第百話:軍略の誤算(ミス)と、決意の「最前線」
第百話:軍略の誤算と、決意の「最前線」
「……チッ。完敗だ。俺の『拙速』を、奴の『電撃戦』が上回ったか」
天狐の社の作戦室で、ショータは苦い表情を浮かべた。現世のビジネスで培った「スピード感」は、軍事のプロ――それも歴史に名を刻む軍略家である天海にとっては、児戯に等しかった。兵法を熟知し、死霊術による「疲労知らずの行軍」を組み合わせた天海の進撃は、ショータの想定を遥かに越える速度で北の村々を飲み込んでいた。
痛恨のミス。だが、ショータは即座に「損害限定」に舵を切った。
帝国とセントケベックの中間地点にある主要都市。ここはまだ無傷だ。各国の救援隊が到着し、サグネー議長を含む生存者たちの帝都への護送が開始される。
「ゼル副官、ここが最終防衛ラインですわ。帝国騎士団と我がエストレア騎士団で、この前線を死守します!」
アーシェが白銀の剣を掲げ、防弾チョッキの感触を確かめる。その隣では、汚名返上に燃えるベリさんが、虚無の魔力を箒――ではなく、実戦用の長槍へと纏わせていた。
「……掃除の時間は終わりだ。これより、害虫の駆除を開始する」
一方、キキョウだけは、騒乱の影で何かを凝視するように、北の空を睨んでいた。その瞳には、不安と共に、かつての忍びとしての「獲物を狙う」冷徹な光が宿っている。
一方、本拠地である天狐の社。
ここもまた、「総力戦」の布陣へと組み替えられていた。ローレライとモリグナー三姉妹は、帝都の守備強化と負傷兵を受け入れる大規模救護所の設営のため、物資を積んで帝都へと出立した。
改修と拡張を終え、かつてない広さを誇る社に残ったのは、初期メンバーであるショータ、コン、リリィの三人だけ。
「……静かになったな。リリィ、白玉の感度を最大にしろ。……コン、お前の『祈り』を無線で前線の防弾チョッキに飛ばし続けろ」
「承知した! 留守番の意地、見せてやるのだ!」
「天才の軍略」という巨大な壁に直面したショータ。
前線に立つ戦士たちと、社でシステムを支えるバックアップ。
異世界の運命を賭けた、最大かつ最悪の「防衛プロジェクト」が、真の山場を迎えようとしていた。




