第百二話:防弾の聖域と、虚無の「活け花」
第百二話:防弾の聖域と、虚無の「活け花」
「……よし。防弾プレートの『耐弾試験』は合格だ。だが、守るだけじゃ『勝機』は掴めない。……リリィ、白玉の秘匿回線を開け。……ある『クライアント』へ、特急の営業をかける」
天狐の社の作戦室。ショータはモニター越しに、アーシェの防弾チョッキが火縄の礫を弾き返す瞬間を確認した。だが、彼の視線はさらに先、戦場を俯瞰する大きな盤面を見据えていた。
一方、市街地の最前線。
果心居士が操る「幻影の骸兵」が、泥の津波のように城壁を乗り越えてきた。
「一兵たりとも通すな! ここが帝都の、聖域の防波堤ですわ!」
アーシェが叫び、白銀の剣を振り下ろそうとした、その刹那。
「――ひ、ふ、み」
本陣に座す天海の冷徹な号令。三つの火縄の礫が、正確にアーシェの胴体を射抜いた。凄まじい衝撃にアーシェの体が後方へ押し出されるが、彼女は歯を食いしばり、石畳に剣を突き立てて踏みとどまった。
ショータが施した『天狐の加護付き防弾チョッキ』。その強化セラミックと神の加護が、物理法則を歪める「弾丸」のエネルギーを卒なく分散させていた。
「……ほう。あのフルマジックジャケット(魔導コーティング弾)の礫を、その身一つで防いで見せたか」
本陣で天海が眉を顰める。彼の計算にない「防御の最適化」が、戦場に小さな、しかし決定的な狂いを生じさせていた。
乱戦の最中。黒馬に跨り、大太刀を縦横無尽に振るう呪いの将、隼人正。彼が振り撒く黒百合の呪いが戦場を絶望に染めようとした時、その前に一人の男が立ち塞がった。
「……趣味が悪いな、その黒い花」
作務衣の袖を捲り、虚無の槍を構えたベリさんだ。あの日、酒の勢いで失ったプライドを取り戻すかのように、一万年に一人の美形清掃員から「元四天王」の貌へと戻っていた。
「……活け変えてやろうか。……もっと平和な、チューリップにでもな」
「……貴様、何者だ。その魔力、ただの清掃員ではあるまい」
隼人正が黒百合の呪光を大太刀に宿し、ベリさんを睨み据える。
「自らの誇り」を懸けた一騎打ち。
ショータの「謎の交渉」と、ベリさんの「清掃の極致」。
二つの理が、天海の完璧な軍略を、少しずつ、確実に侵食し始めていた。




