第六十一話:勝利の領収書と、世界への「特報」
第六十一話:勝利の領収書と、世界への「特報」
「……よし。契約書は回収、血判の定着も確認。……撤収だ」
泥酔して椅子から滑り落ちそうなベリアルを背に、ショータは現世の「商談成立後のスマートな退去」を体現していた。
ここは敵の本拠地、魔王城。多勢に無勢であることは百も承知だが、新四天王の一角を「不可侵契約」という名の鎖で縛り上げた戦果は、文字通り値千金だった。
「ベリアル殿がお休みになられた。後日、正式な『アフターフォロー』に伺うと伝えておけ。お土産の酒も追加発注しておいてやるからな」
ショータは門兵の悪魔たちに余裕たっぷりの営業スマイルを振りまき、堂々と魔王城の門をくぐり抜けた。その背後には、常に周囲を警戒し、万が一の際には城ごと叩き伏せる構えを見せていたアーシェ、キキョウ、ローレライが、音もなく後に続く。
「……ショータ殿。本当に、紙一枚で四天王を無力化してしまったのですな。私の剣を抜く隙もありませんでしたわ」
アーシェが感嘆の溜息を漏らす。ローレライも白銀の髪をなびかせ、冷静に頷いた。
「主の『毒』は、刃よりも深く、確実に浸透しますから。……お見事です」
「正当な営業活動の結果だよ。……さあ、リリィ。白玉(ビデオ通話)を開け。各方面へ『一報』を流すぞ」
帰還の道中、ショータは即座に広報戦略を開始した。帝都のバドやエドワード王子には『四天王ベリアルとの不可侵条約締結』を報告。さらに、同盟国エストレア王国のアリア王女や、アーメリア共和国にも超高速通信で詳細を共有した。
『――なっ!? あの精神汚染の怪物ベリアルを、書類一枚で無力化したのですか!?』
白玉から聞こえるアリア王女の驚愕の声。それもそのはず、魔界で新鋭のベリアルを無傷(実は苦戦していたが)で不可侵条約を結んだのだから。
「……さて。コン、戻ったらお祭りだ。『ベリアル攻略・大契約記念祭』のお触れを出せ。全メニュー半額、勝ち守りのセット割引。……勝負に勝って、商売でも勝つ。これがプロデューサーの流儀だ」
社に戻ったショータを待っていたのは、留守を預かっていたヴァハ、看板娘たちの歓声だった。
「ショータさん! おかえりなさい! 宴会の準備、もう始めてますよぉ!」
卒なく、しかし今や「魔王軍の牙」を一本ずつ、確実に抜き去り始めたショータ。天狐の社は、かつてない勝利の熱気に包まれ、異世界全土を巻き込む「史上最大の祝賀祭」へと突入しようとしていた。




