第八十八話:鉄の音(バレット)と、覚醒する「異物」の記憶
第八十八話:鉄の音と、覚醒する「異物」の記憶
吹き荒ぶ吹雪の中、ガイの鮮血が雪を赤く染めていく。
アーシェは絶叫しながら駆け寄り、帝国の至宝である彼の重装甲を剥がさせた。そこにあったのは、もはや魔法の範疇を超えた、無機質に肉を穿つ三つの孔。
「メディック! 止血を! 何でもいい、ガイ殿の命を繋ぎなさい!」
取り乱すアーシェ。だが、その傍らでキキョウは、膝をついたまま自分の頭を掻きむしっていた。
(……この音。この、空気を引き裂く乾いた破裂音。……知っている。……鉄砲? 鉄……砲って、何だ? この世界には、そんな言葉も概念もないはずなのに……!)
キキョウの脳裏に、九尾に拾われる前の、ノイズまみれの記憶がフラッシュバックする。
それは、夜目にも鮮やかな火花と、火薬の匂い。
自分は本当に、この世界の「くのいち狐」なのか? なぜ自分は、この『弾丸』という名の死を、懐かしいとさえ感じてしまうのか――。
『アーシェ、落ち着け! パニックになるな!』
白玉から、ショータの怒号が響く。
『ローレライ! 今すぐ広域に「沈黙の歌」を展開しろ! 敵に次の照準を絞らせるな! ……ガイの負傷は、今の布陣では致命的な「リソース(戦力)ロス」だ。全軍、即座に一時撤退しろ!』
ショータは現世での「特殊部隊の狙撃対策」を脳内で検索し、最速で最適解を叩き出した。姿の見えない、かつ「異世界の防御魔法」が通用しない攻撃。これ以上の前進は、全滅という名の「事業破綻」を招くだけだ。
「……承知いたしましたわ! 皆、私の歌の範囲から出るな! ――♪~ 闇よ、その鼓動を消し去れ!」
ローレライの悲痛な、しかし力強い歌声が周囲に魔力の霧を発生させ、視覚と聴覚を遮断する。
「……くっ、ガイ殿、死なないでください……!」
アーシェはガイを担ぎ、視界の効かない雪原の中を、敗走するように駆け出した。
「自らのアイデンティティ」さえも揺らぎ始めたキキョウ。
クレーターの主が放ったのは、単なる弾丸ではない。それは、キキョウという存在そのものを崩壊させる、「現世の残響」




