第六十七話:四天王、死す(という名の研修期間)
第六十七話:四天王、死す(という名の研修期間)
「……よし。コンセプトは『偽装された終焉』だ。ベリアル、お前は今日からこの世に存在しない。いいな?」
稲荷山の頂上。ショータは現世の「特撮監督」のごとき手際で、大介から届いた『超強力スモークマシン』と『紅蓮のプロジェクションマッピング』を設置していた。
遠く魔王城から見れば、山頂が凄まじい炎に包まれ、天狐の社が跡形もなく焼き尽くされたように見える完璧な視覚トリック(VFX)だ。
「……ううっ。さらば、私の四天王としての栄光。さらば、私の華々しいキャリア……」
ベリアルは涙を拭いながら、ショータが用意した「死体役の身代わり人形(リリィお手製の藁人形)」に自分のマントを被せた。
「――全軍に告ぐ! 私は今、天狐の社を更地に変えた! ……だが、その代償に我が魔力も尽きた! さらばだ、魔王軍ッ!!」
ベリアルが渾身の演技で叫び、崖下(といっても安全なふかふかのクッションの上)へとダイブする。直後、ショータがスイッチを押し、山頂でド派手な爆破演出(火薬マシマシ)が炸裂した。
翌朝。魔王城には「四天王ベリアル、相打ちにて社を消滅させ戦死」という特報が届き、九尾やベルゼが(少しだけ)涙を流して彼の勇気を称えていた。
一方、天狐の社の裏手にある従業員寮。
そこには、トレードマークの豪華な衣装を脱ぎ捨て、地味な作務衣に身を包んだ美青年の姿があった。
「……。まさか、私がこの手で『トイレ掃除』をすることになるとは……」
「つべこべ言うな。今日からお前は、幽霊スタッフの見習い・ベリさんだ。死んだことになってるんだから、客に見つからないよう影から働け」
ショータは現世での「覆面調査」と、新入社員への「現場研修」のノウハウを、元四天王に叩き込んだ。
ベリアル(自称:ベリさん):Lv.1【幽霊スタッフ見習い】
(能力:『虚無の清掃』。彼が通った後は、塵一つ残らないほど無になる)
「ベリさん! そこの千本鳥居の掃き掃除、終わったら次は宿泊施設のシーツ交換ですよぉ!」
「……。了解した、リリィ殿。……これが、私の『第二の人生』……いや、『死後の奉公』か……」
キキョウが影から見守る中、元四天王は慣れない手つきで箒を動かす。
ショータの狙いは明確だった。魔王軍の内部事情を熟知した「死人」を確保し、社の警備と清掃の質を卒なく底上げすること。
卒なく、しかし今や「魔界の英雄」を死んだことにしてまでパシリ……もとい、即戦力として雇用したショータ。
天狐の社は、死者すらもこき使う「異世界最強の労働環境」へと、また一歩進化を遂げた。




