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第3部2話 翳りゆく日常

—あれから数年。


庭では陽葵が花壇へ水やりをし、結は奏と走り回って遊んでいる。

蓮は眩しい夏の太陽の光に目を細めていた。


「蓮?」

陽葵だ。

何してるの?と俺の隣に座る。


「なんにも」

平和な日々だ。

ゆったりと毎日が過ぎていく。


「嘘。蒼真の事を思い出してる顔してた」

陽葵が微笑む。

「悲しい思い出じゃないよ」

フッと俺は笑った。

「…いつかさ、結にも蒼真の事、話したいんだ」

一拍、陽葵は間をおいて口を開いた。

「あなたを守って、育てて来た人はもう1人いるんだよって」

「…うん」

あいつは俺たち2人の心の中に確かに生き続けている。


でも、時々無性に寂しくなる。

未だにあの頃の夢を見る。


—「…任せた」


穏やかな、微笑みで呟く蒼真の顔だ。


陽葵と結婚して、結が産まれて…。

なんでもない毎日を過ごしたけど、つまんねぇなぁ。

訓練生時代のあいつのイタズラに巻き込まれて、

任務を2人でこなして、陽葵と出会って…。


なぁ、蒼真。

俺はちゃんと出来てるか?


あれから何度か敵が進行してくる事はあった。

だが、陽葵の力が再び出現する事はなかった。

天音さんも、何も見る事ができなくなったという。

蒼真の死により、力は制御され、失われたんだろう。



「蓮さーん、陽葵さーん」

奏が遠くから俺たちを呼ぶ。

結が手を振っている。


「パパー!ママー!」

弾けた笑顔の陽葵だ。

一緒に鬼ごっこしよー!と言っているようだ。


「やるか」

俺はスっと立ち上がると、結の元へと走った。







光の届かない部屋で影は笑っていた。


「面白い…娘に、か」

影は部下からの報告を受けるとくくっと不気味に笑った。


「時は来た。全勢力を持って、一ノ瀬結を我が手中に収める」


「抵抗勢力、結誓連盟所属、沖田奏、並びに一ノ瀬蓮、陽葵の両名も確実に排除する」


冷たい声で、影は部下達に命令を下した。


部下達の去った部屋で影は古ぼけた写真を引き出しから取り出し、少しだけ見るとすぐにしまった。




「…お前達の信じた守るってのが夢だと思い知らせてやるよ」


「俺は…壊す。ただそれだけだ」


「あいつの無念のために」







結と全力で遊んだ翌日。

蓮は筋肉痛に襲われていた。


「でも、翌日なら若いって事だよね〜、まだ」

陽葵は半ば呆れている。

結も8歳になった。

結が生まれたのは21歳の時だから…

俺ももう29歳…三十路と呼ばれる年か。

「…俺、筋トレしてくるわ」

ここ数年は陽葵の父親から譲り受けた一ノ瀬家の仕事で忙しく少し怠けていた。

こんな事じゃ、あいつに笑われちまう。


「真面目なんだから〜」

と陽葵は笑った。



—蓮はよく、空を見つめるようになった。

まるで、蒼真と会話をするかのように。


執事という立場でもなく、一ノ瀬家の当主となったのに仕事をしながら庭の手入れをしてくれる。

私のお気に入りで、蒼真がいつも手入れをしてくれていた場所だからかな。

私が蒼真の髪の色が好きだったのを知って、蒼真に庭を任せていたのは何も言わないけど知っている。


庭に出れば蒼真が、そこに居るような…そんな気がしているんだろう。

蒼真がよく寝ていたベンチに腰掛けている事も多い。

昔は外には必要以上出てこず、家の中の仕事をしていた蓮なのに。


「不器用で、本当に昔からなんにも変わらないなぁ…」

蓮は言葉に出さない変わりに、いつも行動で示してくれる。

筋トレもこんな自分じゃ、私も結も守れない!って変に真面目に考えたんだろうなぁ。


「戻りました〜」

奏くんが結を学校に送り届け、戻ってきた。


「あれ?旦那は居ないんですか?今日はオフでしたよね」

キョロキョロと奏くんが蓮を探す。


「今ね、筋トレしてくるって」

ははっと笑いながら私は答えた。


「相変わらず、クソ真面目ですねぇ~」

と、奏くんもニヤニヤ笑う。


奏くんはスっとキッチンへ向かうと私へアイスティーを出してくれた。

冷たくて、美味しい。


「あの…陽葵さん…」

深刻そうな奏くんの声。

「どうしたの?」

私は少し崩した姿勢を正した。


「…結さんの周辺に怪しい動きが見られます。俺としては、警備を強化して、学校でも付き添いしたいくらいです」

真っ直ぐに私の目を見ながら奏くんは話す。


「ただ、お2人からの意向もありますから、独断で行動は出来ないと俺もわかってます。…陽葵さん、警備強化、お許し頂けませんか?」


結には普通の学校生活を送ってもらいたいと思い、学校では1人で過ごしている。

これは私の幼少期に過保護に育てられた経験から。

結には当たり前の普通の日常で過ごして欲しい。

蓮は猛反対して、納得させるのが一苦労だった。

それでも、私のようにはなって欲しくなかった。


「…怪しいってだけなんだよね?」

本来なら蓮にも話すべきだけど…。

今すぐ、自分が学校へ警護に行くといいかねない。

私は少し考えてから口を開いた。


「やっぱり、結には普通に過ごして欲しいの。このままでお願い。ただ、明らかに可笑しいと判断したら、奏くんの独断でも行動してちょうだい」

(本当に、それでいいの?)


「…分かりました」

やや不満そうにしながら奏くんは承諾してくれた。


「ぁ、旦那には伝えても答え分かってるんで、別に言いませんよ?っていうか、あの人、今すぐ自分が飛んでくだろうし」

さすが奏くん、蓮の事をよく分かってくれてる。


「じゃ、旦那の筋トレ見学してきますわ」

ニヤニヤしながら、奏くんは蓮の元へ向かう。


「イタズラも、程々にね~」

昔から奏くんは蓮にちょっかいを出す。

蓮が言うには訓練生時代に蒼真と奏くんは悪名高きイタズラ犯だったとか…。

そのイタズラに蓮も巻き込まれて、何故か一緒に怒られていたと言っていた。

大人になっても何も変わらないんだなぁ…。



数分後。


「おい、コラ!奏ー!」


「旦那、筋肉は変わらず。天音さんと橘さんに報告しましたよ~」


「人の体を拡散すんなー!!お前はいい加減、大人になれや!」


そういう自分も子供じゃないと陽葵は思うのだった。






学校の中庭に私はいた。

昼食後はいつも中庭で過ごしている。


この中庭が…お家の庭に少し雰囲気が似ているからかな?


夏の太陽がギラギラ輝いている。

毎日暑いけど、嫌じゃない。


「一ノ瀬結さんですね?」


聞いた事のない、男の人の声が耳に届いた。

感情を感じない…不気味な声。


「私はあなたの力を知っている」


「両親があなたに隠している秘密の力、知りたくないですか?」


「…力?」

そう呟いた瞬間、

胸の奥が、ドクンと鳴った。

知らないはずなのに、

なぜか——

懐かしい気がした。


「それって...!ぇ、居ない?」

質問しようとしたのその男の人は既に消えていた。

幻かと思うほどだった。


パパとママが隠してる私の力?


さっきまであんなにギラギラしていた太陽は

雲で陰り、眩しさを失っていた。


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