第九十一話:火縄の閃光と、戦国(せんごく)の記憶
第九十一話:火縄の閃光と、戦国の記憶
セントケベックのホテルの寝室。外は激しい吹雪が窓を叩いている。
ベッドに横たわるキキョウを囲み、アーシェ、ローレライ、そしてモリガンが精神連結の儀式を開始した。かつてショータを虚無から救い出したあの手法に、ローレライの膨大な魔力を重ね、キキョウの魂の深淵へと潜り込む。
「……行くわよ。キキョウの『影』の奥へ……!」
モリガンの意識が反転し、キキョウの深層心理へとダイブした。
「――放てーーッ!!」
――タタタターンッ!!
モリガンの視界に飛び込んできたのは、見たこともない異形の戦場だった。
兵士たちは重厚なプレートアーマーではなく、竹や革で編まれた「質素な鎧(具足)」を纏い、泥にまみれて叫んでいる。
だが、指揮を執る将だけは、見事な彫金の施された「立派な鎧兜」に身を包み、采配を振るっていた。
耳元を裂くのは、ガイを負傷させたあの忌まわしい破裂音。
剣が届く距離ではない。魔法の詠唱も聞こえない。なのに、前進する兵たちが次々と見えない力に弾かれ、絶命していく。異世界の戦術とは根本から異なる、死の効率。
その硝煙の渦中に、彼女はいた。
若き日の、しかし今より冷徹な眼光を宿したキキョウだ。
彼女は細く長い「鉄の筒」を肩に預け、指揮官の命が下ると同時に、迷いなく引き金を引き、火花を散らす。
キキョウ目掛けて突進してきた敵の兵士が、ガイと同じように胸を撃ち抜かれ、物理法則を無視した勢いで後方へ吹き飛んだ。
「……な、なにこれ……。魔法じゃないのに、あんなに遠くの命を……っ!」
余りにも「未知」で凄惨な戦場の熱量。モリガンの精神が恐怖で焼き切れ、意識を失いかけたその瞬間――。
「――モリガン様! 戻りなさい!」
現実世界から響くローレライの鋭い声。その魔力の波動に弾き出されるように、モリガンとキキョウが同時にガバリと跳ね起きた。
「はぁ……はぁ……っ、ショータさん……っ!」
キキョウが震える手で自分の顔を覆い、嗚咽を漏らす。
「……見たわ。あれは、火の力を利用して鉄の礫を筒から飛ばす……。キキョウはそこで、あの恐ろしい武器を操っていたよ……」
モリガンが顔を真っ白にして震えている。
白玉越しにその光景の断片を共有していたショータは、絶句していた。
(……間違いない。あれは戦国時代の『火縄銃』だ。キキョウの正体は、九尾に拾われる前に異世界から流れ着いた……「戦国の傭兵」だったのか!?)
「自らの世界の歴史」という重すぎる伏線に直面したショータ。
クレーターに潜むあの三人組。彼らもまた、キキョウと同じ「火縄」を持つ者たちだとすれば――。




