表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『飽き性な俺の器用貧乏、異世界で「神の模倣者」へと至る 〜3ヶ月で極めて捨てる生活を卒業し、天狐様と終わらないクエストへ〜』  作者: A古町
第1部 第1章Celestial Fox

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/650

第五十六話:親友の残像と、零れ落ちた「後悔」

第五十六話:親友の残像と、零れ落ちた「後悔」


「……あぁ。いい歌だな、モリガン」


 無機質なアスファルトと、色のない雑踏。その中で、幼きアイドルの歌声だけが黄金の粒子となって舞い上がっていた。ショータは石段に腰を下ろしたまま、その旋律に静かに耳を傾けていた。ベリアルの呪いが作り出した「無価値」の檻。その強固な壁に、微かな亀裂が入る。


 その時だった。


 人混みの向こうから、一人の男がひょっこりと現れた。


「……大介」


 現世の唯一の理解者。今は社の『白玉』を通じてしか話せないはずの親友が、そこにはいた。大介は何も言わず、ただ当たり前のようにショータの隣に座った。


 二人は肩を並べ、モリガンの歌を聴く。大介はリズムに合わせて軽く膝を叩き、ショータはただ、その実在しない体温を感じていた。


 やがて、モリガンの歌声が最後の一節を終え、世界に静寂が戻る。


 大介は立ち上がると、ショータの方を向き、いつもの悪戯っぽく、それでいて全てを肯定するような笑顔で「ニッ」と笑ってみせた。


 そのまま、朝霧が晴れるようにスウっとその姿は消えていった。


「…………っ」


 その瞬間、ショータの胸を埋め尽くしていた「既視感」という名の防壁が、音を立てて崩壊した。


 現世でドブに捨ててきたニート時代の虚しい時間。

 すべてを「卒なく」こなすことで逃げてきた、必死さのない自分。


 そして、ベリアルの術に嵌まって、せっかく手に入れた「異世界の仲間」との時間を無価値だと切り捨てようとした、今の自分。


 それらすべてが、凄まじい「後悔」となってショータを襲った。


「う、ぁああああ……っ! ああああああ!!」


 ショータは顔を覆い、子供のように号泣した。


 ランクアップした【異世界プロデューサー】の理性も、営業マンの仮面も、今はどこにもない。ただ一人の人間として、己の弱さと、それを見捨てなかった仲間たちの温かさに、声を枯らして泣きじゃくった。


 ひとしきり泣き明かし、腫れた目を擦りながら、ショータは隣で心配そうに覗き込んでいたモリガンを見上げた。


「……悪い。……今の、俺が泣いてたところ、誰にも言うなよ」


 照れ隠しのような、それでいて清々しい笑み。

 その瞳には、かつての虚無感は一ミリも残っていなかった。戻ってきたのは、何万倍にも研ぎ澄まされた「正気に満ちた意志」。


「さて、モリガン。……うちのタレントを泣かせた『不届きな客』に、特大のキャンセル料を請求しに行こうか」


 「自らの感情」さえもエネルギーに変えたショータ。

 夢幻の殻を内側から食い破り、異世界最強の支配人が、ついに覚醒の時を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ