第百一話:虚空の三位一体と、白銀の「一騎打ち」
第百一話:虚空の三位一体と、白銀の「一騎打ち」
帝国領の最終防衛ライン。古き良き石造りの街は、今や「蒼い桔梗」の旗印に完全包囲されていた。
地平線を埋め尽くすのは、生気のない足取りで進軍する「骸の兵」。その背後、本陣の床几に腰を下ろした天海が、不敵な笑みを深く刻んだ。
「……遅い、遅い。ようやくプロデューサー殿の兵のお出ましか。……果心居士よ、そなたの幻術を骸の兵に上書きし、街へ突入させよ。その後に我が魔銃列隊の援護射撃を放つ」
杖を突いた老人、稀代の幻術師・果心居士が地を叩くと、骸の兵たちが数倍の巨体に見える「幻影の鬼」へと変貌し、咆哮を上げて城壁へと殺到する。
「……隼人正(はやとのしょう・佐々成政)。そなたはその黒百合の呪いを戦場にばら撒け。骸と魔銃列隊の士気を最大に引き上げるのだ」
「承知した!」
兜に黒百合を挿した漆黒の武者・隼人正が、黒い愛馬を嘶かせた。彼から放たれるどす黒いオーラが、戦場全域に「痛覚喪失」と「狂乱」のバフを振り撒いていく。
防衛線を死守するアーシェと騎士団の前に、地獄の如き波状攻撃が押し寄せる。
「……っ! 怯むな! ショータ殿の防弾プレートを信じるのですわ!」
混戦の中、アーシェはふと気づく。……キキョウの姿がない。だが、あの誇り高き忍びが逃げるはずがない。今は彼女の「影の仕事」を信じるしかない。
「……姉さん。……いや、アーシェ殿。……私に、あの黒い騎馬武者をやらせてくれ」
横に並んだのは、作務衣を脱ぎ捨て、かつての四天王の威圧感を取り戻したベリさんだった。その手には、虚無の魔力で研ぎ澄まされた長槍。
「ベリさん!? 相手はあの呪いの源ですわよ!」
「……分かっている。……掃除の邪魔なんだよ、あの禍々しい花(黒百合)は。……私が奴を『一騎打ち』で引き剥がす。……後はお前に任せたぞ、帝国一の騎士様」
ベリさんは返事も待たず、虚無の霧を纏って城壁から飛び降りた。
一万年に一人の美形清掃員から、再び「四天王」へと立ち戻った男の、文字通り命を懸けた「クリーンアップ(清算)」が始まった。




