第五十四話:眠れる支配人と、幼きアイドルの
第五十四話:眠れる支配人と、幼きアイドルの出陣
「……ショータ殿! 目を覚ましてください! 今、貴方が倒れては、この社を守る絆が崩壊してしまいます!」
白銀のマネージャー、ローレライが、横たわるショータの肩を掴んで必死に揺さぶる。
しかし、ショータの瞳は虚空を見つめたまま、深い「既視感」の夢幻の中に沈み込んでいた。現世の退屈、異世界の空虚。ベリアルの呪いは、ショータの合理的すぎる思考を逆手に取り、「無価値」という名の鎖で彼を縛り付けていた。
「ローレライ。……これ、誰がやったの?」
足元で、幼子となったモリガンが、震える声で問いかけた。その瞳には、かつての破壊神としての鋭い光が微かに宿っている。
「……確証はありませんが、近頃魔界を騒がせていた新鋭の悪魔、ベリアルの仕業かと思われます。奴の『虚飾の安息』に当てられた者は、魂の火が消え、ただ安らかな死へと向かう……。このままでは、コン様もリリィさんも、二度と立ち上がれなくなります」
境内には、絶望と混乱が広がっていた。プロデューサーという「司令塔」を失い、各国の使節や避難民たちがざわつき始める。
「私が……私が魔界へ潜入し、そのベリアルを討ちましょう! この剣術、聖者様に教わった全てを賭けて!」
アーシェが剣を抜き、殺気立つ。ガイ率いる帝国騎士団、そしてエストレア、アーメリアの連合軍と共に、今すぐ魔王城へ全面戦争を仕掛けるべきか――。
武力による強行突破か、あるいは闇への潜入か。社始まって以来の「プロデューサー不在」の大混乱。
議論が紛糾し、誰もが焦燥に駆られていたその時。
「――みんな、うるさーい!」
幼いモリガンが、凛とした声で一喝した。
彼女はショータの胸の上に小さな手を置くと、まっすぐにローレライを見上げた。
「……ローレライ、アーシェ。そのベリアルとかいうのを倒しても、ショータさんの『心』が起きてなきゃ意味ないよ。……私が、行く。あのお兄ちゃんを迎えに行ってくる!」
「モリガン様!? まさか、ショータ様の『夢幻』へ入るおつもりですか!?」
ローレライが息を呑む。それは一歩間違えれば、自身の精神までもが虚無に飲み込まれる禁忌の術。
「大丈夫! 私は『モリグナー』のセンターだもん! ショータさんが教えてくれた『みんなを期待させる力』、今度は私が見せてあげるんだから!」
今や「自らの意志」で一歩を踏み出した小さな女神。
ショータを救い出すための、精神世界への「緊急プロデュース」が、今、始まった。




