統室を後にした。
—蓮が去った総統室。
天音と橘は2人で話していた。
「蓮は大丈夫ですね」
「あいつは強いですよ」
「親代りの橘が言うなら、心配いらないね」
ふっと天音が笑う。
「…蒼真の時も自分で乗り越えた。そんな蓮だ、自分の嫁も娘も守る。不器用で言葉足らずなのは変わりませんが、大人になった」
橘も笑う。
「そうだね。…私達は私達の仕事をしよう。葛城に影楼について調査を再開するように伝えてくれ」
「分かりました。一ノ瀬邸の警備も固めましょう」
橘はそれだけ言うと、総統室を後にした。
1人残った天音は机の上に置かれた1個の写真立てを見つめた。
「…蒼真、蓮の覚悟を見ててやれよ」
—守りたいものを守る。
蓮の決意が燦然と輝く。




