第四十七話:純真の歌声と、献身の暴走
第四十七話:純真の歌声と、献身の暴走
降り頻る雨を切り裂くように、幼きモリガンの歌声が響き渡った。
「――♪~」
かつて魔王軍四天王次席として「狂気」を振り撒いたモリガン。だが、退化したその小さな喉から溢れ出すのは、驚くほど澄んだ、純真そのものの旋律だった。
続いてヴァハとネヴァンが、震える手を握り合いながらコーラスを重ねる。
正一位の社の霊力と、三姉妹の根源的な魔力が共鳴し、戦場に柔らかな光の粒子が舞い踊る。世界を無に帰そうとしていたアザトースの巨躯が、まるで深い眠りに誘われるかのように、その動きを決定的に鈍らせた。
「……効いているのか!? 破壊神の処理速度が落ちているぞ!」
ショータは【異世界プロデューサー】の視界で、アザトースの魔力波形が「攻撃」から「沈静」へと書き換わっていくのを捉えていた。
しかし、それだけでは足りない。
アザトースはあまりに巨大すぎた。一度動き出した「無」の慣性は、幼き歌声だけでは完全に停止させるには至らない。再び闇の右手が、ゆっくりと、しかし確実に振り上げられる。
「……やはり、私が……。私が始めたことなのです」
アザトースの肩の上。歌を止めていたローレライが、悲壮な決意を瞳に宿して立ち上がった。彼女の全身から、命の灯火を削るような青白い魔力が噴き出す。
「モリガン様、ヴァハ様、ネヴァン様……。貴女たちの自由な未来は、このローレライが命に代えても繋ぎ止めましょう!」
「おい、待て! ローレライ、早まるな!」
ショータが叫ぶ。彼女は自分の魔力をアザトースの核へ逆流させ、自爆に近い形で無理心中を図ろうとしていた。現世の言葉で言えば、「最悪の損切り(心中)」だ。
「ローレライ! やめてぇ! 一緒に歌いたいって言ったのに、いなくなっちゃダメぇ!」
モリガンの絶叫。しかし、ローレライの魔力は既に暴走の臨界点に達しようとしていた。
「……。チッ、どいつもこいつも『自分勝手』な情熱ばっかり持込みやがって……!」
ショータは歯噛みしながら、白玉を高く掲げた。
「コン、リリィ、キキョウ! ローレライの魔力暴走を『中継』しろ! 彼女の命を燃やすんじゃなく、社の『信仰心(電力)』を流し込むんだ! 『命の使い捨て(デス・マネジメント)』なんて、俺のプロデュース理論には存在しない!」
卒なく、しかし今や「自分を犠牲にする愛」すらも論破しようとするショータ。
絶望の心中か、それとも奇跡の共演か。
雨の戦場は、一人の側近の命を懸けた、最後の「契約改定」の瞬間を迎えようとしていた。




