第九十四話:白銀の帰還と、天つ狐の極光(オーロラ)
第九十四話:白銀の帰還と、天つ狐の極光
漆黒の闇を、三段に並んだ火縄銃の火皿が赤く照らし出した。
中心に立つのは、「蒼い桔梗」の羽織を纏った僧侶。その隣には漆黒の鎧武者、そして不気味な魔力を放ちながら杖を突く老人が、冷徹に宿舎を見据えている。
「――貴殿らの将の首、貰い受ける!」
僧侶の鋭い号令。「ひ、ふ、みッ!」の合図と共に、第一列の銃口から死の礫が一斉に放たれた。
千鳥足のベリさんと無防備な騎士団。絶体絶命のその瞬間――。
――ドォォォォンッ!!
ベリさんたちの目の前、街道の重厚な石畳が、凄まじい衝撃波と共に「垂直」に跳ね上がり、鉄の礫を正面から叩き落とした。
「なっ……石壁だと!?」
「……いや、これは『剣気』か!」
砕け散る石煙の向こうから、白銀の甲冑を纏った騎士が、大気を切り裂いて着地した。
「……間に合いましたわ! ガイ殿を置いて、私だけ安らぐなど、騎士の誇りが許しません!」
アーシェだ。社の帰路で胸騒ぎを感じ、ショータに無断で超高速で引き返してきた彼女の渾身の抜刀が、街道そのものを盾に変えたのだ。
「……助かった、のか? アーシェ殿……面目ない……」
「ベリさん、お酒の匂いがしますわよ! 説教は後ですわ、次が来ます!」
僧侶が忌々しげに舌打ちし、杖の老人へ合図を送る。老人が地を叩くと、闇の中から数千の「幻の足軽兵」が這い出し、咆哮と共に突撃を開始した。
『――コン、今だ! リモート・バースト、承認!』
白玉を通じてショータの指示が飛ぶ。社に残ったコンが、遠く北の空を見据え、その扇を天空へと掲げた。
「我が社の領域を侵す者へ、正一位の洗礼を与えるのだ! ――天つ狐のオーロラエクスキュージョンッ!!」
セントケベックの夜空が、突如として極彩色のカーテンに覆われた。その光の中から、無数の実体化した白狐たちが流星のごとく降り注ぐ。
白狐たちの清浄な光は、老人が放った「幻の兵士」たちを、触れる端から塵へと霧散させていった。
「……な、……馬鹿な。我が幻影術が、これほど容易く……!?」
杖の老人が驚愕に目を見開く。
「……よし。ベリさん、目が覚めたか? アーシェが作った『石のバリケード』を有効活用しろ」
ショータの冷徹な声が響く。
「数千キロを越えた連携」で敵の初手を完封したショータ。
火縄の三段撃ちと、軍師のような老人の策略。それに対し、天狐の社は「物理の剣気」と「神の極光」で、反撃の狼煙を上げた。




