第五十五話:鉄の街の迷子と、魂の共鳴(リフレイン
第五十五話:鉄の街の迷子と、魂の共鳴
「……モリガン様。必ず、あの方を連れ戻して。……信じておりますわ」
ローレライが銀銀の髪を振り乱し、聖域を維持する魔力の歌を紡ぎ出す。その調べに乗せて、幼きモリガンの意識はショータの精神の深淵――記憶へとダイブした。
「……っ、な、なにこれぇ……。空が見えないですぅ……」
目を開けたモリガンは、恐怖に身をすくませた。
天を突くガラスと鉄のビル群。不気味な音を立てて走る鉄の箱。そして、無機質な顔をして濁流のように流れる人の波。異世界の女神である彼女にとって、そこは魔界よりも冷酷で、色のない「虚構の世界」だった。
その雑踏の中、彼女は一人の青年を見つけた。
コンビニの袋を提げ、死んだ魚のような目で歩くショータだ。
「ショータお兄ちゃん、モリガンですよー!」
駆け寄り、その服の裾を掴む。だが、ショータは反応しない。その瞳にはモリガンの姿すら映っていないかのように、ただふらふらと、ベルトコンベアに乗せられた製品のように歩き続ける。
やがて、彼は喧騒を離れ、古びた稲荷神社の石段へと辿り着いた。
秋祭りの提灯が力なく揺れる中、彼は拝殿の脇に腰を下ろす。その表情は、ベリアルの呪いによって増幅された「究極の無気力」。
「……。何しに来たんだ、お嬢ちゃん。……ここは、何もない場所だぞ。俺も、あんたも、ただの既視感の残骸だ」
虚ろな声。かつて自分の絶望を「卒なく」論破し、新しい居場所をプロデュースしてくれたあの力強い輝きは、どこにもなかった。ショータの心は、自分自身の「飽き性」という名の闇に閉じ込められていた。
「……うぅ。……怖い。こんなショータさん、見たくないです...グスッ...」
モリガンは泣き出しそうになった。だが、彼女の脳裏に、泥まみれになりながら「マイクを持て」と言ってくれたあの時のショータの真剣な横顔がフラッシュバックする。
(……ショータさんは、私を助けてくれた。……今度は、私がプロデューサーになる番だもん!)
モリガンは涙を拭い、震える足で立ち上がった。
鉄の街の排気ガスを吸い込み、喉を整える。
そして、この「無価値な世界」を塗りつぶすように、彼女は全霊を込めて歌い始めた。
「――♪~」
それは、社のステージで学んだ、誰かを「期待させる」ための歌。
色のない現世の風景に、黄金の火花が散り始める。
「自分を救った恩人」のために。
幼きアイドルの歌声が、ショータの凍りついた「既視感」を溶かし、精神世界の殻を内側から叩き壊そうとしていた。




