第六十二話:天狐の夜宴と、次元を越えた「感謝状」
第六十二話:天狐の夜宴と、次元を越えた「感謝状」
「……よし。回転率、客単価、顧客満足度……すべて想定を上回る。完璧な『お祭り』だな」
天狐の社の境内は、勝利と平和を祝う数万の民の熱狂に包まれていた。
帝都からはエドワード王子夫妻も駆けつけ、元、町娘の妃・リサは「キキョウさん! お久しぶりです!」と再会を喜び、かつての「縁結びエージェント」とガールズトークに花を咲かせている。
広場の中央では、アーシェとガイが両国の騎士団を引き連れ、豪快な飲み比べの真っ最中だ。
「ガイ殿……今日は、負けませんわよ! ――お代わりですわ!」
「ははっ、受けて立とう、アーシェ! ……おい、誰かチェイサー(水)を持ってこい!」
赤ら顔で笑い合う二人の距離は、もはや戦友を越えた「いい感じ」の空気を醸し出していた。
特設ステージでは、モリグナー三姉妹が、今日はしっとりしたバラードではなく、腹に響くヘヴィでロックな新曲を披露。観客は拳を突き上げ、地響きのような大歓声が社を揺らす。
「……賑やかだな。まるであの、石段から落ちた日の秋祭りみたいだ」
ショータは拝殿の欄干にもたれ、その光景を静かに眺めていた。隣ではコンが、油揚げを片手に満足げに頷いている。
「ふふん! 我の社が、世界で一番の『居場所』になったのだ。ショータ、貴様のおかげなのだ!」
「……ああ。……。なぁ、コン。柄じゃないけどさ……。ここへ来られて、良かったよ。ありがとうな」
不意に、ショータが口にした素直な言葉。
「……っ!? な、何を、急に……! 照れるではないか、この……この、不届き者がぁーっ!」
コンは顔を真っ赤にして尻尾をバタバタとさせ、激しく動揺してしまった。敏腕プロデューサーから「デレ」を食らうなど、彼女の想定にはなかったのだ。
その時、ショータの懐の『白玉』が、かつてないほど温かな光を放ち始めた。
『――よぉ、ショータ! 祭りの最中か? 何かそっちでいい事あったのか?』
現世の親友、大介の声だ。
『こっちの稲荷神社も、最近なぜか参拝客が倍増しててさ。ボロだった拝殿が、不思議と輝いて見えるんだよ』
「……平和そのものだよ、大介。見てろ、これが俺の『最新の仕事』だ」
ショータは白玉のカメラを回転させ、多種多様な種族が笑い合い、踊り狂う異世界の宴を映し出した。
『……へぇ。すげぇな、お前。……。良かったな、ショータ。お前、現世にいた時より、ずっと良い顔してるぜ』
大介の感慨深い声が、風に乗って消えていく。
卒なく、しかし今や「二つの世界」に幸せを還元し始めたショータ。
秋祭りの夜は更けていくが、彼のプロデュースする物語は、まだ終わりの見えない輝きに満ちていた。




