第五十七話:カタルシスの夜明けと、不退転の「攻勢営業」
第五十七話:カタルシスの夜明けと、不退転の「攻勢営業」
現実世界の石畳の上、ショータの瞼が力強く跳ね上がった。
「……っ、はぁ、はぁ……!」
「ショータ殿! 目を覚まされましたか!」
真っ先に駆け寄ったのはアーシェだった。だが、彼女はショータの顔を見て息を呑む。その目は、夢幻の世界で流した涙のせいで、隠しようもなく真っ赤に腫れ上がっていたからだ。
「ショータさん、大丈夫ですかぁ……? お目々、真っ赤っかですよぉ」
ヴァハとネヴァンが、心配そうにハンカチを差し出す。ローレライもその白銀の髪を揺らし、安堵と懸念の入り混じった眼差しで彼を見守っていた。
「……あぁ、大丈夫だ。……モリガン、お前の歌、『カタルシス効果』抜群だったよ。……最高だ」
ショータは小さく笑い、隣で誇らしげに胸を張る幼女モリガンの頭を撫でた。
(……メンタルコントロールも、社会人としての基本だってのにな。……俺の弱点だ。意味は分かってるつもりだったが、俺自身、まだまだ未熟だったってことか)
自嘲気味に呟いたショータの瞳には、かつての虚無感など微塵も残っていなかった。戻ってきたのは、研ぎ澄まされた「正気に満ちた意志」。
「さて、いつまでも感傷に浸ってる暇はない。……おい、コン! リリィ、キキョウ! いつまで転がってんだ、営業開始だぞ!」
ショータは、まだベリアルの呪いで「働きたくないですぅ……」と泥のように眠っている三人の尻を、容赦なく叩き(物理的な気合注入)始めた。
「……んんっ、ショータ?....い、今!どどど、どこを触ったのだ...!...んん? なんだか、ものすごく怖い顔をしておるのだ! 決算か!? 差し押さえが来たのか!」
飛び起きたコンの横で、リリィとキキョウも「ひぇぇ!」と飛び上がる。ショータの放つ圧倒的な「圧」が、ベリアルの残滓を力ずくで吹き飛ばしたのだ。
「いいか、全員。……待ちはしない。今度はこちらから魔王軍に『営業』をかけるぞ」
「え、営業……? 討伐ではなくか?」
「ああ。あのアホ(ベリアル)のせいで、うちの社の営業利益に損害が出たんだ。たっぷり『慰謝料』と『広告契約』を毟り取ってやる。……魔王の喉元に、うちの『サービス(信仰)』を突きつけに行くぞ」
今や「自らの弱さ」を認めたことで、無敵のプロデューサーとなったショータ。
天狐の社のフルメンバーによる、魔王軍本拠地への「強行営業(殴り込み)」。
異世界の歴史が塗り変わる、最大にして最速の反撃が、今、始まった。




