第八十八話:虚無の三連射(トリプル・タップ)と、破られた聖域
第八十八話:虚無の三連射と、破られた聖域
ショータは、天狐の社の作戦室で、歯噛みしながら『白玉』のモニターを叩いた。
(……誤算だ。あいつらのスペックなら、魔王軍の残党程度、卒なく(そつなく)いなせるはずだった。だが、あの三つの傷口と黒い花……。俺のデータベースにある「異世界の論理」が、一ミリも通用してねぇ)
現地へ飛ぶべきだったか。だが、それはあまりにリスクが高い。これまでの魔王軍のやり方ではないが、もし仮に魔王軍の真の狙いが、ショータを社から引き剥がすことにあるのだとしたら、それこそ敵の思う壺だ。しかし、情報が少なすぎる。もしかしたら、別の勢力の可能性もある。
今は正一位の結界とコンの加護を維持しつつ、遠隔で「デバッグ(修正)」するしかない。
北の凍土。クレーターを翌日に控えた野営地。
雪の冷たさとは質の違う、肌を刺すような「邪悪な気」が、焚き火の明かりさえも黒く染めようとしていた。
「……怖い。なのに、どうして……こんなに懐かしいの……」
キキョウが震える手で胸元を押さえる。彼女の脳裏に、かつて魔王軍に入る前――あるいは、この世界に現れる前の、「鉄と油の匂いがする地獄」の光景が、ノイズ混じりに再生される。
「キキョウ、しっかりして! ローレライ、彼女を後方へ――」
アーシェが叫ぼうとした、その刹那。
――パン、パン、パンッ!!
乾いた、しかし世界を物理的に弾き飛ばすような破裂音が三回。
魔力の予兆も、風を切る音すらない。ただ「結果」だけが先行した。
「ガ、ハッ……!?」
「ガイ殿ッ!?」
アーシェの隣にいたガイが、まるで見えない巨人に殴られたかのように、後方へと激しく吹き飛んだ。その胸部装甲には、あの老人と同じ、「精密すぎる三つの穴」が、白煙を上げながら刻まれていた。
「……そんな。帝国の至宝と言われるガイ殿の重装甲を、一瞬で……?」
ローレライが絶叫に近い声を上げ、白銀の髪を逆立てて魔力を練り上げる。だが、敵の姿は、影すらも見えない。
『アーシェ、動くな! 今のは魔法じゃない! 弾道計算から逆算するに、射程外からの……「狙撃」だ!』
白玉からショータの怒号が響く。
「姿なき狙撃手」という、異世界の騎士道では対処不能な最凶のバグと対峙することになった一行。
倒れたガイを庇い、アーシェが剣を構えた瞬間、黒い花が不気味に笑うように揺れた。




