第九十ハ話:焦土の退却(リトリート)と、亡霊の軍勢
第九十ハ話:焦土の退却と、亡霊の軍勢
静寂を切り裂き、本殿の『白玉』が激しく明滅した。映し出されたのは、ノイズまみれのサグネー議長の悲痛な姿だった。
「……ショータ殿! セントケベックは……陥落しました! 蒼い桔梗の旗印を掲げた軍勢に、抗う術もなく……っ!」
議長の背後では、街が炎に包まれていた。だが、真の恐怖はその後に続いた。
「信じられん……亡くなった街の人々の骸が動き出し、奴らの軍勢に吸収されている……! 生存者を連れて、帝国へ亡命します! どうか、道を……っ!」
プツリと通信が途切れる。ショータは即座に現世の「広域災害シミュレーション」を脳内で走らせた。
「リリィ! すぐにバドへ繋げ! 帝国とセントケベックの間にある村々の避難勧告、それから国境の封鎖準備だ。……一刻を争うぞ」
ショータの顔に、かつてない険しさが走る。
セントケベックから帝国へのルートには、いくつもの小さな村や街が点在している。それらすべてを「卒なく(そつなく)」守り抜くには、今の社の戦力だけではあまりにリソースが足りない。さらに、この混乱に乗じて魔王軍が動くリスクも無視できない。
「……過去の亡霊の、国取りの夢物語。……それをこの異世界で、それも『死者』を使って続けさせるなんて……、最悪の不適切(コンプライアンス違反)だ」
ショータはキーボードを叩き、アーシェ、キキョウ、ベリさんたちを呼び集めた。
「……作戦を変更する。北への再遠征じゃない。……これは、『生存者救出と遅滞戦闘』だ」
キキョウが蒼白な顔で立ち上がる。かつての主君が、死者を兵に変える外法に手を染めている。その事実が、彼女の影をより濃く、重くさせていた。
「……あぁ。……光秀様。……貴方は、どこまで堕ちれば気が済むのですか」
「死の行軍」という未曾有の経営破綻に直面したショータ。
社の聖域を空けられぬ中、ショータは「遠隔自動防衛」の設置と、帝国軍の「即応体制」を同時にプロデュースする極限の舵取りを開始した。




