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第3部11話 黒瀬蓮と申します


蓮は倒れこむ陽葵へ駆け寄りながら名前を呼び続けた。

すると、陽葵がゆっくりと目を開けた。

「……陽葵!!」

陽葵ほんの少しだけ、眉をひそめた。


「……誰?」


時間が、止まった。


「……は?」


かすれた声が、漏れる。


陽葵は、そのままゆっくりと周囲を見渡した。

「……結」

その名前を見つけた瞬間、表情が柔らぐ。

「ママ……!」

結が駆け寄り、陽葵に抱きついた。

陽葵は優しく、その頭を撫でる。

「よかった……」

安堵したように、小さく笑う。

その光景を、蓮はただ見ていた。


奏が、そっと近づく。

「……陽葵さん」

奏の声に陽葵は顔を上げる。

「……奏くん?」


そのまま、ゆっくりと——蓮へ視線を向けた。

一瞬の、沈黙が流れた。

「……あなた、誰ですか?」


世界が、崩れた。

蓮の喉が、音を立てる。


「……俺、は……」


言葉が、出ない。


足元が、ぐらつく。


それでも、蓮は陽葵から目を逸らせなかった。


陽葵は、少し困ったように首を傾げ

「……ごめんなさい、驚かせてしまって」

少し困ったように、陽葵は笑った。


その一言で、すべてが終わった。

誰も、何も言えない。

結だけが、陽葵にしがみついている。

蓮は、立ち尽くしたまま拳を握りしめた。

だが—その拳に力は入らずただ、震えているだけだった。


(……守った、はずだろ)


(……なのに、なんでだよ……)


蓮は、立ち尽くしたまま一歩も動けなかった。

いやーーー動けなかった。


その問いに、答える者はいない。


静寂だけが、その場を支配していた。


静寂が、続いていた。

誰も、何も言わずに時間だけが過ぎていく。


陽葵は結を抱きしめたまま、優しく微笑んでいる。

その少し後ろで——

蓮は、ただ立っていた。

動けないのではない。

動かなかった。


蓮は自分の腕へと視線を、落とした。

震えていた拳は、いつの間にか静かになっていた。

(…守った、はずなのに…)

これは…代償なのか?

だがその答えは、どこにもない。


蓮は、ゆっくりと息を吐いた。

そして——顔を上げた。

その瞳に、迷いはなかった。


「……お嬢様」


その呼び方は、かつてのものではない。


「何か御用がございましたら、お呼びください」


距離を、置く。

自ら、引く。

それが——


「……私は、あなた様の執事、黒瀬蓮と申します」


選んだ答えだった。

奏は目を大きく見開き、蓮に詰め寄ろうとしたが、出来なかった。

蓮は悲しむでもなく、怒るでもなく、ただ陽葵を見つめて優しく微笑んでいた。


「……っ」

奏は強く拳を握りしめると自分の頭を殴りつけていた。


―俺は、なんて無力なんだ。



だが——


陽葵は、その奏の行動の意味を知らない。

ただ、少しだけ不思議そうに奏を見てから

蓮を見つめた。


蓮は優しい微笑みのまま目を逸らさなかった。



もう——

戻らないと、決めたから。


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