第九十七話:桔梗の忍びと、幾度目の「死」
第九十七話:桔梗の忍びと、幾度目の「死」
静まり返った会議室。ショータが告げた「明智光秀」という名が、キキョウの魂の底に眠っていた澱を激しくかき乱した。
「……明智、光秀様。……そう、天海と名乗っていたが、間違いない。……思い出した」
キキョウは震える手で自身の面をなぞり、絞り出すように語り始めた。その瞳には、現世の戦国時代――血と硝煙にまみれた過去の情景が映し出されていた。
「私は光秀様の『草(忍び)』として、幼少期より飼われていた。……光秀様の野望のため、敵対する数々の敵将の首を取り、影として生きてきた。……けれど、光秀様は主君を裏切り、謀反人として討たれた。その戦で、私も共に命を落としたはず……」
キキョウの独白は、ショータですら予期せぬ「死後の迷走」へと続いていく。
「闇に堕ちた我らは、別の異界でかつての主君――そう、光秀様が討ち取られた『第六天魔王』の元、再起を図った。けれど、そこでも光秀様は、またしても第六天魔王やその異界の者らに打ち破られた。……爆炎の中、私は次元の狭間に放り出され、気づけば記憶を失い、この世界の九尾に拾われていた……」
ショータはノートPCをパタンと閉じ、沈痛な面持ちでキキョウを見つめた。
(……なるほどな。単なる転生者じゃない。現世から異界へ、そしてそこからも『不採用』されてこの世界に流れ着いた、筋金入りの「ロスト・データ」か)
光秀がかつて別の異界で「巨大な髑髏を操る姫」と「異界の天狐」と戦ったと言っていたのは、その時のことだったのだ。
「……。キキョウ、辛いならそこまででいい。……今の主は九尾でも光秀でもない。この社のプロデューサー、俺だ」
ショータは現世の「メンタルケア(産業カウンセリング)」のトーンで、キキョウの肩を卒なく(そつなく)叩いた。
「過去の契約(雇用関係)がどうあれ、今の君はうちの『正一位』のスタッフだ。……明智光秀が三度目の正直でこの世界を狙うっていうなら、俺は『コンプライアンス違反』として全力で叩き出す。……いいな?」
「……。あぁ。……忝い、ショータ」
卒なく、しかし今や「歴史の亡霊」を相手に、現代のガバナンスを突きつける決意を固めたショータ。
キキョウの過去を精算し、火縄の三連射を上回る「現代戦術」の構築が、いよいよ本格化した。




