第九十六話:帰還の狼煙と、裏切りの紋章(エンブレム)
第九十六話:帰還の狼煙と、裏切りの紋章
北の小国セントケベック。救護所の献身的な治療と、アーシェの不眠不休の看病が功を奏し、ガイは自力で歩けるまでに回復を遂げていた。
「……すまない、アーシェ。私の不覚で、遠征を滞らせてしまった」
「いいのです、ガイ殿。貴方が生きていてくだされば、それだけで」
二人の絆は、死線を越えたことでより強固なものとなっていた。
一方、あの夜の失態を猛省したベリさんは、文字通り「酒を断ち」、眼光鋭く帝国騎士団と共に昼夜の警護に当たっていた。
「……ベリ殿、そんなに殺気立たなくても、もう敵は引き上げましたよ」
「……黙れ。塵一つ通さぬのが、清掃員の務めだ」
そのストイックな仕事ぶりに、アーシェも「これならもう心配ありませんわね」と、微かに微笑みを漏らした。
やがてガイの容態が安定すると、帰還を開始した。
半月後。先行していたローレライ、キキョウ、モリグナー三姉妹が天狐の社に辿り着き、さらに数日後、帝国騎士団と別れたアーシェとベリさんも無事に帰還。
全メンバーが揃ったところで、ショータは会議室に重苦しい空気を纏って現れた。
「……よし。全員の無事を確認した。……さて、北で遭遇したあの『謎の軍団』について、俺なりの仮説を話すぞ」
ショータはノートPCを開き、現世の歴史資料とキキョウの記憶から抽出したデータを、ホワイトボードに卒なく(そつなく)書き出していく。
「……敵のリーダー、蒼い花の羽織を着た僧侶。あれは恐らく、現世の歴史において『第六天魔王』を自称し、天下を武力で平らげようとした覇王・織田信長。その最も優秀な家臣でありながら、最後に彼を討った男……明智光秀だ」
静まり返る会議室。キキョウが「……明智、光秀……」とその名を反芻し、頭を押さえる。
「あいつらの武器『火縄銃』は、かつての戦国時代のパワーバランスを一夜にして変えた、いわば『時代のバグ』だ。……問題は、なぜそれがあのクレーターに集結し、この異世界を侵食し始めたのか、ということだ」
ショータの瞳には、かつてないほど鋭い「プロデューサー」としての闘志が宿っていた。
「自らの世界の歴史」が牙を剥いて襲いかかってくるという、未曾有の事態。
「……向こうが『戦国』で来るなら、こっちは『現代』で叩き潰すまでだ。……リリィ、大介に連絡しろ。……『防弾盾』と『ドローン』、至急で手配だ」




