第四十六話:不協和音の終焉と、拒絶
第四十六話:不協和音の終焉と、拒絶
降り頻る雨の中、戦場には場違いなほどに美しく、しかし悲痛なメロディが響き渡っていた。
アザトースの肩の上、ローレライは魔力を込めた歌声で巨大な災厄を操り続けていた。
「……消えなさい、すべて! これが、あの方たちの誇りを取り戻す唯一の道なのです!」
だが、その歌声には迷いがあった。主君を想うがゆえの独善、そしてショータに突きつけられた「彼女たちの真の望み」への疑念。不協和音となった魔力はアザトースを混乱させ、その巨躯を鈍らせる。
「今だ! 全軍、足を止めさせるな! 物理が効かなくとも、手数は緩めるな!」
ショータの指揮下、各国の騎士や傭兵たちが蟻のようにアザトースの足元へ群がり、一斉攻撃を仕掛ける。
怒り狂ったアザトースが、すべてを無に帰す闇属性の右手を振り上げた。本来なら、その手をかざしただけで山一つが消滅する絶望の一撃。
「――させるか! 正一位の意地、見せてやるのだ!」
コンが白玉の全エネルギーを解放し、空を覆う巨大な光の幕『天翔ける白狐のカーテン(あまかけるびゃっこのかーてん)』を展開した。
凄まじい衝撃。闇と光がぶつかり合い、空間が軋む。コンは鼻血を出しながらも結界を維持したが、アザトースの「無」の権能の前では、物理的な反撃は一切通じない。戦場は、雨音だけが支配する絶望的な膠着状態に陥った。
「……ああ、あぁ……!」
ローレライは雨に打たれ、喉を枯らして歌い続ける。その時だった。
「――やめてぇーッ!! ローレライ、お願いだから、もうやめて!!」
戦場を切り裂く、幼くも力強い叫び。
そこには、魔王城を密かに抜け出し、泥まみれになりながら駆けつけたモリガン(幼女)と、彼女を支えるヴァハ、ネヴァンの姿があった。
「……モリガン様!? なぜここに! 貴女たちの雪辱は、このローレライが必ず……!」
「頼んでない! 誰もそんなこと頼んでないよ!」
幼いモリガンは、自分よりも巨大な破壊神を見上げ、涙を拭って言い放った。
「ローレライは大好きだけど、勝手に決めるのは大っ嫌い! 私は、自分のやりたいことは、自分で決めるんだもん!」
その言葉は、ローレライが数百年かけて築き上げてきた「過保護な忠誠心」を、根底から粉砕した。
ショータの言う通りだった。自分は彼女たちの可能性を信じるのではなく、自分の「理想の主君」に閉じ込めていただけなのだと。
ローレライの歌が、ぷつりと途切れた。
魔力の供給源を失ったアザトースの右手が、重力に負けるように力なく垂れ下がる。
「……あ、あぁ……私は、なんてことを……」
歌を止めたローレライの膝が折れる。
卒なく、しかし今や「主従の絆」さえも再定義させたショータ。
沈黙した破壊神を前に、ショータは最後の一手……「戦後処理のプレゼン」の準備を始めていた。




