第六十六話:四天王の駄々こねと、山頂の「偽装割腹」
第六十六話:四天王の駄々こねと、山頂の「偽装割腹」
「……それで、相談というのはなんだ。ベリアル」
正一位の神々しさを(形だけは)纏ったコンが、お祓いの祭壇の前で静かに問いかけた。
すると、それまで項垂れていたベリアルが、弾かれたように立ち上がり、ショータを指差して叫んだ。
「あの不可侵条約だ! あれは……あれは私がベロンベロンに酔っていた時のものだ! 酒の勢いでの署名など、法律的……いや、魔界法的にノーカウントだっ!」
「……おい。往生際が悪いぞ。血判まで押して、魂に刻印されてるんだ。今さら『酔った勢い』なんて言い訳が通じるか」
ショータはノートPCの画面から目を離さず、冷徹に契約書の写しを提示した。有効期限、永久。解除条件、なし。
「そう、ノーカウントだ!...ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン!」
聞く耳を持たず、子供のように地団駄を踏む四天王。もはや美青年のプライドなど塵一つ残っていない。
「……攻めれば契約違反で肉体が滅びる! 攻めなければ魔王様に『無能』として消される! 右を向いても左を向いても死しかないではないか! ……もういい、こうなったら稲荷山の頂上で割腹してやる! 私が見事に果てたと、魔王城に伝えてくれぇっ!」
ベリアルはついにその場に泣き崩れ、嗚咽を漏らし始めた。その情けない姿に、リリィやキキョウも
「……四天王の威厳、ログアウトですぅ」「……見てられない」と目を逸らす。
「……。ふぅ、分かった。泣き止んで鼻をかめ」
ショータは呆れ果てた溜息をつき、ようやくPCを閉じた。
「要するにだ。……『社を攻めなければいい』し、『魔王に消されなければいい』。この二つが両立すれば、お前は満足なんだな?」
「……えっ? あ、あぁ。……そうだが、そんな都合の良い『卒のない』解決策があるのか?」
「……あるよ。お前が『更地にした』という既成事実を、俺がプロデュースしてやる」
ショータの瞳に、かつて現世のコンプライアンスの隙間を縫って契約を成立させてきた、不敵な光が灯った。
卒なく、しかし今や「四天王の偽装工作」を請け負うことになったショータ。
稲荷山の山頂で繰り広げられる、異世界最大の「虚偽報告プロジェクト」が動き出そうとしていた。




