第六十八話:万年一の美形清掃員「ベリさん」狂騒曲
第六十八話:万年一の美形清掃員「ベリさん」狂騒曲
「……よし。ベリさん、今日の千本鳥居のタイムは一時間フラットか。無駄のない動き(ムーブ)になってきたな」
ショータのストップウォッチが、元四天王の劇的な成長を刻んでいた。
死んだはずの悪魔ベリアルは今、天狐の社で「一万年に一人の美形清掃員・ベリさん」として、異世界全土を揺るがす超絶的な話題を振りまいていた。
早朝。朝日を背に、リリィとキキョウによる「ホスピタリティ・チェック」が始まる。
「ベリさん! 三段目の石段に塵がひとつ残ってますぅ! やり直しですぅ!」
「……了解した、リリィ殿。……私の『虚無』で、分子レベルまで消し去ろう」
かつて世界を絶望させた魔力は、今や「完璧な清掃」へと全振りされていた。二時間かかっていた参道の掃き掃除も、今や一時間。
ふぅ、と長い睫毛を伏せて息をつき、首筋を流れるキラキラとした汗を拭って、竹筒の水を飲む。
その一挙手一投足に、千本鳥居の影から覗き見る帝国中の独身女性たちから「ひゃあああっ!」「尊い……尊すぎるわベリさん!」と、地響きのような黄色い歓声が上がった。
「……ショータ。貴様、死人を客寄せパンダにして、また儲けておる(もうけておるぅ)な。……あんなに女性客が押し寄せたら、賽銭箱が重くて壊れるのだ」
コンが呆れて呟くが、ショータは現世の「タレント名鑑」を更新するような手つきでノートPCを叩く。
「これは『労働による更生』だ。……さて、お昼休憩だぞ」
お昼時。ベリさんは『新・天狐亭』の片隅にある、目立たない社員専用席で一人、天狐蕎麦を啜っていた。
高身長の悪魔が肉体労働をした後では、蕎麦一杯では到底足りない。それを見たファン(参拝客)たちが、居ても立ってもいられず、高級な菓子や特製の弁当を差し入れようと詰め寄る。
「あのっ、ベリさん! これ、私が作った……食べてくださいっ!」
「……。お気持ちだけ頂戴します。私はただの奉公人。お客様から個人的な施しを受けるわけには参りません。……失礼」
ベリさんは、ショータに叩き込まれた「コンプライアンス(規律)」を厳守し、美しく、しかし冷徹に、そして丁重にお断りを入れる。
その「仕事に一途なストイックさ」が、逆に女性たちのハートを射抜き、彼の評価はさらに「カンスト(限界突破)」してしまった。
「……あぁ。断られた時のあの氷のような瞳……。ゾクゾクするわぁ!」
「ベリさん……なんて高潔な清掃員なの!」
卒なく、しかし今や「掃除一筋の美青年」という最強のコンテンツをプロデュースしてしまったショータ。
天狐の社は、信仰とエンタメの枠を越え、全女性の憧れを一身に集める「究極の推し活聖地」へと、また一歩進化を遂げていた。




